長野が7年ぶり2度目の制覇!
チームワークと若さで逃げ切る!

 

 実業団のランナーやあこがれのオリンピアンと一緒に走れる。
 本大会はそういう意味で、とくに中学生、高校生など、若いこれからのランナーたちにとっては胸躍る大会となっている。
 
 チームの区間構成は中学生2人、高校生3人以上、一般4人だが、総じていえることは、実業団の有力チームをもつ地域が、おのずと優位に立つということである。そんなわけで東京、千葉、神奈川、群馬など首都圏チームがつねに優勝候補にあげられる。
 だが、今年も同日に福井で「Fukuiスーパーレディース駅伝」がおこなわれており、一昨年、ヤマダ電機の主力メンバーで優勝した群馬なんぞは、メンバー編成に大きな影響をうけたようだ。
 区間エントリーをみわたして、中学、高校生が強く、ユニバーサル・エンターテイメントの主力やリオ五輪帰りの尾西美咲を配した千葉の連覇が濃厚。対抗はやはりオリンピアンの上原美幸や田中智美(第一生命)などをもつ東京ではないか、誰がみてもそんなところに落ち着くことになる。
 だが……。
 駅伝は走ってみなければわからないのである。たとえオリンピアンであろうと、生身の人間である。先のクイーンズ駅伝にみるように、オリンピアンはこぞって凡走に終わってしまった。ひとたび燃焼しきったモーティべーションがまだ立ち直っていないのだ。奇しくもその懸念は第1区から現実のものとなってしまった。

 

 第1区は一般区間である。序盤で先手をとりたい各チームはおおむね主力の実業団選手か大学生を配してくるのだが、18チームのうち8チームがあえて高校生を配してきていた。よほど自信もっての起用か、あるいは実業団選手をもたないかのどちらかであるが、2連覇をねらう千葉の場合は前者だったのだろう。中盤からレースのイニシャティブを握ったのはこの高校生ランナーだったのである。
 1㎞=3:12というまずまずのペースで滑り出した第1区、予想通りオリンピアンの上原美幸(東京)が前に出て引っ張った。群馬の岡本春美(三井住友海上)、静岡の安藤友香(スズキ)ら実業団の有力ランナーがつづくという展開である。だが、中心をなす上原にいまひとつオーラがない。かわって2㎞になると静岡の安藤友香が前に出て集団をひっぱりはじめた。
 レースが動いたのは3㎞すぎ、千葉の成田高校3年の加世田梨花がとつぜん集団を割って、するすると飛び出し、あっという間に50mほどまえに出たのである。さらに長野の和田有菜(長野東高2年)がつづく。東京の上原や安藤など実業団の有力どころが伸びないなかで、2人の高校生がレースを支配し始めたのである。その果敢なチャレンジ精神は賞賛されるべきだろう。
 加世田が逃げ、和田が追ってゆく。あっけにとられたわけでもあるまいが上原以下の実業団選手には、もう追いすがる力は残っていなかった。かくして1区は2人の高校生のマッチアップとなり、ラスト勝負にもちこまれた。最後の最後にスプリントにまさる長野の和田が競り勝ったが、千葉は6秒遅れの2位につけ、ひとまず2連覇にむけて順調にすべりだしたのである。東京はエース上原で31秒差の6位、これはおおきな誤算だったのではないか。、
 
 2区にはいると長野と千葉のトップ争が熾烈をきわめた。トップをゆく長野は2区も高校生17歳の松澤綾音(長野東高)、追う千葉は木村友香(ユニバーサル・エンターテイメント)である。両者の力関係は歴然としている。追う千葉は1㎞で早くも松澤をとらえた。だが、松澤は木村の後ろに影のようにへばりついて離れないのである。
 連覇をねらう千葉は、この区間で独走態勢にもちこみたかったのだろうが、ここでも長野の高校生は粘って大健闘、千葉にトップはゆずったものの、わずか1秒差で3区にタスキをつないだのである。1区で出遅れた東京は2区でも大苦戦、順位を2つ落として、トップから1分遅れの8位に後退してしまう。

 3区でも千葉と長野のしのぎあいはつづいた。長野は高安結衣(長野東高1年)、千葉は佐々木瑠衣(日本体育大学柏高2年)である。高校生対決だけに両者はゆずらず、2人の並走がつづいた。だが同じ長野東高の同僚がはこんできたタスキの勢いというものなのか。高安がじりじりと佐々木をひきはなし、長野の独走態勢を築いてしまう。
 長野は高校生3人で断然トップに立ったのである。2位の千葉とは23秒、そこから3位の群馬とは33秒となり、ここで前半は長野と千葉の対決という様相がみえてきたのである。
 4区の中学生区間では千葉の風間歩佳(船橋旭中3年)が追い上げてきて、長野との差はわずか6秒、中学生の強い群馬も不破聖衣来(大類中2年)の区間賞の快走で23秒差までやってきた。レースの流れはにわかに流動的となり、勝負は5区の攻防にゆだねられた。

 長野の5区は22歳にしてチーム最年長の湯澤ほのか(名城大4年)である。湯澤は先の全日本大学女子駅伝でも3区で区間賞をもぎとっている。その湯澤と6秒差で追ってくるオリンピアンのひとりである千葉の尾西美咲との対決、6秒差ならば実績にまさる尾西がやすやすととらえるだろうとおもわれた。
 だが1区の上原と同じく尾西も精彩がなかった。勢いはむしろ湯澤のほうにあり、その差はじりじりひらいてゆく。逆にうしろからくる群馬の林英麻(高崎健康福祉大高崎高2年)に尾西は2.8㎞でつかまってしまつたのである。林の積極的な走りはみごと、さらにトップをゆく湯澤に迫る勢いで、区間賞をもぎとるのである。


 連覇をねらう千葉は5区の思わぬ失速、トップから27秒遅れの3位に後退、2位にあがってきた群馬はトップから7秒差、優勝あらそいはこの3チームにしぼられたのである。
 トップをゆく長野の6区・細田あい(日本体育大3年)は好リズムで逃げた。追う群馬は失速して後退、3位からやってくる千葉の関谷夏希も悪くはなかったが、2位までやっけくるのがやっとで、トップの細田に勢いがついていた。細田はあれよあれよの区間新で駈け抜け、ここで2位の千葉との差を44秒にまでひろげてしまった。3位の神奈川はそこから1分も遅れ、優勝争いは完全に長野と千葉にしぼられた。
 7区で長野と千葉の差は32秒とつまったが、8区の中学生区間で長野は久保田絢乃(丸子北中3年)が区間賞でふたたび39秒差、かくして10㎞の最終8区に勝負はもちこされたのである。
 8区の長野は玉城かんな(名城大2年)、追う千葉は青山瑠衣(ユニバーサルエンターテインメント)である。実力の比較では青山に分がある。千葉陣営はここでの逆転を信じてうたがうことがなかっただろう。
 青山は玉城を追った。だが玉城はリズミカルな走りで快調に逃げた。前半、差はほとんどつまらなかった。だが後半になって少しづつ差がつまり7、7㎞あたりで28秒差、だが、そこから玉城が粘りに粘った。青山は追い切れず、競技場がみえる地点では2人の勝負はついていた。玉城は第1区からの勢いに乗じたというべきか。そのまま長野の7年ぶり制覇のゴールにとびこんでいったのである。

 

 長野の優勝は若い力の爆発とでもいおうか。実業団選手はひとりもいない。中学生2人、高校生4人、大学生3人で平均年齢は17.4歳である。それでいて首都圏チームを蹴散らしてしまった。前半の1区から3区まで長野東高のランナーをそろえて、トップを奪い、中学生も大学生もすっかりその流れに乗ってしまった。区間賞は3つ、4区をのぞいて、すべての区間で区間5位以内という堅実ぶりである。長野東高の現役メンバーと卒業生のチームワークがもたらした勝利というべきか。
 2位の千葉は連覇ならず。各ランナーとも、出来が悪かったというわけではないが、全般的に今回は流れが悪く、かせげる区間で競り負けて、もくろみがくるったということなのだろう。
 静岡は最終区の清田真央の区間賞で順位を3つあげて3位にとびこんできた。過去最高順位であり、これは大健闘といっておこう。
 東京は最終4位におわった。1区の滑り出しがもうすこしよければ、もうすこし上位にきわどくからんでいただろう。


 全般的にみわたして、今回は高校生の活躍が眼をひいた。大会の目玉であるオリンピアンの調子がいまひとつあがっていないだけに、煽られっぱなしだった。しかし、いくら目標は別のところにあるとしても、こうも高校生にあしらわれるようでは、日の丸を背負った者として恥ずべきだろう。
 それはともかくとして、今大会は中学生・高校生の元気の良さがきわだっていた。それは四年後の東京オリンピックが眼中にあるからにちがいない。

 

◇ 日時 2010年 11月 13日(日)12時05分スタート
◇ コース:福島市信夫ヶ丘競技場~国道4号~国道115号~フルーツライン折返し日本陸連公認「FTVふくしま」マラソンコース 9区間 42.195km
◇ 天候:出発時 晴 気温15.0度 湿度63% 風:西1.9m(12:00)
◇ 長野(和田有菜、松澤綾音、高安結衣、高松いずみ、湯澤ほのか、細田あい、岡村未歩、久保田絢乃、玉城かんな)
◇公式サイト http://www.fukushima-tv.co.jp/ekiden32/
◇総合成績  http://www.fukushima-tv.co.jp/ekiden32/win32.pdf