女子駅伝の日本一を競う全日本実業団女子駅伝(正確には第30回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会)はいいいよ4日後に迫った。今回も各地区予選を勝ちぬいた24チームが覇をあらそう。


 例年通りに岐阜市をスタートして大垣市へ、そして岐阜市にもどってくる6区間42.195㎞のコースで開催されるが、来年からは仙台市にうつるため、岐阜・美濃路での開催は今回が最後になる。


 昨今駅伝人気は凋落傾向で、ながねんその中核をなしてきた女子駅伝といえども、いまひとつもりあがらないようである。たとえばTBSの公式サイトはようやく14日になってオープン、その内容たるや、とても、やる気があるとは思われないオソマツぶり。共催・後援の毎日新聞、スポニチもテンションはあがっていないのである。


 うがった見方をすれば、仙台にうつすということは10月末開催の全日本大学女子駅伝と合体するという布石ではないかという深読みも、あながち否定できないのである。


 転機をむかえた女子駅伝をとりまく情勢を反映するかのように、今年のレースは歴史上類のない混戦模様になりそうである。むしろ混戦というよりも乱戦といったほうが至当かもしれない。


「乱戦」であろうが「混戦」であろうが、駅伝時評子としては、大恥をかくことを覚悟してうえでレース展望をしなければならない。因果な回り合わせだが、好きでやっていることだから、もとより結果論として罵詈雑言を浴びても本望だといっておこう。


 展望するにやっかいなのは、今年の場合は「軸」がみつからないことにつきる。競馬にたとえていうならば中心馬不在のレースというわけである。優勝してもおかしくないチームが五指にあまるというような状況なのである。


 まずは関東勢からみてゆこう。予選1位は第一生命、パナソニック、ユニバーサル、ホクレン、スターツとつづき、昨年日本一の三井住友海上は6位、昨年1位の豊田自動織機は8位におわった。だが、今年の場合、予選の成績はまったく信頼できないのである。予選出場13チームは無事故完走すれば、すべて本戦に出場できるという情勢だから、各チームとも本気で戦っていない。三井住友や豊田にしてもベストメンバーではのぞんでいなかったのである。


 そんななかで、ほぼベストの顔ぶれでビシッと仕上げてきた第一生命の優勝は当然の結果だった。総合力でも上位にあり、本戦でも優勝候補の一角であることにはまちがいないとみる。混戦になったばあい、こういうチームが最後に抜けだすのかもしれない。


 三井住友海上は前回優勝メンバー全6人が顔をそろえながら、予選は6位と惨敗してしまった。前回も予選では勝てなかったが本戦ではキチッと建て直してきただけに、今回も油断は出来ないだろう。各ランナーともに駅伝巧者だけに、エースの渋井陽子がパンとしていれば連覇も夢ではない。


 一昨年の覇者・豊田自動織機は若いチームだけに昨年は若さをさらけだしてしまった。今年も予選では8位にあまんじたが、ベストメンバーではなかったことを考えれば、本戦では上積みがあろう。新谷仁美とスーパールーキー・小島一恵が加わってチームに芯ができれば、ふたたび若い力が爆発するやもしれぬ。


 ダークホース的な存在をあげればユニバーサルエンターテイメントか。3年連続で東日本予選3位と安定している。那須川瑞穂、堀江知佳を中心にして原裕美子が加わり、分厚い戦力になっている。


 関西勢力では、予選で最後までしのぎをけずったダイハツとワコール、そして3位のシスメックスよりも4位に甘んじた天満屋が優勝候補の一角にあげられる。


 ダイハツは中里麗美、木崎良子という2枚看板がフルに回転すれば活路がある。前回の全日本では序盤に出遅れて、それがすべてだったが、序盤で好位置をキープすれば関東勢に割ってはいる力は十分にある。


 予選ではダイハツにわずか1秒おくれをとったワコールも圏内にある。予選では敗れたものの福士加代子、稲富友香、高藤千紘の3選手が区間賞をもぎとっている。内容的にはダイハツと互角の形勢とみる。いまや中堅になりつつある野田頭美穂らが万全の体調でエントリーされてくればおもしろい存在になる。


 天満屋は9年連続入賞中である。坂本直子、中村友梨香、浦田佳小里とそろっている。実績あるチームで毎回大きくくずれることがないだけに、若手の踏ん張りがあれば優勝争いに絡んでくるだろう。


 あとは1500mで日本選手権5連覇中の吉川美香がひっぱるパナソニック、日本最強のママさんランナーを中軸にするホクレン、初出場ながら西日本予選で3位にはいったシスメックスだが、安定勢力ではあっても、優勝争いにもちこむにはチーム力が足りないだろう。


 今回のトピックはもっぱらアテネ五輪女子マラソンの金メダリスト・野口みずき(シスメックス)の復活である。シスメックスは初出場ながら野口効果で西日本予選では3位にはいって、あの天満屋をおさえた。


 だが野口みずきに多くをのぞむのは酷というものである。マラソンではなく駅伝とはいえ、過去の名前が、いつでも額面通りに通用するほど、この世界は甘くはない。もどってきた野口みずきを温かくむかえ、いまはその走りをとくとみまもりたいと思う。


 優勝争いはおそらく上記の7チーム、つまり第一生命、三井住友海上、豊田自動織機、ユニバーサルエンターテイメント、ダイハツ、ワコール、天満屋……、7つものチームを候補にあげては展望にも予想にもならない、いわば予想屋ならばギブアップの状態だが、事実、それほど今年の戦力は拮抗しているのである。


 まさに「当日、走ってみなければわからん」状態だから、あえて無責任というそしりを覚悟のうえで、この7強のなかから、大会当日にベストのコンディションをととのえたチームが岐阜のラストランで微笑むことになる……と締めさせていただこう。


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