19年連続19回目の出場、天満屋が悲願の初優勝
  満を持して後半に逆転、乱戦を断つ!



▽勝負のゆくえを決した5区の攻防!


 記念すべき30回目をむかえる本大会、いろんな意味で曲がり角にさしかかる日本女子の長距離のありようを象徴するかのように、レースはおおかたの予想通りに大乱戦となり、1区、2区、3区、そして4区になろうと、さっぱり勝負の行方はみえてこなかった。 4区をおわってトップは第一生命、デンソー、ワコール、豊田自動織機、天満屋とつづき、この5チームが16秒以内にひしめいていた。連覇をねらう三井住友海上は47秒おくれの6位、西日本予選を制し、優勝候補の一角にあげられていたダイハツは49秒おくれの7位に甘んじており、完全に優勝争いからは脱落していた。
 かくして優勝争いは前記の上位5チームにしぼられ、最長の5区の攻防にすべてがゆだねられたのである。
 トップをゆく第一生命は野尻あずさ、2位のデンソーは高島由香、ワコールは高藤千紘、豊田自動織機は脇田茜、そして天満屋は重友梨佐を配してきた。5区は最長距離だが、各チームともに3区重視の布陣をとり、一般的には区には準エース格の選手を配してきている。そのなかで実績十分といえるのは第一生命の野尻、豊田自動織機の脇田、天満屋の重友の3人で、デンソー高島、ワコール高藤の劣勢は否めないところだった。
 かくして戦力からみるかぎり、第一生命、豊田自動織機、天満屋に分のある展開となったのである。
 4区でトップに立った第一生命、野尻あずさは快調に逃げた。1㎞=3:07、3㎞=9:36、5㎞=16;10……、悪くはなかった。ワコールのリーキー高藤がデンソーをかわして2位にあがり、ひとたびは3秒差まで迫る勢いをしめしたが、オーバーペースで失速、若さを露呈してしまった。
 冷静はレース運びをみせたのは天満屋の重友、デンソーの高島とならんでワコールを追い上げ、3㎞で2位集団になったと思いきや、4㎞ではやくも集団を抜けだして第一生命の野尻を追いはじめたのである。
 5㎞では5秒差まで迫り、5,6㎞では野尻の背後につけたかと思うと、5.8㎞では野尻をあっさりと後ろに置いていったのである。その差はじりじりとひろがる一方だった。
 4区でトップに立った第一生命にしてみれば、ここまでは予定通りの展開だったことだろう。事実、勝負の流れは第一生命に傾きかけていた。野尻が快走して、この5区でトップをまもれば、あるいは、そのままゴールまで駈けぬけていたかも……。
 重友はそんな第一生命の思惑を粉砕してしまったのである。
 重友の快走で、第5中継所では22秒もの大差がついてしまい、勝負の流れはこんどは天満屋に傾いた。変転する勝負の流れをうまくつかんだというべきか。アンカーに浦田佳小里のようなランナーを配することのできた天満屋は幸運であった。駅伝の古豪チームらしく、めぐってきたチャンスをもはやのがさなかった。





▽乱戦さながらの展開!……1区・2区


 レースは波乱含みで幕明けた。
 連覇をねらう三井住友海上の山下郁代がひっぱるかたちでスタートしたが1㎞=3:20というスローの展開、これでは24チームすべてがついてくる。
 2㎞をすぎてもいぜん24チームがひとかたまりのダンゴ状態、三井住友の山下、ユニバーサルの那須川瑞穂、ワコールの稲富友香らがいれかわりたちかわりトップをうかがう。ペースがあがったのは2㎞なかばからで3㎞あたりで、集団は縦長にのびはじめ、歯がこぼれるように1チーム、2チームとこぼれていった。
 レースがうごいたのは4㎞すぎで、先頭集団は8チームほどになり、ここで第一生命の田中智美がしかけた。リーキー田中のとびだしに反応したのは、ユニバーサルの那須川と三井住友の山下のふたりだった。
 5㎞では完全に3人がぬけだすかっこうになったが、主導権はいぜん田中がにぎっていて、さらにスピードアップして抜けだしをはかるが、那須川、山下もゆずらない。逆に6㎞では那須川がトップを奪ってしまう。
 3人の激しいせめぎあいは最後までつづいたが、中継所の手前で那須川がスパートして抜けだした。
 那須川瑞穂は本大会で2度目の区間賞、最初はなんと9年まえの2001年である。このときは積水化学から出場、2区で区間賞をもぎとっている。
 ユニバーサルにつづいては三井住友海上、第一生命、天満屋、資生堂とつづき、優勝候補の一角豊田自動織機は15秒差の7位、ワコールは15秒おくれの8位と好位置をキープしたがダイハツは21秒おくれの10位とやや出遅れた。
 2区は外国人特区だが、トップでタスキをうけたユニバーサルエンタテイメントのF・ワンジクが2㎞= 5:48のパースではいり後続をちぎりはじまる。後ろからは豊田自動織機のA・カリンジが5人ぬきで2位にあがってくるも3位以下は大混戦となる。
 ユニバのF・ワンジクがトップで通過するも、豊田自動織機のA・カリンジが7秒差まで追い上げ、3位にもP・モジュスのデンソーがやってきて、やはり上位は助っ人ランナーが占めることになった。
 トップをゆくのは伏兵のユニバーサル、以下豊田自動織機、デンソー、資生堂、第一生命、天満屋、三井住友、ワコールとつづき、ここまでが43秒差となったところで、エース区間3区をむかえるのである。



▽やはり駅伝では抜群の強さを発揮……福士加代子


 ユニバーサルの堀江知佳を豊田自動織機のルーキー小島一恵が追う展開ではじまった3区、だが後続は大混戦となった。
 デンソーの杉原加代、第一生命の勝又美咲、天満屋の中村友梨香、三井住友の渋井陽子というトップクラスの顔ぶれ、その後ろから8位発進のワコール・福士加代子が猛然と追ってくるのである。
 エンジンフル回転の福士は3㎞手前で6人抜きで2位に浮上、3㎞ではトップをゆくユニバーサルの堀江もとらえてしまうのである。そして後ろからは16位発進のホクレン・赤羽有紀子がごぼう抜きでやってくる。
 トップをうばった福士はじりじりと後続との差をひろげ、三井住友海上の渋井陽子、豊田自動織機の小島一恵らもユニバーサルの堀江に追いつき、2位争いははげしくなってゆく。
 福士の5㎞は15:27、2位集団に15秒あまりの差をつけて独走状態、対照的にシスメックスの野口みずきはあえぐような苦しい走りとなり、どんどん順位をおとしていった。失 福士は後半になるとさすがに苦しい表情になぅたが、足もとはしっかりしていて、7㎞では2位以下との差を22秒として、独走状態を築いてしまった。
 広州のアジア大会では、まったく輝きをうしなっていた福士加代子、駅伝娘ももはや終わりかと思われた。だが、国内の駅伝になると「水を得た魚」というべきか、渋井や杉原らをまとめて抜き去った姿、登載するエンジンがまるでちがっていた。まさに圧巻の走りであった。
 対照的だったのは三井住友の渋井陽子である。マラソンはともかく駅伝となればいつも強いところをみせるのだが、今回はまったく勢いというものがなかった。福士にあっさりと置き去りにされてしまったの。本調子を欠いていたというよりも、なぜかモーチベーションのたかまりを欠いていたようである。
 福士の爆走でワコールが主導権をにぎるかと思いきや、4区になってまた紛れが出て、情勢は一変してしまう。
 首位のワコールはルーキー19歳の松本梢、後ろから第一生命の垣見優佳とデンソーの古賀裕美が猛追してくるのである。3㎞手前では5秒差となり、3.2㎞では垣見があっさりと松本を交わしてしまった。
 かくして3区では第一生命がワコールから主導権をうばい、最長区の5区はデンソーをくわえた3チームによるトモエ戦で、熾烈なトップ争いがくりひろげられるのである。
 さらに14秒差で豊田自動織機、16秒差で天満屋がつづき、ここまでが優勝圏内、三井住友は47秒差(6位)、ダイハツは49秒差(7位)と低迷、ここで優勝圏内からは完全に脱落してしまった。




▽分厚い戦力がモノをいう


 天満屋は19回連続19回目の出場での初制覇である。この5~6年はつねに2位~3位を占めながらも、いまいっぽ優勝には手が届かなかった。それだけに、まさに悲願の初優勝というにふさわしい。
 勝因をあげれば分厚い戦力というべきだろう。エースの中村友梨香は区間6位とふるわず、坂本直子も出場できなかったが、それでいて後半勝負がみごとにはまった。とくに4区から6区の後半が強かった。課題の若手も重友梨佐が台頭、5区でトップを奪い初優勝の立役者となった。この重友と6区のアンカー・浦田佳小里に二人が区間賞、4区の栗栖由江も区間4位ながらトップとの差を詰めて追撃の狼煙をあげた。
 2位の第一生命も期待にかがわない戦いぶりであった。中盤では主導権をにぎりながら、勝負所で惜しくも天満屋に競り負けてしまった。うがったみかたをすれば尾崎好美の温存がひびいたのではないか。もし尾崎が出ていれば5区だろうから、そうすればアンカーに野尻あずさをまわせるから、強力なオーダーになったはずだ。安藤美由紀をアンカーにしてのラストランを飾らせようというもくろみがあって、尾崎を外したとすれば、そんな甘さでは戦うまえから負けていたというべきだろう。
 3位の豊田自動織機、後半もりかえして3位までやってきた。若いチームだけに来年以降に上澄みがありそうである。
 4位にユニバーサルエンターテイメント、前半首位を突っ走り、3区では9位まで順位をおとしながら最後は4位まであげてきた。大健闘というべきであろう。
 5位のは連覇をねらった三井住友がねばりこんだ。かつての王者も曲がり角にさしかかったというべきか。たのみの渋井陽子の調子さながらに今回はいいとろがなかった。東日本予選であれだけ崩れては、本戦でも建て直すことができなかったようである。
 西日本予選でトップを争ったダイハツとワコールは7位、8位に沈んでしまった。ダイハツはエースの木崎良子にアジア大会ショックが残っていたのか。ピリッとしたところがなかった。それがチーム全体の雰囲気にも影響をおよぼしたようである。
 ワコールは3区でひとたびはトップに立ったが、懸念されたように後半くずれてしまった。優勝するには1枚コマが足りないようである。もう一枚候補として野田頭美穂、風間夕希、樋口紀子と名のりをあげてきたが、ことごとく失敗している。成長株の高藤千紘を育てようという腹だったのだが、この大バクチは功を奏さなかった。本大会に関していうならば1区に高藤、5区に稲富ではなかったか。そうすれば8位まで順位を落とすことはなかっただろう。




▽転機に立つ女子長距離!


 9年ぶりに駅伝を走った野口みずきは、エントリーが発表されたとき「顔ぶれは昔と変わらない」といったとか。きわめて意味深長な捨てセリフである。それが皮肉仁聞こえてしまうところに、今日の日本女子長距離の問題点がある。
 9年まえ、つまり2001年の本大会、野口みずきはグローバリーから出場している。三井住友海上が連覇を達成してシーズンだが、このとき野口のグローバリーは5位入賞を果たしている。渋井陽子、福士加代子も出ていた。今回1区で区間賞をうばった那須川瑞穂も2区で区間賞をとっているのである。
 とまり日本の長距離は9年まえから渋井陽子、福士加代子を中心にまわってきて、今も変わらないということなのだえる。この二人ほどのスーパースターが現れてこないところに問題点があるということを、いみじくも野口の捨てぜりふが浮き彫りにしてみせたのである。
 確かにスーパールーキーといわれて今回、本大会に初出場した小島一恵にしたところで、デビュー当時の福士や渋井にくらべれば小粒だといわねばらないだろう。日本の女子長距離を背負う原石がなかなか現れてこないのである。だから野口みずきのようなかつてのヒローインが出るだけで、期待過剰の脚光をあびてしまう。
 それにしても……。今回のTBSだが、あまりにも駅伝というモノを知らなすぎる。前日の特集番組にしても、スポットを当てたのが「野口みずき」、話題にあがるのは当然だだとしても、あのような期待過剰なあつかいは本人にとっても酷というものではないか。故障でブランクがあって3年近く走っていないランナーが、厳しいレースでいきなりベストに近い走りができるわけもない。それにもかかわらず「3区には野口みずきがひかえていますから……」なんて、アナウンスの代表されるような期待をあおる。駅伝というものをまるで知らないのである。
 野口が本戦で区間20位に沈んだのは、あまりにもメディアが過剰な期待をあおったせいも多分にあるだろう。ホメ殺しに一脈通じる残酷物語というほかない。


◇ 日時 2010年 12月 19日(日)12時00分 スタート
◇ コース:岐阜市・長良川競技場~大垣市総合体育館折り返し 6区間42.195km
◇ 天候:快晴  気温9.1度 湿度48% 風:北西0.5m(正午) 
◇ 優勝:天満屋(泉有花、小原怜、中村友梨香、栗栖由江、重友梨佐、浦田佳小里)


☆最終成績はこちら

http://www.tbs.co.jp/ekiden/live.html



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