青山学院大が4連覇を達成する
   満を持して復路で逆転!

 

 駅伝はレースをやってみなければ分からない。
 だから面白い。
 青学の4連覇なるかどうか。レースのはじまる前、今年の青学は昨年ほど強さがないというのがもっぱら。出雲、全日本と東海、神奈川というライバルに寝首を掻かれて、それほどの勢いは感じられなかった。黄金世代が中心の東海、神奈川は全日本を余勢を駆って山藤篤司、鈴木健吾、越川堅太という主力を往路にならべてきた。順天堂も往路に主力を投入して往路優勝をとりにきていた。
 だが……
 往路は波乱の連続でおもしろかった。
 波乱その1は当日のメンバー変更……。
 往路メンバーの変更で東海大は1区に登録していた關颯人をひっこめて、三上嵩斗を投入してきた。1区のカギを握ると思われた關の欠場で、1区の展開はまるで見えなくなってしまったのである。これで速い流れにならない。シメシメと思ったチームもあっただろう。
 だが1区のペースは速かった。1㎞=2:52である。順天堂大の栃木渡、青山学院大の鈴木塁人、国学院大の浦野雄平、東海大の三上嵩斗らが先頭を引っ張った。5㎞も14:37と相変わらず速かった。10㎞=29:21で20チームの大集団だった。15㎞=44:19という相変わらずハイペースで進んだ。
  勝負どころとみたのか六郷橋のまえ17㎞あたりで青山学院大・鈴木が一気に前に出てきた。レースが動いたのは18㎞すぎだった。六郷橋の上りで東洋大の西山和弥がスパートして一気に抜け出した。駒澤大の片西景、日本体育大の吉田亮壱、国学院大の浦野雄平、東海大の三上、青山学院大の鈴木らがつづいたが、集団を終始引っ張ってきた順天堂大の栃木はここれ遅れをとった。西山はその差をじりじりとひろげて独り旅、そのままトップでタスキをリレーした。
 2位に14秒遅れで国学院大、16秒遅れで3位に駒澤大、続いて24秒遅れで日本体育大、青山学院大は25秒遅れ、神奈川大は28秒遅れ、東海大は32秒遅れでつづき、順天堂は36秒遅れの10位だった。

 

 2区にっはいってトップの東洋大の相澤晃は余裕に走りで逃げた。ライバルの青山とは25秒、神奈川とは28秒、東海とは32秒ものアドバンテージがあった。後ろからは神奈川の鈴木健吾がやってきて、青山学院大の森田歩希、駒澤大の山下一貴とともに3位集団で追走、3㎞手前では国学院大・向晃平に追いついてしまう。さらに東海大・阪口竜平もくわわわって2位集団となる。だが東洋の相澤との差はつまらない。むしろ7㎞では34秒差にひらいてしまい、2位集団から駒澤大・山下と国学院大・向が遅れて5位争い。その後ろからは順天堂大の塩尻和也と、早稲田大の太田智樹がやってきて5位集団を捉えようとしていた。さらに後ろからは13位発進の拓殖大のワークナー・デレセ、同17位の山梨学院大・ニャイロが並走で順位をあげてくる。
 2位集団から最初にこぼれたのは東海の阪口、権太坂で遅れていった。拓殖大・デレセ、山梨学院大・ニャイロの追い上げはとまらず、13㎞すぎで順天堂大・塩尻、早稲田大・太田をとらえ、5位集団は4人となる。ニャイロはここまで12人抜きである。
 15㎞は快走する東洋大・相澤が43:29秒で通過、40秒差で青山学院大・森田と神奈川大・鈴木が通過。そこから21秒遅れで東海大、続いて4秒差で順天堂大、早稲田大、拓殖大、山梨学院大の5位集団がつづいた。
 18㎞になってもトップを快走する東洋大・相澤と青山の森田、神奈川の鈴木との差はつまらない。20㎞をすぎて青山の森田が2位集団から抜け出し、鈴木は力つきてしまった。 

  波乱その2……
 神奈川の鈴木の失速……
 鈴木はそれなりに力を発揮していたが、昨年ほどの爆発力はなく、東洋を追い切れず、青山の森田にまであおられてしまった。
 森田は懸命に東洋・相澤を追い、その差は少し縮まりはじめる。だが追い切れなかった。……
 結果、東洋大・相澤が1時間7分18秒という好タイムでトップ通過。2位には22秒差で青山学院大・森田、さらにそこから15秒遅れで神奈川大・鈴木がたすきをつないだ。4位には13人抜きの山梨学院大・ニャイロが飛び込んだ。東海大はここで1:40遅れの7位、順天堂大は塩尻が伸びず、2:11遅れの10位となった。

 神奈川が思ったほど伸びてこない。東海大にたっては2区で大差がついてしまった。順天堂はすでにして圏外である。ならばトップ東洋大との差22秒、エース田村和希を要する青山学院にとってはお誂え向きの展開になった。

 

 果たして3区。東洋大・山本修二は最初の1㎞=2:42という速いペースで入った。青山の田村和希もハーペース、5㎞=14:07秒である。遊行寺坂では先頭まで12秒差となった。湘南海岸沿いの国道134号線に出たところでは7秒まで詰まった。だがそこから追い切れなかった。

 波乱その3……
 青山の田村が東洋に逃げられたこと。
 逆にその差はひらきはじめ18㎞では28秒差になっていた。その後も差はひらく一方で、戸塚中継所のときよりもひろがり、中継所では46秒になっていた。続いて3位にやってきたのは早稲田の光延誠でトップから2:38秒遅れ、神奈川は2:40遅れ、東海は8位で3分以上も遅れてしまった。

 

 追われるどころか逆に突き放した東洋大の4区は1年生の吉川洋次、追う青山は昨年もこの区間を走った梶谷瑠哉であった。東洋は完全に流れに乗ったというべきか。吉川が快調に飛ばして,差はひろがった。7㎞で1分、13㎞で1:30、17㎞では1:40となってしまう。トップでとびこんだ1年生の吉川は1時間2分22秒と区間新記録をマーク。2位の青山とは2:03もの差がついていた。3位でつないだのは神奈川大・大塚で1時間2分21秒と、吉川を上回る好タイムで区間新記録をマークした。つづいてやってきたのは拓殖大、ほとんど差がなく早稲田大とつづいた。

 

 逃げる東洋大は5区も1年生で田中龍誠。追う青山は2年生の竹石尚人であった。竹石が懸命に追っかけ9㎞あたりでは、その差は61秒と半分ぐらいになって、これは逆転もあるかなと思わせたが、そこから差がつまらなくなった。だが16㎞では43秒となる。下りにはいって16㎞、追う青山学院大・竹石は給水を受けた直後、突然止まって右足を数度たたく。19㎞すぎでも再び足を抑えて立ち止まる。数秒で走り始めたが、追撃ムードに水を差すかたちになった。
 山でも波乱がおきた。
 波乱その4……
 神奈川の荻野太成のブレーキ……。
 3位で5区に入った神奈川は、ここで踏ん張れば、まだ圏内にのこれる可能性もあった。だが区間20位で一気に15位まで順位を落としたのが痛かった。
 5区の山登りで快走したのは法政の青木涼真である。14位から9人抜きで一気に5位までやってきた。1時間11分44秒は区間新記録である。
 かくして往路は東洋大が制覇。4年ぶりの往路優勝である。2位は青山学院大で36秒遅れ。3位にはトップから1:56秒差で早稲田大・安井雄一が3位でテープを切った。4位に拓殖大の戸部凌佑。ほとんど差がなく14位で小田原中継所をスタートした法政大・青木が5位でゴール。青木涼真は9人抜きの快走を見せ、ゴール直前のスパートで戸部をとらえたが4位にはわずかにおよばなかった。城西大の服部潤哉を快走してが6位、以下日本体育大、順天堂大、東海大と続き、シード圏内の10位には中央大が入った。優勝候補といわれていた神奈川大はこの5区の荻野太成で、なんと順位を12も落として15位となり、完全に往路にして圏外に去った。
 往路をみるかぎり、候補といわれていた神奈川大、東海大が思いがけず不振、前評判ではそれほど高くなかった東洋大があれよあれよの往路優勝、早稲田の3位、拓殖大の4位、5区で14位から5位に躍進した法政、6位まで押し上げてきた城西大などは大健闘であった。

 

 復路は東洋大と36秒差の青山学院大のマッチアップ、強いていえばトップから1:56秒差の早稲田大あたりまでが優勝圏内。4位の拓殖大は4:36遅れ、以降は大混戦で、拓大から2分以内に法政、日体、順天堂、東海、中央、中央学院、帝京と12位までが含まれており、さらに駒澤大や神奈川、山梨学院など力のあるチームも5分前後の差でつづいており、シード券争いはきわめて熾烈な情勢にあった。

 時差スタートの6区、東洋大は今西駿介、36秒差で追う青山学院大は小野田勇次であった。4㎞まではその差は詰まらなかったが、5㎞では37秒となり、小涌園前の9㎞では28秒差まで詰まった。差はじりじりと縮まり、11㎞の宮ノ下では22秒となり、いよいよ青山学院・小野田の射程距離にはいった。
 芦ノ湖から500mほど下ってくた大平台(13㎞)、この日は気温は4度で路面は凍結していない。東洋大・今西と青山学院大・小野田との差は15秒差といよいよ肉薄してきた。小野田が今西をとらえたのは15㎞の手前だった。みるみるその差を詰めて並びかけたのである。今西もなんとか踏ん張っていたが、追う者のほうに勢いがある。その差はじりじりとひろがった。青山学院大・小野田は区間記録も狙えるペースで快走、そのまま独り旅で7区につないだ。2位の東洋大との差は52秒となり4連覇がみえてきたのである。3位は早稲田でトップから3:46と開いてしまい、レースは完全に青山と東洋のマッチアップになった。


 7区、8区、トップをゆく青山学院は林奎介、下田裕太とつないで、ともに区間賞(林は区間新)、3区間連続の区間1位で首位固め、2位の東洋大とは6:15もの大差がついてしまい、青山の独走状態となった。この時点で青山の4連覇は確実となり、あとはもうゴールまでタスキを運んで行くだけとなった。復路はもう波乱が起きる気配はなかった。
 復路で大きく順位をあげたのは東海大と日本体育大学であった。東海は8区の館沢亨次の快走で、その時点で3位までやってきた。日体は各ランナー堅実な走りで終わってみれば総合4位まで来ていた。

 

 4連覇を果たした青山学院大は2位に4:53の差をつける圧勝劇で堂々の4連覇、まさに横綱相撲であった。往路で東洋大に先んじられたが、慌てるところがなかった。復路6区の小野田で逆転、7区、8区にも林、下田という主力を残しており、磐石の布陣であっさり勝負をつけた。層の厚さは群を抜いていた。
 2位の東洋大は大健闘。戦前の下馬評で、東洋はそれほど評価が高くなかった。東海、神奈川に影にかくれた存在だった。だがフタをあけてみれば堂々の往路優勝。復路も2位である。青山と優勝争いをしたのはこの東洋だけである。もともと区間距離に長い箱根では無類の強さをほこるが、10年連続で3位位以内というのはみごとである。
 早稲田大は昨年と同じく3位にとびこんできた。突出したエースはいないが各ランナーが着実につないでの総合3位、現状ではほぼ100%力を発揮したといっていいだろう。4位の拓殖大も予選会あがりながらの4位、これも大健闘であろう。
 6位の法政は5区の山登りで14位から一気に5位までやってきて、復路も粘り抜いた。2大会連続でのシード権確保は、やはり9位でシード権をもぎとった城西大とともに健闘組の一校と讃えておこう。
 意外だったのは優勝候補の一角にあげられていた東海大の5位。往路9位からもりかえしての5位だが、最終区までは3位を保っていた。アンカーの4年生がまもれなかったのは全般的に流れが悪かったせいだろう。それにしても往路9位というのはどうしたことなのか。能力のあるランナーがそろっているチームだけに、箱根に対する対応力、指導方針を問われそうである。
 神奈川大は5区の山登りで3位から一気に15位まで順位を落とした。復路も流れをつかめないまま13位と大敗してしまった。全日本の覇者で、青山の4連覇に待ったをかけるのは神奈川か、と前評判が高かっただけに、信じられないほどの崩れかたである。箱根は別物らしい。
 それは11位、12位に沈んだ順天堂大、駒澤大、18位におわった山梨学院大にも同じことがいえるだろう。
 総じていえることは、長い距離についての対応が出来ていないのではないか。東海しかり、駒澤しかり、神奈川しかり……。逆に早稲田、拓殖あたりは、エース的存在のランナーがいないだけに、長い距離に対応できる走力を鍛えることに主眼をおいた取り組みをしていたのではないだろうか。
 青山は次回、5連覇に挑むが、層の厚いチームだけに、やはり候補の一番手にあげられるだろう。だが東洋大は若いチームで今年の10人のうち9人が残る。次回はもっと伯仲したレースになるだろう。
 残りは東海大、黄金世代が3年生になる。そろそろエリートランナーたちの底力をみせてほしいものである。

 

◇ 日時 2018年1月2~3日(祝) :午前8時00分 スタート
◇ コース: 東京・読売新聞東京本社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(108.0Km)、復路5区間(109.9Km)の合計10区間(217.9km)
◇天気:往路 晴れ 気温:6.0度 湿度:50% 風:北西4m(スタート前)
 :復路 晴れ 気温:-1.0度 湿度:% 風:北西 レース途中から強烈な突風
◇青山学院大学(鈴木塁人、森田歩希、田村和希、梶谷瑠哉、竹石尚人、小野田勇次、林奎介、下田裕太、近藤修一郎、橋間貴弥)
◇公式サイト:http://www.hakone-ekiden.jp/
◇総合成績:http://www.hakone-ekiden.jp/pdf/94_Record_all.pdf