長野が5年ぶり、6度目の制覇!
  ー最終区で混戦から抜けだした!



 全国男子駅伝……
 この駅伝、走ってみなければ分からない。
 などとTwitterでつぶやき、優勝争いは闇の中などと、時評子として、まさにお手上げ状態にあったことを素直に吐露したが、これほど最後の最後まで、優勝のゆくえが見えてこない駅伝レースはかつて、あっただろうか?
 たいていの場合、アンカーにタスキが渡ったときには、ほぼ優勝のゆくえはみえているのだが、本大会は最終7区の半ばまで、レースはまさに深い闇のなか、優勝争いは混沌としていた。
 6区から7区の中継時点で、トップをゆく長崎から1分以内になんと12位の千葉までが入っていた。トップ長崎から16秒遅れで群馬、18秒遅れで長崎がつづき、後続の神奈川、福岡、福島、埼玉……。そこまでの差が40秒である。最終区13㎞という区間距離からみて、ここまでの7チームにも十分チャンスがあったのである。
 さらに8位の宮崎から、30秒以内に23位の鹿児島までがはいっている。入賞圏争いも熾烈をきわめていたのである。

 最終区は一般(実業団、大学生)ランナーの区間である。実業団ランナーは正月のニューイヤー駅伝で、大学生ランナーは箱根駅伝で死力を尽くして、ほとんど抜け殻になっている。そんな彼らが、チームのエース格で出てきて、本大会でさらに一押し利くかどうかが勝敗を分けるという、なんとも皮肉な廻り合わせになっているのである。


 さてレースは6区を終わって、トップの長崎、ほとんどノーマークのチームが5区から先頭に躍り出て、レースをひっぱっていた。長崎・最終区のランナーは木滑良(三菱重工長崎)、2位で7区に突入した群馬もどちらかというとノーマーク組、この群馬のアンカー・阿久津圭司(SUBARU)が1.4㎞で木滑をつかまえてしまう。長崎と群馬がトップ集団を形成、後続は長野の矢野圭吾(日本体育大)、神奈川の鈴木悠介(日本体育大)、福岡の黒木文太(安川電機)が3位集団をなし追走、その背後から埼玉の服部翔大(日本体育大)と福島の星創太(富士通)がじりじり追い上げるという展開になった。
 3㎞すぎで、トップ集団の阿久津、木滑に、3位グループが追いつき、トップ集団は5人になった。さらに後ろから服部と星がならんで追ってきて、4㎞ではその差はわずか10秒、優勝争いは、にわかにわからなくなってきたのである。
 7チームに優勝の可能性がある。残り9㎞の叩き合いになった。だが、ここでレースの主導権をにぎったのが長野の矢野だった。4.1㎞で矢野がしかけた。長崎の木滑はついていったが、群馬、神奈川、福岡は置いてゆかれた。
 長野の矢野の走りはリズミカルで素軽い。その差はじりじりとひろがってゆく。木滑、阿久津もけんめいに追ったが、その差が開くばかりだった。後になって考えると、矢野のスパートタイミングは絶妙、みごとというほかない。
 追い上げてくる埼玉の服部も虎視眈々と狙っていたのだろうが、この矢野の早めのスパートが僚友・服部の野望を粉砕した。服部に追走をあきらめさせた矢野は独走状態になり、ますます逃げる強みを発揮する。逆に多少ムリして追ってきた服部は、追い切れないときの疲労がきたのだろう。ゴール前のラスト勝負で、ようやく2位まで押し上げてくるのがやっとだった。
 それにしても最終7区の13㎞区間、見どころ一杯で、おもしろい展開、駅伝のおもしろさの要素がテンコモリだった。
 かくして矢野は「日本体育大」の同級生対決を制して区間賞、長距離王国・長野に優勝をもたらし、優秀選手賞も獲得した。


 7区につづいて興味津々だったのはやはり一般ランナー区間の3区である。
 1区の高校生、2区の中学生の区間での紛れを修正するのが、いわばこの3区(8.5㎞)である。2区を終わってトップに立っていたのは、なんと福島、秒差で群馬、長崎がつづき、福岡、神奈川、長野、宮崎……。候補の埼玉はなんと54秒差の30位、三重も広島も35秒近く遅れ、兵庫はなんと1分以上も遅れをとっていた。
 候補といわれるなかで、長野だけがトップから14秒遅れの6位につけていた。長野の3区は上野裕一郎(DeNA)であった。先のニューイヤー駅伝での大ブレーキは記憶に新しいところだが、それだけに上野の走りに、いまひとつ信頼がおけないものがあった。奇しくもシーズン最後のこの駅伝で真価をとわれるはめになった。いわば崖っぷち立たされていたのだが、上野は意外にも強かった。
 トップ争いが変転するなか上野は2㎞で一気に先頭集団に追いついた。かくして神奈川、宮崎、群馬、長崎、福岡、福島、鳥取、長野の8チーム競り合うという展開となったのである。
 4㎞からは宮崎の田口雅也、長野の上野、群馬の戸田雅稀、長崎の馬場圭太、神奈川の梶原有高の5人で激しく先頭争い。こうなるとベテラン上野に一日の長がある。6㎞すぎで仕掛け、7㎞では独走状態にもちこんでしまったのである。
 3区・上野裕一郎の区間賞で圏内をキープするとともに、長野チームに勢いをつけた。そういう意味で長野にとって上野の存在はやはりおおきかった。
 3区を終わって、上位にいたのは、神奈川、宮崎、群馬、長崎、新潟、大阪、栃木……。候補といわれていた埼玉、広島、三重、兵庫などは、いぜん10位以降に甘んじていた。長野にとっては余裕すら感じられる理想の展開になったのである。


 後続では埼玉の設楽啓太が30位から一気に16位まで浮上したが、トップ長野とは50秒もの差がついてしまっていた。

 優勝した長野は3区と7区の一般ランナー区間で区間賞を獲得、実業団、大学生のあと一押しが利いて押し切った。上野裕一郎、矢野圭吾という佐久長聖高の先輩・後輩が故郷に優勝をもたらした。19回のうち6度の優勝は最多。さすがは長距離王国である。
 埼玉は最終区の服部翔大の粘走で2位までやってきたが、優勝争いに絡んでの結果ではないだけに、内容的に額面通りの評価は出来ない。前半1区・2区で大きく出遅れてしまったのが惜しまれる。
 3位・群馬、4位・長崎、5位・宮崎、6位・福島は大健闘、9位に落ちて惜しくも入賞を逃したが、4区ではトップを奪うなど、とくに前半はトップ争いにからんでいた神奈川も持てる実力の片鱗をみせた。連覇を狙った兵庫は最終10位、三重は7位、福岡は8位、広島は14位に終わった。
 不満点をあげれば、今年は日本のマラソン・長距離界をみわたして、第一線クラスのランナーたちの顔ぶれがそろわなかったこと。いまひとつ盛り上がりを欠いたのはそのせいだろう。
 来年は20回の記念大会である。それゆえ一般ランナーもトップクラスが多く顔を見せ、東京五輪をめざす中・高校に刺激を与えてほしい。


◇日時 2011年1月19日(日)12時30分スタート
◇場所 広島市
◇コース 広島・平和記念公園発着/中電大野研修所、7区間48Km  
◇天候:くもり 気温:07.5度  湿度:65%  風:東南東0.7m
◇長野(高森健吾、名取燎太、上野裕一郎、藤木悠太、春日千速、相馬崇史、矢野圭吾)
◇総合成績 http://img.hiroshima-ekiden.com/news/pdf/19th_result.pdf
◇NHKロードレース:http://www1.nhk.or.jp/rr/race04/index4.html
◇区間記録:http://www1.nhk.or.jp/rr/race04/record/divrank.html