京都が3年ぶり16度目の制覇!
中盤を耐えて、混戦から脱け出す

 今年は駅伝発祥100年にあたる。
 京都・三条大橋の東詰に「駅伝の碑」がある。(https://www2.city.kyoto.lg.jp/somu/rekishi/fm/ishibumi/html/hi105.html)「駅伝の歴史ここにはじまる」と記されている。日本最初の駅伝は京都のまさにその地点からスターとしたのである。
 日本最初の駅伝は1917年(大正6)4月27~29日にかけておこなわれた「東海道駅伝徒歩競争」である。おりからちょうど明治維新から50年目である。そこで「奠都50周年」を記念して、東京・上野で大博覧会がひらかれた。このとき読売新聞社は博覧会をもりあげようとして、京都から東京まで継走によるマラソンを企画したのである。
 スタートは京都三条大橋、ゴールは上野の不忍池のかたわらにある博覧会場の正門、総距離数508㎞を23区間にわけた。東西対抗のかたちでおこなわれ、八山からトップに立ったのは関東組だった。アンカーはマラソンの父といわれるあの金栗四三である。金栗は駆けつけた大観衆を縫うように不忍池を一周してゴールにとびこんだのである。……
 それから100年目である。
 そういう記念の年に、しかも駅伝発祥の地でおこなわれる最初の駅伝というわけで、本大会はとくに意義深いものとなった。

 節目となる大会だが、実は直前まで開催があやうかった。
 原因は前夜からの降りつづいた雪である。未明の積雪は10㎝をこえ中止の判断にかたむいていた。2000人あまりを動員して雪かきをおこなったが、スタート2時間前の午前10時半になっても、1区と9区が走る五条通には雪がのこっていた。融雪剤をまくなど、京都陸協をはじめ関係者の懸命の努力で、なんとか開催にこぎつけたというのである。
 大雪警報が発令されるなかでのレースとなり、選手は雪との戦いも強いられるいう過酷な大会となった。

 大混戦になるだろう。オーダー表を見て、そのようにみていた。候補をあげれば群馬、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫、愛知あたりではないか。優勝するには中学生・高校生が充実していなければならない。実業団や大学生はチャンピオンシップの大会で目一杯のレースをしているから、もう一押しあるかどうかで微妙。だからほかにも伏兵がいて思わぬ展開になるやもしれぬ。事実どこが勝っても不思議はなかった。

 ならばスタートしだいである。スタートで後手を踏めばもはや圏外、うまく好位置につけられるかどうか、まず第一関門になるだろう。

 注目の第1区、今回は競技場での転倒もなく、きわめて平穏だった。47人のランナーたちはひとかたまりになって五条通りにとびだしていった。先頭集団をひっぱるのは静岡の安藤友香、高知の鍋島莉菜、愛知の猿見田裕香、沖縄の渡久地利佳、京都の一山麻緒、埼玉の阿部友香里もうしろにひかえている。
 1㎞=3:11だから、まずまずのペース、2㎞になっても大集団、だが3㎞手前になって候補の一角・兵庫の岩出玲亜、大阪の村尾綾香が集団からこぼれていった。
 3㎞通過が9:39で鍋島と一山が集団をひっぱる展開になる。4㎞ではトップ集団はおよそ20チームだったが、4.3㎞からの登りになって集団はばらけはじめ、4.9㎞になって候補の筆頭といわれた群馬の岡本春美が遅れはじめた。
 一山がひっぱり、神奈川の森田香織、静岡の安藤、岐阜の堀優花、山口の竹本香奈子、高知の鍋島、千葉の加世田梨花らがつづいた。
 残り600mからスパート合戦になって静岡の安藤がとびだしたが、ほかの7人もついてくる。残り400mになっても決着がつかない大接戦、最後に埼玉の阿部が抜けだし、京都の一山が背後に迫る。タスキ渡しほとんど同時であった。
 トップは埼玉で以下は京都、神奈川、千葉、茨城、岐阜、静岡、高知、山梨、愛知でここまで20秒以内、さらに長崎、熊本、鳥取、大分、福岡、長野と16位までがトップから30秒以内につけていた。群馬は55秒遅れの28位、兵庫は1:10遅れの38位、大阪は1:42遅れの44位と大きく出遅れて、早くも圏外に去ってしまった。

 2区にはいると2位発進の京都の片山弓華がすぐに埼玉の高見沢里歩をかわしてトップを奪い、神奈川の佐藤成葉、千葉の上田未奈がうしろから2位集団でやってくる。
 佐藤の勢いが止まらず1.7㎞で京都の片山においついて、ふたりで後続をちぎった。大学生のなかでも5000mではトップクラスの佐藤に高校生の片山が果敢にくらいついて、マッチレースとなる。
 2.5㎞、北大路から堀川通りに出たところで、京都の片山が仕掛けた。暮れの高校駅伝でも同じ区間を快走して7人抜きを果たした片山は、カーブのおおいコースの特性を熟知していた。巧妙なコース取りでながれにのって、佐藤を突っ放して中継所にとびこんでいった。
 京都がトップを奪い、3秒差で神奈川、21秒差で千葉、4位埼玉は29秒差、5位は茨城で30秒差、6位には長野があがってきて31秒差、愛知は9位、10位は岡山で、ここまでが40秒差だった。群馬、兵庫、大阪はなおもはるか後方におかれていた。

 3区は中学生区間である。距離は3㎞とみじかいが、ここで意外に紛れが出る。
 トップの京都の小林舞妃留はいがいに伸びず、2位にやってきた千葉との差わずか10秒、これが中盤波乱の要因となる。注目は岡山で10位から一気にトップから26秒差の4位までやってきた。さらに19位にしずんでいた群馬は不破聖衣来の区間賞の快走でトップから35秒差の8位まで押し上げてきた。

4区から5区へと北へ向かうにつれて雪が激しくなり、視界がきかなくなる。まさに眼もあけていられないほどの猛烈な雪で、レースもまた勝負のゆくえがまるで見えなくなった。
4区になってまず仕掛けたのは神奈川である。出水田眞紀が1.4㎞で千葉をとらえて2位に上がる。後ろからは12位でタスキをうけた長﨑の高校1年生・廣中璃梨佳がごぼう抜きで追い上げてくる。1.8㎞で3位までやってきた。
2㎞で出水田はトップをゆく京都の和田優香里をとらえてトップをうばう。和田はスピードにのれないでいるところ、2.4㎞で廣中につかまり、長崎が2位に浮上する。その後も廣中は苦しそうな面持ちながら、雪の中を前を見つめてひたすら疾走、のこり400mでトップをゆく神奈川の出水田までとらえてしまった。11人抜きの快走である。
4区を終わってトップは長崎、2位は神奈川で2秒差、3位は静岡で16秒差、4位は千葉でb秒差、5位は岡山で25秒差、京都は6位まで順位を落として27秒差となり、群馬、兵庫、大阪はいぜんとして後方、優勝争いはますますわからなくなった。

5区から7区まで上位は一進一退に終始した。。跨線橋から宝ヶ池の折り返しまで、雪がますます激しくなり、選手たちは目も開けていられなかったという。前もみえないなか、ひたすら孤独な戦いをくるひろげていた。5区では神奈川と千葉がはげしくトップを争い、長崎と京都も差を詰めてくる。5区で順位を上げたのは長野で佐々木文華が9位から一気に5位までやってきてトップとは12秒差とした。群馬もようやく32秒差の9位、兵庫も43秒差の12位まであがってきた。
6区では5区でトップに立った神奈川がトップをまもり、16秒差で長崎、長野が25秒差の3位までやってくる。以下京都、千葉、岡山、愛知……、兵庫が34秒差の8位と射程圏内までやってくる。
7区では神奈川の久保田みずきを長崎の徳永香子とがはげしいトップ争い、そのうしろから京都の長谷川詩乃、千葉の伊藤明日香、愛知の太田幸乃、岡山の金光由樹、兵庫の大西ひかりが集団ひとかたまりで差を詰めてくる。
7区を終わったところではトップは神奈川、18秒差のあいだに、長崎、兵庫、愛知、京都、千葉、岡山、長野がはいるという大混戦、ますます優勝争いはわからなくなった。
8区の中学生区間ははげしいつばぜり合いがつづいた。ひとたび兵庫の松尾瞳子がトップに立つが、1.8㎞で京都の村松灯と千葉の橋場さくら抜けだした。残り800mで抜けだしたのはは千葉の橋場、1秒差で京都の村松がタスキをつなぎ、勝負はアンカーにもちこされた。3位以降は長野、長崎、兵庫、神奈川、愛知、岡山でここまでが28秒差である。9区は10㎞の長丁場だから、どのこれらどのチームにもチャンスありという展開になった。

一昨年、昨年とアンカー勝負で敗れた京都、さらに前述のように節目の大会ゆえに、今年はすこぶる気合にみちていたようだ。
京都の・アンカーはヤマダ電機の筒井咲帆、全日本実業団でも快走、いま最も充実しているランナーである。筒井はすぐに千葉の松崎璃子の前に出た。軽快なフォームでひたすら逃げる。雪の中で勝負は京都、千葉のマッチアップの様相だった。西大路をくだるころは猛吹雪である。
京都・千葉の対決に動きがあったのは中間点の手前である。筒井が前に出ると、もう千葉の松崎には追う余力がなかった。差はじりじりとひろがり勝負はついたと思われた。
だが……。28秒差あった岡山の小原怜が猛然と追い上げてきた。残り3㎞で千葉の松崎をとらえると、筒井との差もみるみる詰まってくる。
五条通りにもどってきたときは13秒差、もうその差は60mぐらいしかない。にわかに岡山と京都の間に火花が散り始めた。勢いは追うほうにある。筒井の走りは軽やかなフォームで大きくくずれることはない。差はじりじり詰まるが、かんたんにはつかまりそうにない。差が詰まるにつれて小原のフォームのほうも乱れてくる。
西京極競技場に先に現れたのは筒井にほうだった。小原はさらにはげしく肉薄したが、最後は後ろに気づいた筒井が二の足をつかって逃げ込んだ。その差はわずか2秒、みごたえのあるアンカー勝負だった。

 京都は3年ぶり16度目の制覇である。これまで2年連続でアンカー勝負で苦杯をなめている。その悔しさが活きたということか。勢いのあるランナーを1区と2区にならべて好発進、中盤は耐えて、後半の8区、9区で勝機をつかんだ。一般ランナーを4人まで使えるところ3人しか使ってこなかった。菅野七虹、関紅葉という立命館のエースを温存、それでも勝ってしまった。一山、筒井という登り坂にあるランナーがフルに働き、苦肉の策で2区に起用した高校2年の片山が実業団や大学生のトップクラスを区間賞の快走で蹴散らしたのが大きい。きわどい勝負だったが会心のの勝利ではないか。
 2位の岡山は惜しかった。1区で20位と出遅れ、中盤ももたついて流れに乗れなかったのが原因だろう。
 3位の千葉も終始、上位で戦っていた。優勝争いしての3位だからまずまずといったところ。
 長崎の4位は大健闘である。その立役者は4区11人抜きで区間賞をもぎ取った高校1年生・廣中璃梨佳の快走である。
 昨年優勝の愛知は5位、今年は戦力からみて健闘したといっておこう。それでも中学生がもう少し踏ん張っていればと惜しまれる。6位の静岡も中盤までは上位を争っていた 神奈川は終始上位にいて、7区まではむしろレースを支配していた。8区、9区で失速したが、優勝争いに絡んだチームであったことを銘記しておこう。
 8位の長野は8区でトップがみえるところまできた。中学・高校生が強いだけに、将来、力のある一般ランナーが加われば優勝争いに絡むチームとなるだろう。
 候補として注目をあびていた兵庫はかろうして入賞圏内にとびこんだが1区の出遅れで早くも圏外に去った。群馬も1区で出遅れたのがすべて、力のある実業団ランナーに一押しが効かなかった。大阪も1区で44位というブレーキ、これでは勢いが付くはずがない。
 
 総じていえることは、実業団のランナー、暮れの30日に選抜を走った大学生の主力は全般的にいまひとつ精彩がなかったようだ。目一杯のレースをしたあとでオツリがなかったのもしかたのないところか。もともと本大会は中学生、高校生のなかから将来性のあるランナーをみつける大会である。今回もまた高校生の活きの良さに目を奪われた。実業団や大学生のランナーを圧倒した廣中や片山のようなランナーを発見できたのは果報というものである。

 

◇ 日時 2017年01月17日(日)12時30分スタート
◇ 場所 京都市
◇ コース 西京極競技場発着 宝ヶ池国際会議場前折り返し9区間49.195Km
◇ 天候:雪 気温:5.0度 湿度:68% 風:南東0.1m
◇ 京都(一山麻緒、片山弓華、小林舞妃留、和田優香里、又村菜月、谷口真菜、長谷川詩乃、筒井咲帆)
◇公式サイト:http://www.womens-ekiden.jp/
 ◇詳しい成績:http://www.womens-ekiden.jp/pdf/result35.pdf
 ◇京都新聞・号外:http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/gougai/pdf/2017011516095118E10P7123.pdf