京都が王座奪還!
  ---3年ぶり、史上最多の15度目制覇!


 勝負のポイントは4区にあった。
 中盤のこの区間、どちらかというと繋ぎの区間だが、レースの流れを軌道修正するという意味で、重要な区間でもある。1区と2区でたとえレースの主導権を手にしたとしても3区の中学生区間は走ってみなければ分からない。だから、そこで生じた紛れを、この4区で修正して、再び良い流れをひきよせる。4区はそういう勝負のポイント区間になることもある。
 この4区でうまく流れに乗ったチームがレースの中盤、後半を支配するのである。
 優勝した京都は、まさにこの4区で追い風をつかんだ。
 今回の京都はかならずしも順調な滑り出しではなかった。1区こそ菅野七虹(立命館大)が大阪と競り合いながら、2秒遅れの2位につけたが、2区の光延友希(京セラ)が区間20位と大誤算、トップの愛知から38秒遅れの10位まで順位を落としている。
 後になって考えると、この4区に京都が木崎良子(ダイハツ)を配することが出来たのは幸運、好采配だったといえる。木崎は現在の日本の長距離界をみわたして、最も油の乗り切った選手のひとりである。とくに長い距離に実績のある彼女、本来ならば最終区の10区が妥当とうべきだが、なんと4区に出てきた。誰もが「あれっ」と思ったはずである。後に知るところでは、選手自身のコンディションの関係で、そういう配置になったらしいが、ならば「ケガのお功名」というべきか。これがズバリ的中したのだから、なんとも、はや、おもしろい。
 4位でタスキをもらった木崎は持ち前の小気味の良いピッチ走法でひたすら前を追った。みるみるうちに大阪、長野をとらえて2位に浮上、トップをゆく群馬の森唯我(ヤマダ電機)との差もじりじりと詰めはじめた。木崎と森、ともに佛教大学出身のランナーである。先輩、後輩対決という意味でも興味深いものがあった。
 木崎はけんめいに森を追ったが、今シーズンの森は好調である。木崎をもってしても、とらえるまでにはいたらなかった。最後は12秒差の2位で5区にタスキをつないだのである。だが、この木崎の区間新記録の快走で京都は勢いづいた。

 5区にはいると関紅葉(立命館宇治高)がトップをゆく群馬の高田晴奈(ヤマダ電機)を追って、じりじりと差を詰めにかかった。そして残り500mでとうとう捕らえてしまったのである。京都は4区につづいて、この5区の関も区間賞、これでレースの主導権は京都の手に落ちた。
 京都の逆転劇は木崎の快走によってもたらされたのだが、忘れてならないのは3区の中学生・西川みゆう(樫原中)の好走であろう。区間3位の走りで2区の10位から6人抜きで一気に4位まで順位をあげてきた。木崎にしてみれば、中学生ががんばっているのだから……という思いもあったはずである。


 レース全体をみわたして、今回は大会前から各チームの戦力は伯仲、大混戦が予想されていた。5区でトップに立った京都だが、その時点では、まだまだ優勝のゴールがみえていたわけではなかった。6秒差(約30m)で群馬、12秒差(約60m)で愛知が追っていた。ともに強力な高校生ランナーがひかえていた。とくに愛知は高校駅伝で優勝した豊川高校のエース2枚がならんでいた。高校駅伝優勝の豊川と4位の立命館宇治の対決という様相で予断をゆるさぬ展開になっていたのである。
 京都にとってはこの時点では愛知が驚異だった。もし6区、7区で愛知にとらえられていれば京都の制覇はなかっただろう。事実6区では愛知の関根花観(豊川高)が群馬をかわして急追、6秒差まで迫っている。
 愛知とのマッチアップになって、まさに京都にとっては7区が正念場だった。その京都が7区に送り出したのは筒井咲帆(乙訓高)、全国的にはほとんど無名のランナーである。対する愛知は高校駅伝でも名知られた加治屋ななこ(豊川高)である。愛知にしてみれば、ここで逆転トップを計算していたはずである。首位攻防、両チームにとっては息を飲む展開になったのである。
 だが、筒井が走り出して、おやっ……と、思わず眼をみひらいた。この高校生、やるじゃないか。ほれぼれするような走りだった。愛知は追えども追えども追いきれないのである。そんな思わぬ展開になってしまい、愛知にとっては誤算だったろう。追撃ムードみるみるふっとんでしまったのである。
 筒井は軽快は走りで、なんと終わってみれば区間賞をもぎとる快走である。愛知も群馬も区間2位と3位にきているから、けっして悪い走りではない。だが京都と愛知との差は16秒、群馬との差は38秒までに開いてしまったのである。高校駅伝に出場できない筒井のようなランナーにも全国デビューのチャンスが与えられる。これが本大会の良いところだろう。


 かくして優勝争いは8区の中学生区間、10区の最長10㎞区間にもちこされ、京都、愛知、群馬の3チームにしぼられた。候補といわれた兵庫、神奈川、岡山とは1分以上の差、呼び声高かった大阪は2分遅れで入賞争いに甘んじていた。
 8区の中学生区間、京都はここでも踏ん張った。青山友莉菜(南陵中)が区間3位の力走、愛知との差を29秒まで引き離した。だが群馬の篠崎玲奈(大類中)が青山を上回る区間2位で31秒まで詰めてきた。9区の力関係からみて群馬が京都の対抗馬として浮上してきたのである。
 その結果、最終区はトップから31秒のあいだに京都、愛知、群馬がおさまり、アンカー勝負にもちこまれた。3チームのうちでは、実績からみて西原加純(ヤマダ電機)を持つ群馬が逆転の可能性を秘めていた。10000mの持ちタイムからみれば西原は京都の黒田真央(ワコール)を十分とらえられる。だが駅伝は走ってみなければわからない。
 西原はもともと逃げれば強さを発揮するのだが、追ったり、競り合う展開では、それほど信頼のおけるランナーではない。才能あるこのランナーがいまひとつ伸びきれない原因はそのあたりにある。しかし31秒というのは微妙なタイム差であった。
 追う西原は予想通り愛知をかわして京都を追うかたちになった。中間点でどれほど詰まるかが興味のマトだったが、16秒……。微妙な差で勝負は後半にもちこされた。だが一気に追ってくる爆発的な脚はなかった。終始、黒田が冷静に自分のペースをしっかりまもったのがよかったのか。   西京極競技場にはいってきたときは7秒差、西原はここまでやってくるのがやっとだった。4コーナーをまわって、ようやく顔がほころんだ黒田はそのまま京都15度目の優勝テープにとびこんでいった。
 それにしても、いつになく、最後まで眼離しできないレースで、観るレースとしては存分に楽しめた。


 2位の群馬、3位の愛知はともに大健闘というところ。最後まで優勝争いにからんだところが評価できる。
 とくに群馬は実業団駅伝でも上昇ムードにあるヤマダ電機勢が主力、さらに中・高校生も強いがゆえに、来年あたりはさらに驚異になるだろう。大阪は1区で好発進したが、中盤で失速、神奈川、岡山、兵庫もいまひとつ勢いがなかった。いずれも中盤以降、上位3チームに引き離され、早々と優勝争いから脱落したのは意外であった。そんななかで唯一評価できるのは静岡の7位、これは大健闘だろう。
 天候にめぐまれえたせいもあるだろう。1位、2位の走破タイムは歴代でも上位、さらに上位の多くがチーム最高記録を更新した。


 面白かったのはやはり第1区、6㎞の区間だが、渋井陽子のような10000mの日本記録保持者から、大森菜月、菅野七虹、鈴木亜由子、前田彩里のような勢いのある大学生、さらには高校生ランナーまでが顔をそろえる。いわばオープンレースの趣は、この大会ならではのものである。
 47人が西京極競技場を飛び出して、五城通から西大路通りを北に向かってゆく。いつもながら、なかなか壮大なシーンである。スローペースでたんたんとすすみ、西大路にさしかかっても先頭集団はひとかたまり、しかし左端にいた渋井陽子の肩が揺れはじめ、あえぐような走り……。主力は集団のなかで息をひそめていた。
 やっとレースが動いたのは残り1㎞あたり、熊本の前田彩里(仏教大)が仕掛けた。京都の菅野七虹(立命館大)、神奈川の山崎里奈(パナソニック)愛知に鈴木亜由子(名古屋大)、大阪の大森菜月(立命館大)が反応し、集団はばらけて一気にタテ長の展開になる。
 そして残り400m、大阪の大森と京都の菅野が抜けだして、区間賞争いは全日本大学駅伝を制した立命館大の僚友対決となった。こういう興味あるシーンがみられるのも、この駅伝ならではの楽しみのひとつである。
 立命館の1年生同志の対決は、大森のラストスパートが功を奏して、最期は菅野を振り切った。大森は今シーズン、走った駅伝はすべて区間賞というめざましい活躍である。おわってみれば1区は3位にも鈴木亜由子、5位には前田彩里がきていて、大学生の活躍が眼についた。


 そういう多様性は、中学生から実業団選手までが同じ舞台で走るこの駅伝のもつ最大の特徴である。今回も日本代表クラスの名のあるランナーが出場している。世界を舞台に活躍している重友梨佐は10区で区間賞、木崎良子は前述のように4区で区間新記録の快走ぶり。1区に登場した渋井陽子(栃木)、そして、この10区が駅伝ラストランとなった赤羽有紀子も本大会を足がかりにして世界に飛びたっていったランナーである。
 世界陸上マラソン3位の福士加代子も10区に登場、区間2位で健在ぶりをみせたが、そういえば彼女の全国デビューも本大会だった。


 彼女たちの存在が、さらには同じ大会に出るというだけでも若い選手たちにとって、おおきな刺激を与えている。最近は大学生だけでなく、高校生、中学生のモーティべーションが確実上がってきている。東京五輪という目標ができたせいもあるだろう。全般的に好タイムをマークしたのは、ひとえにその証左ではないか。 


◇ 日時 2011年1月12日(日)12時30分スタート
◇ 場所 京都市
◇ コース 西京極競技場発着 宝ヶ池国際会議場前折り返し9区間49.195Km
◇ 天候:晴れ 気温:8.0度  湿度:59%  風:北0.2m
◇京都(菅野七虹、光延友希、西川みゆう、木崎良子、関紅葉、岩井朝香、筒井咲帆、青山友莉菜、黒田真央)

◇【優秀選手】 大森 菜月(大阪1区)
       鷲見 梓沙(愛知2区)
       木崎 良子(京都4区)
◇【未来くん賞 高校生】 関根 花観(愛知6区)
◇【未来くん賞 中学生】 高松 智美ムセンビ(大阪3区

◇詳しい成績・結果:http://www.womens-ekiden.jp/category/news
◇総合成績:http://www1.nhk.or.jp/rr/race03/result.html
◇区間記録:http://www1.nhk.or.jp/rr/race03/record/divrank.html