立命館大学が3年ぶり6度目の制覇!
     前半でエースが勝負をきめた!


駅伝時評web-anjl


 大学女子の駅伝日本一をきめる第29回全日本大学女子駅伝は10月23日(日)に宮城・仙台市(陸上競技場~仙台市役所まで、全6区間38.6㎞で行われ、立命館大学が3年ぶり6回目の制覇を果たした。3連覇に挑んだ佛教大学は2位、3位には名城大学、4位以降は京産大大学、松山大学、城西大学とつづき、この6校がシード権を獲得した。
立命館大は1区の竹中理沙が区間新記録の快走、松山大学以下をぶっちぎり、2区の藪下明音も区間賞の走りで、ライバル佛教大をさらに引き離し、1区、2区の貯金で故障あがりの田中華絵も余裕をもってつなぎ、4区の一年生・池田睦美も区間新記録にわずか1秒という力走で突っ放し、5区、6区でも安定した走りで、競り合うこともなくそのままゴールまで突きぬけた。
 3連覇のぞんだ佛教大学は1区で14位と出遅れたのが致命傷となった。2区で石橋麻衣が10人抜きで4位まで浮上。3区の吉本ひかりが2位まで押し上げてきたが、勝負の流れはすでに立命館にかたむいており、時すでに遅し、失地挽回はならなかった。



▽4年生の意地が爆発!


 差すような眼というべきか。まるで空中を舞う鷹がみおろす眼下に目標の獲物をみつけたような眼線だった。
 スタートラインに出てきた1区のランナーの顔はそれぞれの想いを秘めて、緊張感がほとばしっている。そのなかでとくに眼をひきつけられたのは立命館大の竹中理沙なのであった。
 竹中は瞬時、佛教大学の1区のランナー・渋谷璃沙にチラと視線を投げて、スタートラインについたのである。その視線は凄まじさに驚嘆してことばすら失ってしまったのである。
「アンタ、ナメるんじゃないよ」
 1年生はひっこんでな……とでも言いたかったのかのしれない。
 立命館は今回、あるいは3区かもしれないと思われた竹中をあえて1区に配し、2区にはエース候補の藪下明音を配して、前半から逃げる作戦に打って出てきた。3区で吉本ひかりが出てくるまでに、しこたま貯金をつくっておこうという腹でる。事実、立命館が活路を見いだすには、そんな隘路をくぐるしかなかった。
 満を持して1区に起用したその竹中に対して、佛教は2連覇の余裕というべきか。それとも駅伝ではあまり良績がない竹中を甘く見たのか。1年生の渋谷璃沙をぶつけてきたのである。渋谷はたしかに力のあるランナーだが、竹中にしてみればカチンとこないはずがない。高校時代からエースとして君臨してきた自尊心を傷つけられては、とうてい黙っていられまい。めらめらと眠っていた闘争心に火がついたとしても不思議はなかろう。
 佛教の渋谷起用はけっして奇策ではない。たしかにおもしろい作戦だったと思うが、竹中の闘争心に火をそそいでしまうという意味では裏目になったとみる。駅伝というのは、案外そういう心理的な要素が勝負のゆくえをきめてしまうことがある。怒った4年生・竹中、今回はまったく手がつけられなかった。
 坊主憎けりゃ、袈裟まで憎し……というが、あるいは渋谷が自身とおなじく名前が「リサ」であることも、竹中にとっては勘にさわったというのはうがちすぎだろうか。とにかく竹中を怒らせてしまったのが佛教大の敗因とみた。



▽現エースと次期エースとが圧巻の区間賞リレー


 竹中理沙の集中力は凄まじいものがあった。号砲一発! スタートからすでにしてレースの主導権をにぎってしまう。先頭集団をみずからひっぱり、気温25.2度という、この次期としては考えられないほどの高温だというのに、1㎞のラップが3:07というハイペースで入ったのである。
 佛教大の期待を背負う渋谷璃沙璃沙と松山大の田村紀薫が後ろについたが、2㎞で先頭集団が6人にしぼられ、2.6㎞で竹中がピッチをあげると、渋谷と松山はもうついてゆけなかった。3㎞の通過が9:19と、昨年よりも20秒も速い。区間新ペースで2位集団との差はどんどんひろがっていった。
 4㎞通過が12:24で区間新を30秒も上回っていた、松山大の田村は粘っていたが、佛教大の渋谷はふやけたような顔になり、完全においてゆかれた。
 竹中は18:16という区間新記録でタスキをつなぎ、松山大、京都三号大、城西大学、名城大とつづいたが、3連覇をねらう佛教大は立命館から遅れること1:28秒、なんと14位に沈んだのである。渋谷は4年生竹中の鬼気迫る意地と気合いに粉々に粉砕されてしまったというべきか。
 立命館大は竹中の爆走で好リズムをよびこんだ。藪下明音は1㎞=3:12と余裕をもって前半をのりきり、後半にじりじりペースをあげていった。追ってくる佛教を意識してのものだったろう。
 佛教大の石橋麻衣は逆に前半から猛然と突っ込んでゆき、ごぼう抜きで順位をあげてくる。1㎞までに5人抜き、2㎞で7位まであがり、3㎞では4位、4㎞では3位にあがってきた。だが、前半のハイペースが影響したのか。後半はのびず、逆に中継点前で大東文化大にかわされてしまう。
 立命館の藪下は快走、追ってくる石橋に2秒競り勝っての区間賞で、その差は逆に2秒もひらいて、1分30秒になってしまったのである。かくして竹中と藪下という黄金のリレーで、勝負の流れは一気に立命館にかたむいてゆくのである。



▽万全の態勢が落とし穴!


 2区を終わって1:30もの差は佛教大にとって大きな誤算だったろう。3区のエース・吉本ひかりをもってしても、あまりにも差はありすぎる。1分前後の差ならば、実力的に手が届くだろうが、これだけの差があれば、故障上がりの田中華絵でも余裕がもてたのではあるまいか。
 ゆったりと入った田中に対して吉本は3:07というハイピッチで追っかけた。中間点ではその差を23秒詰めて、その差を1:07としたが、そこからは詰まらなかった。2位まで浮上しながら、やはり後半がのびず、逆に名城大の野村沙世の追われるしまつ、トップ立命館との差は26秒しかつまらなかった。
 勝負は3区でほとんど決定的となったが、立命館はさらに4区でダメ押した。4区のランナーは1年生の池田睦美、ほれぼれするような走りであった。上下動がなく、実にリズミカルで楽しそうであった。1㎞3:06というハイペースではいり、そのまま押し切ってしまった。追う佛教大の前田彩里は名城大の浦川有梨奈にとらえれれて3位に沈み、立命館との差はふたたび1:43秒までひらいてしまうのである。
 立命館は佛教大の足音も聞こえないほどのはるか前方を独走、5区も1年生津田真衣がつなぎ、最後は3人目の4年生岩川真知子がゴールまでタスキをはこんでゆき、3年ぶり王座奪還のゴールテープにとびこんでいった。
 後手にまわった佛教大、負けるときのパターンというべき、すべてが裏目となり、悪循環にはまりこんだ。追う側に立ってしまった宿命というべきか。各ランナーともに前半はハイペースで突っ込んでゆき、後半ペースダウンして逆に離されるというパターンに終始していた。
 立命館よりも万全の態勢でレースにのぞみながら、万全であるがゆえに紙一重のところにある陥穽に落ち込んでしまったというべきか。負けるべきして負けた。実力というよりも今回はモーティべーションの差が勝敗を分けたというべきだろう。



▽名城大、京都産業大が善戦!


 佛教大は結果的にみて1区がすべてだった。3区で競り合う展開になっていたら、活路はあっただろうが、1区、2区でレース巧者に翻弄されてしまった。
 2位の佛教大とわずか11秒しか遅れなかった名城大、確実にチーム力は上昇していた。この2年間は京都の2強とかなり水をあけあれていたが、今回の健闘で3強体制復活の足がかりができあがった。
 4位の京都産業大学もメンバーのうち1年生が4人もいるだけに、まだまだ伸びしろがありそうだ。次回はさらい底上げがみこめそうである。
 そのほか注目されていた初出場の大東文化大学は3区で期待の1年生・田山満里が熱中症で途中棄権するというアクシデント。2区を終わって3位につけていただけに、惜しまれる。順当ならばシード権争いにもからんでいた。次回は着実に力をつkてくるだろうから要注目である。
 王座を奪還した立命館大は悔しさをバネにして、みごとリベンジを果たした。レース後も泣き崩れていた佛教大の渋谷璃沙、今回嘗めた辛酸をどれほど肥やしにできるか。どの底まで落ちれば、あとは浮かびがるだけだ。悔しさをバネいして、どこまで伸びてくるか。そして大東文化大の田山満里も例外ではない。記憶にとどめてしっかり見まもりたいと思う。



◇ 日時:2010年10月23日(日)午後0時10分スタート
◇ 場所:宮城県仙台市
◇ コース:宮城野区・宮城陸上競技場をスタート、JR長町駅前、青葉区・宮城学院女子大前などを巡り、市役所前市民広場にゴールする。6区間計38.6㎞。
◇ 天気:くもり 気温:25.2度  湿度:70%  風:東南 2.0m
◇立命館大学(竹中理沙、藪下明音、田中華絵、池田睦美、津田真衣、岩川真知子)


■総合成績
1 立命館大学 2時間06分29秒
2 佛教大学 2時間07分47秒
3 名城大学 2時間07分58秒
4 京産大学 2時間11分00秒
5 松山大学 2時間11分15秒
6 城西大学 2時間11分35秒
7 鹿屋体育大学 2時間11分57秒
8 順天堂大学 2時間12分13秒
9 白鴎大学 2時間13分11秒
10 大阪学院大学 2時間13分22秒
11 城西国際大学 2時間13分44秒
12 福岡大学 2時間14分02秒
13 玉川大学 2時間14分07秒
14 関西大学 2時間16分16秒
15 中央大学 2時間17分22秒
16 東亜大学 2時間18分29秒
17 岡山大学 2時間18分39秒
18 中京大学 2時間18分43秒
19 立命館アジア太平洋大学 2時間20分24秒
20 神戸学院大学 2時間20分44秒
21 東北福祉大学 2時間21分10秒
22 新潟大学 2時間23分59秒
23 福島大学 2時間26分00秒
24 北海道教育大学 2時間29分49秒
OP 東北学連選抜 2時間19分27秒
途中棄権 大東文化大学


■区間成績

1区(05.8㎞) 竹中理沙(立命館大) 18:16◎
2区(06.8㎞) 藪下明音(立命館大) 22:26
3区(09.1㎞) 吉本ひかり(佛教大)  30:06
4区(04.9㎞) 池田睦美(立命館大) 15:20
5区(04.0㎞) 森知奈美(佛教大)   12:56
6区(08.0㎞) 八木絵里(名城大)   26:21


◇詳しい成績はこちら
http://www.morino-miyako.com/pdf/morino-miyako29_results2011.pdf