東洋大学が2連覇を達成!
今回も勝負をきめた! 新「山の神」柏原竜二



▽巨大化したがゆえの宿命!


 箱根駅伝はテレビ(日本テレビ系)というメディアとむすびついて、超ビッグスポーツとなった。関東地区における平均視聴率はつねに25%をこえている。
 今年も2日=27.2%、3日=27.9%で往路と復路の平均は27.5%となり、歴代7位にあたるという。関西でも14.5%、15,4%を記録した。
 15%をこえれば人気番組といわれ、25%をこえれば、もう、これは怪物番組だというほかない。
 それゆえにマスコミの注目度もたかく、ちょっとした動向にも過敏に反応するのはいたしかたない。とはいえ、大会が終わって翌日に、はやくもルール改正の話が出てくるというのはいかがなものだろうか。
 4日付の「Nikkansports com」(
http://www.nikkansports.com/sports/hakone-ekiden/2010/news/p-sp-tp0-20100104-582370.html )によると「柏原快走で5区再短縮も」という記事が掲載されているのである。
 東洋大学の柏原竜二が度肝をぬくような爆走ぶりをみせた5区について、コース変更をもとめる声が出ているというのである。思わずわが眼をうたがってしまった。
 それも3日の大会終了後、東洋大に敗れた各大学の監督から5区の距離を見直すべし……という声が続出したというのだ。
 箱根5区は2006年に2.5㎞のびて、10区間のうちで最長の23.4㎞になった。その結果、5区の重要性が突出、選手の負担もふえたとして、もとの距離にもどしたほうがいいというのが表向きの理由である。。
 たしかに5区の距離がのびたことによって、5区のデキいかんが優勝に直結する奇妙な現象が続いている。事実、山登りでは選手の実力差がはっきりあらわれるようになった。山登りに強い選手がいるチームが有利にはこぶケースがふえている。だが、それもひっくるめて箱根駅伝というものではないだろうか。
 指導者は山登りに強い選手を育成すればいいのである。自身の仕事をしっかりやりもしないで、手っ取り早くルール改正を言い出すのは指導者として失格ではないのか。それも大会が終わった直後にそんなことを口にする。不謹慎なことこのうえもない。
 裏をかえせば、それほど柏原の東洋大に負けたのが悔しい。さらにメディアの注目度がおおきいだけに、自身の立場のなさ……がいっそう浮き彫りになって、すっかり狼狽してしまったのかもしれない。なりふりかまわぬ物言いがそんなかたちになったのであろう。なんともはや情けないというほかない。



▽観る駅伝としては、いまひとつ!


 選手や監督・コーチー、大会の主催者もふくめて競技者サイドとぼくたちのようなファン……とでは、駅伝レースというものをとらえるうえでかなりおおきなズレがあるだろう。
 ファンはつねにレースにドラマをもとめる。テレビを観ながら勝手なことをいう。競技者サイドは駅伝にドラマなんていらない……というのが本音だろう。めまぐるしい順位争いなどのぞむはずもなく、どこかで先頭に立ったら、あとは、たんたんとしたレース運びでゴールまでタスキをはこんでゆきたいと考える。そういういみである種の乖離があるのはしかたがないところである。
 ところで今回の箱根駅伝はどうだったか? 
 出場選手たちをはじめ競技者サイドにしてみれば、それぞれが全力をつくし、いつもとかわらぬレースをしたにすぎないのだろうが、ぼくたち観戦者にしてみれば、近年まれにみる盛りあがりを欠いたレースだったとみている。不謹慎なことをいえば、とくに復路はなんども眠気にさそわれてしまった。
 前回は復路でもおおきなヤマ場があった。8区まで東洋大と早稲田がはげしくトップ争い演じ、まさに固唾を飲みながらなりゆきをみまもっていた。
 ところが今回は往路で勝負の大勢が決してしまった。シード権争いにしても、それほどの緊張感もなく、みどころというものがとぼしかった。
 昨年のように竹澤健介や佐藤悠基などのスーパーエースもみあたらず、選手個人の魅力にひっぱられるということもなかった。
 そんななかで最大のみどころはといえば、あとにもさきにも5区の山登り、柏原竜二の走りをおいてほかにはなにもないというありさまだった。



▽今年もやっえきた新「山の神」


 とにかく5区は今回もおもしろかった。
 明治大がトップをゆき、日体大、日大、山梨学院大、早稲田大がつづき、7位で東洋大が追うというかたちで、観戦者としてみれば、これ以上のぞめないお膳立てがととのったのである。
 前回の柏原竜二は9位でタスキをもらっているが、そのときトップをゆく早稲田との差は4分58秒であった。今回は7位でトップの明治とは4分26秒差、ほとんど同じような展開である。
 優勝争いという意味では、最大のライバルである日大、早稲田が先行しているが、1分以内ならば射程距離というべきで、柏原にしてみれば昨年よりも気分的には楽だったのではあるまいか。
 柏原はいつもながら急ピッチで追いかけ、3.2㎞では4位から落ちてきた日大の笹崎慎一をとらえ、4㎞を12:05秒で通過、4.3㎞では早稲田の八木勇樹と山梨学院の大谷康太をまとめてぬいた。八木が柏原の後ろにピタとつき、二人が雁行するかたちで5.3㎞では東農大の貝塚信洋をぬいて3位に浮上する。そして函嶺洞門のあたりで早稲田の八木をふりきり、トップ明治との差を3分に詰めた。
 9.4㎞では2位の日本体育大・長尾正樹をとらえて2位に浮上すると、大平台ではトップ明治との差を1:24としたのである。
 ちなみに大平台の通過順位は1位明治大、2位東洋大、3位日本体育大、4位山梨学院大、5位東農大、6位早大、7位中大とつづき、後ろからは駒澤大の深津卓也が追い上げて13位から11位に浮上していた。
 10㎞までにトップとの差が3分も詰まってしまった。そうなれば、もう柏原が明治大の久國公也をとらえるのは時間の問題だった。
 事実その差はみるみると詰まり、宮ノ下では28秒差である。追う柏原と逃げる久國、走りがまるでちがってみえた。そして12.7㎞、柏原は躰がまえに進まず、まるであえぐようにのたうつ明治大学の久國に追いつき、もはや追う余力がないとみたのか、一気に置き去りにしたのである。
 小涌園まえでは2位の明治との差は55秒とひらき、山の神・柏原の快走で東洋大は独走体制をきづきあげた。小涌園前での3位以下の通過順位は日本体育大、山梨学院大とつづき、後ろからは中央大学が3人抜きで5位に浮上、以下東農大、早稲田大、城西大、青山学院大、駒澤大……となっていた。
 トップを独走する柏原のペースはゆるむことなく、5時間32分02秒で往路のゴールにとびこんでいった。かくして東洋大は2年連続で往路優勝。そして柏原は前回自身がつくった区間記録を更新、1時間17分09秒という区間新記録を樹立した。
柏原はなんとトップとの差4分26秒をひっくり返し、さらに後続を3分36秒もちぎってしまった。

 区間1位の柏原と20位の日大・笹崎慎一とでは実に12分14秒もの大差ができてしまっている。他の区間はせいぜいい4~5分ぐらいだから、倍以上の差がついてしまうことになる。
 山で誤算だったのは早稲田だろう。エース格の八木勇樹を起用しながら、柏原にあおられたせいなのか。区間9位という成績に終わり、順位をあげるどころか、逆に1つ落としたうえに、東洋大の6分05秒という大差をつけられてしまったのである。



▽主力の明暗をわけた第1区!


 4区までトップをひた走っていた明治大学は5区で6位まで順位をおとしてしまったが予定していた松本昂大がつかえなかったのだからしかたのないところか。だが明治の健闘はたたえられていいだろう。
 往路では今回1区も興味ふかいものがあった。いつもなら超スローの展開で幕あけるのだが、今回は1㎞=2:53とまずまずのスタートだった。それはひとえに学連選抜の森本卓司が積極的にひっぱったからである。森本を中心にして早稲田の矢澤曜、明治大の北條尚がつづくというかたちでレースはすすんだ。
 5㎞=14:35、9㎞すぎからは早稲田の矢澤がペースアップしてひっぱった。そんななかで8㎞手前では駒澤の後藤田健介、8㎞すぎでは東海大の刀禰健太郎、日本大学の谷口恭悠が置き去りにされていった。
 先頭集団の10㎞通過は29:07……。12㎞手前で東農大の清水和郎、日本体育大の出口和也が遅れはじめ、15㎞では早稲田・矢澤、明治・北條の二人がひっぱり先頭集団は7人となる。
 集団がばらけたのは18㎞の手前であった。明治の北條がスパート、早稲田の矢澤が追う展開になったが、20㎞手前で北條が2段スパートをかけ、矢澤をおおきく引き離してしまうのである。ここから明治の快進撃がはじまったのである。
 早稲田はトップ明治と13秒差の2位と絶好のポジションにつけ、東洋大は35秒おくれの5位とまずまずだったが、日大は1:59差の13位、駒澤大は2:47差の18位と大きく出遅れて明暗をわけた。



▽往路は明治大が健闘


 第2区は「花の2区」といわれてきたが、5区の注目度が高まり、近年はいささか影の薄くなってしまったが、日大のダニエルと東海大の1年生・村澤明伸の快走がみられた。 ダニエルの日大は13位からの発進、そして村澤の東海は14位からの発進、そして駒澤の宇賀地強が18位から発進……というぐあいに、主力どころは後方から追い上げをはかるという展開になった。
 ダニエルは10㎞手前で5人抜きの8位にあがり、後ろから村澤、宇賀地も順位をあげてくる。そんな後方の順位争いを尻目に明治の石川卓哉はゆうゆうの独走、このあたり流れは完全に明治にかたむいていた。
 15㎞すぎでは石川と早稲田の尾崎貴宏、山梨学院大・高瀬無量、城西大・高橋健太からなる2位集団に1分05秒もの差をつけてしまう。
 ダニエルの追撃はその後もつづき、17㎞すぎで早稲田、19㎞では山梨学院大をぬいて11人抜き。とうとう2位までやってくるのである。東海大の村澤も20㎞手前では6人抜きで6位までやってきた。さらに21.5㎞では早稲田の尾崎もとらえて10人抜きで4位までやってくるのである。
 ダニエルは22㎞あたりでは明治の石川の背中がみえるところまでやってきたが、追撃もそこまでだった。最後はいまひとつ伸びを欠いて、38秒差まで迫るのがやっとであった。 日大にしてみれば、この2区でトップに立てなかったのが最後までひびいたというべきだろう。
 明治は3区に鎧坂哲哉を配して2位にやってきた山梨学院に52秒差をつけた。4区では今シーズン絶好調の安田昌倫が区間賞の快走、2位にやってきた日本体育大に2分39秒もの差をつけてしまった。
 このように2位以下の順位がめまぐるしく変転するなかで、明治大は独走態勢をつくりあげてしまった。往路にかんするかぎりレースの大半は明治がイニシャティブをにぎっていた。
 そういう流れを、あの柏原竜二が一気にぶちこわしたのである。



▽駒澤大が復路で復活ののろし!


 3分36秒もの貯金をかかえた東洋大は復路も堅実だった。とくに7区の田中貴章の走りがみごとだった。前半はゆっくりためて、後半に勝負をかけるという王者の走りに区間賞である。山下りの6区で山梨学院に追われていただけに、ここで後続の追撃を断ち切り勝負を決めたといっていい。
 復路で実力をしめしたのは駒澤大であった。6区の千葉健太が区間賞で順位を6位まで押し上げると、7区の撹上宏光で4位に浮上、9区の高林祐介が区間賞で2位までやってきた。
 復路では東洋大を3分30秒うわまわり、みごと復路優勝である。出雲では10位、全日本では7位に沈んでシード権さえうしなった。そこからはいあがってきたのは、やはり地力がある証拠だろう。まさに復活ののろしをあげたというべきで、次は怖い存在になりそうである。
 東洋大は山梨と駒澤によるはげしく2位争いを尻目に逃げきってしまったというかたちになるが、復路も8区までは駒澤とはげしく復路優勝をあらそっていた。
 そういう意味で総合力では、やはり一枚抜けた存在というべきで、柏原竜二ひとりが強かったわけではない。とくに復路のランナーは終始、独走状態でタスキをもらっているが、前半はゆっくりはいって、中盤から後半にかけてペースをあげるという王者の走りがちゃんと出来ていた。
 復路はいつも熾烈なシード権争いが焦点になるが、今回ははやばやと10位までのチーム順位が確定してしまい、めずらしく平穏な復路となった。
 優勝はきまってしまい、シード権争いも波乱がない……というわけで、テレビの前でうたた寝するしまつだった。



▽東洋の黄金時代到来か!


 東洋大の優勝は讃えていいだろう。プレッシャーをはねのけてみごと連覇を達成した。前回と同じように往路は柏原竜二の快走によるところがおおきい。その柏原もあれほどメディアの注目をあび、ライバルチームからは標的にされる存在だったが、そんなプレッシャーをみごとにはねかえした。
 復路も各選手たちはそれぞれ自分の役割というものをよく理解して、きちっと果たしている。チームとしてのまとまりでもきわだっていた。
 2位の駒澤大は大健闘……といっておこう。強豪チームに「大健闘」というのは失礼かもしれないが、出雲、全日本の戦いぶりからすれば、今回もシード権すら危ういのではないかと思われた。しかも往路では8位と沈みながら、そかから2位までやってきた。復活の足がかりをつかんだといってもいい。
 3位の山梨学院大、4位の中央大学……終わってみれば、来るべきチームがちゃんと上位に来ている。
 5位の東京農大、6位の城西大。こちらのほうは大健闘、それに8位の青山学院も加えておこう。とくに城西大は前回は8区の思わぬアクシデントで途中棄権、記録すらのこらなかった。今回は往路は10位ながら復路は3位で総合6位で初めてシード権を獲得した。

 躍進のおおきな役割を果たしたのが、昨年8区の19㎞地点で両脇をかかえながらレースをリタイヤした石田亮の快走である。7区に登場した今年は7位でタスキをもらい、区間2位の走りでチームを6位におしあげた。みごと昨年のリベンジを果たした石田の眼にあふれる涙、爽やかな輝きをはなっていた。

 青山学院大も41年ぶりにシード権を獲得、予選会8位、本戦も8位にもぐりこんだ。2004年から強化にのりだし、推薦勧誘や合宿所をつくったりしたことが実を結んだといえる。城西大とともに新勢力になりそうである。
 なんとも物足りなかったのは早稲田だろろう。早稲田競技部の含宿所に近くに住み、毎朝のランニングで、その前をとおりかかるだけに、影ながら早稲田に声援をおくってきた。往路7位、復路10位、総合7位というのは、候補の一角といわれていただけにいかにもさびしい結果である。

 ベストメンバーが組めなかったとはいえ、復路の10位というのは納得できないのである。5区に八木勇樹を起用したのが裏目に出て、山下りのスペシャリストといわれた加藤創大はなんと区間16位というありさま、東洋大とは好対照に「山」で敗れた。

 それにしても高校駅伝のスーパースターとして、あれだけ騒がれた2年生トリオにしても、まったく育っていない。いったいどういうことなのか。戦う以前に中心をなす選手が不在で、チーム自体が空中分解してしまったようである。
 学生2冠の日本大学は総合15位に沈んでシード権すら失った。往路では4区まで4位につけていただけに、この大崩れはどうしたものなのだろうか。

 日本体育大学も往路では3位につけながら、復路は17位に沈んで、総合9位とかろうじてシード圏内をまもるというありさまだった。

 そういう意味で東洋大をやすやすと前にゆかせたのは、あるいみで主力どころがこぞって自滅してしまったせいもある。

 東洋大の2連覇で、5区の区間見直し問題もふくめ、今後はいろんなかたちで「包囲網」が形成されるのだろう。

 復活・駒澤大がチャレンジャーの1番手になるか。それとも早稲田大、日本体育大、日本大学、中央大学、山梨学院大といった名門チームの巻き返しがあるのか。東海大、城西大、東京農大といった第3勢力の台頭があるのか。

 いまから来季の形勢はよめないが、すくなくとも柏原竜二が在学するあと2年間は東洋大を中心にまわってゆくとみた。




◇ 日時 2010年 1月 2~3日(祝) :午前8時00分 スタート
◇ コース: 東京・読売新聞東京本社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(108.0Km)、復路5区間(109.9Km)の合計10区間(217.9km)
◇天気:往路 晴れ 気温:6.8度 湿度:43% 風:無風(午前7時20分)
    復路 曇り 気温:4.0度 湿度:80% 風:横風3m
◇東洋大学(宇野博之、大津翔吾、渡辺公志、世古浩基、柏原竜二、市川孝徳、田中貴章、千葉優、工藤正也、高見諒)