男子は世羅が通算6度目、女子は豊川が連覇を達成

男女ともに、本命が順当に上位を占めたものの……!



▽皮肉というべきか! 留学生が勝負をきめた!


 昨シーズンの本大会の時評で次のように書いた。
「駅伝の勝負という観点から見れば、留学生の集中する中盤以降の長い距離の区間が勝負のポイントになりそうである。」
 つまり前回からルール改正で留学生の走る区間について「1区はまかりならぬ」というおふれが出ている。だからケニア人をはじめとする留学生にかんしていえば、男子の場合は3区あるいは4区、女子の場合は2区か5区に出てくるようになった。
 留学生を花の1区から閉め出したのは、レースの最初から外国人選手にぶっちぎられ、実力のちがいをみせつけられては、カッコが悪い……という、まるでこどもの理屈というべき料簡のせまい理由からだった。
 だが1区から閉め出したところで、準エース区間に出てくれば、そこが勝負のポイントになるだろう……と、いいたかったのである。
 事実今回、女子は5区、男子は3区に出てきた留学生が勝負を決める役割を果たし、優勝におおきく貢献したのである。皮肉というほかないが、このような結果になることは、はじめから見えていた。
 外国人留学生が目立ってもらってはこまる。ならば……と、今回の結果にもとづいて、来年からは実業団の前例にならい、ケニア人留学生の走る区間を最短区間に限定するというリール改正に発展するやもしれぬ。つまり男子なら2区か5区、女子なら3区か4区の3㎞区間に留学生を押し込めるというのである。ありえないことではない。けれども、そんな姑息な措置はやめてもらいたい。



▽波乱含みの第1区……女子


 今朝の京都市の気温は氷点下、レースのはじまる10時には9度まであがったが、関係者の話によると体感としては、気温よりもはるかに冷え込みがきびしかったという。
 そのせいかもしれないが1区は波乱含みだった。
 選手が3度も転んだのは躰がこわばっていたせいもあるかもしれない。スタート直後のトラック周回中に転び、競技場を出て、石畳の進入口で転び、中間点ではトップをあらそっていた候補チームの選手が転んだ。3度も転ぶさまを目にしたのは、初めてのことである。
 レースは興譲館の赤松眞弘が集団をひっぱるかたちで幕あけたが、1㎞=3:20というなんとも物足りない入りであった。ぬるま湯のようなスローペースだから密集で接触して転倒がおきたというみかたもできる。
 連覇をめざす豊川の伊沢菜々花、成田の小崎裕里子、千原台の池田絵里香、常磐の片貝洋美、埼玉栄の梅村友理などが先頭集団を形勢、ほとんど差なく、たんたんとつづくという展開であった。
 中間点のラップは9:54……。異変がおこったのは中間点をすぎたあたりだった。1区の区間賞候補にあげられ、集団をひっぱっていた興譲館の赤松眞弘がよろめいたかとおもうと、なんと転んでしまったのである。
 転んだ赤松は立ち上がり、すぐに集団にもどったが、顔の表情はなんともそぞろなありさまで、かなりのショックをうけたこと、疑いようもなかった。
 赤松にかわってレースの主導権は小崎と伊澤にうつったが、4㎞すぎで小崎、伊澤、そしてもちなおしたかにみえた赤松の3人がぬけだした。4.6㎞で赤松がスパートをかけるが、抜けだすまでにはいたらない。
 最後の力をふりしぼっての仕掛けだったのか。彼女がそこで力尽きてしまう。やはり転倒による心理的なショックがおおきかったからだろう。ラストではずるずると後退、12位まで順位をおとしてしまうのである。
 かくして区間賞争いは伊澤と小崎の争いとなった。両者のスパートのかけあいはなかなかみどころがあった。最後は伊澤が小崎をねじふせるかたちで結着したが、それは2年生の意地というものだろう。



▽4区で勝負は決した


 候補のうち豊川はねがってもない絶好のスタートをきった。ひそかに狙っている千原台は13秒遅れの5位とまずまずだったが、最大のライバルの興譲館は27秒おくれの12位、須磨学園も14秒おくれの7位と出遅れて明暗をわけた。
 アンカーにケニア人留学生がいる豊川に対して、須磨学園や興譲館はそれまでに1分ぐらいは先んじておかねば……というソロバン勘定は監督だけでなく、選手たちにもあったはずである。そういう計算が時として焦りを呼ぶことにもなる。あげくに1区から後手にまわってしまったのである。
 2区で豊川を追ってきたのは千原台の野田沙織である。諫早、須磨学園とともに2位集団を形成、トップの豊川・安藤友香を追いはじめ、3㎞でトップをうばったのである。千原台にしてみれば予定通りだったろうが、豊川はしぶとかった。3区ではふたたびトップを奪いかえし、いぜんとして1区でつかんだ好リズムを手放すことがない。
 千原台にかわって、こんどは須磨学園が中新井美波の区間賞の快走で3秒差の2位にあがってくる。ようやく候補の一角がよみがえり、にわかに対決ムードが濃厚になる。だが、興譲館はいぜん流れをつかめないまま7位と低迷していた。
 そして4区をむかえるのである。
 豊川の下村環加を須磨学園の原夏紀がはげしく追いかけ、1㎞地点で並走状態、両者のせめぎあいもおもしろかった。須磨学園が優勝するには少なくとも4区で豊川に先んじておかなくてはならない。原は残り1㎞でなんどもスパートをかけていた。だが、下村もゆずらない。逆に最後は下村に前に出られてしまった。
 かくして5区を残して勝負は決したのだが、勝負どころとみて果敢にチャレンジした原の姿勢にはみるべきものがあった。
 遅れていた興譲館はこの4区で戸田理恵が区間賞で追い上げ、3位まであがってくるのだが、トップの豊川からは29秒遅れでは、もはやどうしようもなかった。
 千原台が、そして須磨学園が……と、代わる代わる豊川に挑んだのだが、そのたびに跳ね返されてしまった。
 かくしてタスキはアンカーの手にわたるのだが、豊川のアンカーのワイナイナについては、あえて何も書くまい。 



▽諫早、埼玉栄が健闘!


 史上3校目の連覇をなしとげた豊川、おわってみれば、まったく危なげない勝利だった。
 最大に勝因をあげれば1区で好発進したことであろう。伊澤菜々花が仕掛けて、2、3、4区では粘りぬき、最後はワイナイナがしっかりとしめくくった。ライバルの須磨学園、興譲館が1区でつまずいて、戦いが楽になったという好運にもめぐまれた。
 逆に興譲館は1区エースの思いがけないアクシデントが、最後までおおきくひびいたようである。
 須磨学園は4区を終わったところで6秒差でつづいていたが、まあ、いっぱいいっぱいというところだろう。アンカー勝負にもちこまれては勝ち目はなかった。
 優勝した豊川以下、須磨学園、興譲館、神村学園、千原台、諫早、埼玉栄、常磐とつづく顔ぶれをみると、おわってみれば下馬評の高かったところがすべて上位にきているのがわかる。
 このなかでは6位の諫早と7位の埼玉栄は大健闘というべきだろう。ともに強豪だが、諫早は予選タイムでは全体の11位、埼玉栄にいたっては20位であった。本戦でここまでやってきたのはやはり伝統の力というべきだろう。



▽主力は好位置をキープするも……男子1区


 1㎞のはいりが2:55……。昨年ほどのことはないにしても、今回も速い流れにはならなかった。焦点はもっぱら須磨学園、西脇工、世羅の位置どりにあった。須磨学園と西脇工にとっては前半で勝負をかけ、1区~2区で世羅よりも先にいきたいところであったろう。
 レースは大分東明の油布郁人を中心にして、須磨学園の西池和人、青森山田の田村優宝、埼玉栄の服部翔太、佐久長聖の大迫傑などが集団をなしてつづくという流れではじまった。
 中間点は14:47……と、超スローペースだった昨年にくらべれば27秒ほど速い。ペースがあがったのは7㎞手前であった。油布、服部、田村、大迫、西池が集団からぬけだした。7.5キロで佐久長聖の大迫がスパートをかけると、田村、服部、油布はつづいたが、西池はここで振りきられた。
 8㎞になって大迫がロングスパートをかける。油布は追っていったが、差はじりじりとひろがり、佐久長聖の大迫傑が2連覇への望みをつないだ。
 候補のなかでは世羅が20秒おくれの5位、須磨学園が23秒おくれの6位、西脇工が29秒おくれの9位につけたが、須磨と西脇にとっては世羅に先んじることができなかったのが、大きな誤算だったろう。
 1区で誤算といえば九州学院であろう。トップから51秒おくれの18位、候補の須磨学園や西脇工からも30秒もおいてゆかれてはどうしようもなかった。



▽3区で筋書き通りの逆転トップ!


 佐久長聖は2区でも強かった。
 松下巧臣がその名のとおり、巧く走って区間2位……。2位、3位に順位をあげてきた埼玉栄、西脇工に27秒の差をつけ、須磨学園には37秒、世羅には47秒と差をひらいた。
 西脇工と須磨学園はここでようやく世羅に先んじたわけだが、20秒内外の差ではまだまだ不足であった。かくして3区でレース最大のみどころがやってくるのである。
 9位でタスキをもらった世羅のカロキは青森山田のギチンジをひきつれて追撃を開始する。遊学館、田村、須磨学園、大分東明とつぎつぎにとらえ、カロキは3㎞すぎで早くも西脇工をとらえて2位に浮上するのである。
 そしてとうとう中間点では佐久長聖の臼田稔宏を交わしてトップに立ってしまう。後ろは大混戦となるが、西脇工の志方文典がぬけだして、26秒差の2位にやってくる。かくしてレースは、ここで世羅と西脇工のマッチレースの様相を呈してくるのである。

 3区をおわってトップに立つというのは世羅の筋書きどおりだったろうが、後続との差が26秒、まだまだ追っかける西脇工にものぞみがないわけではなかった。
 4区がポイントの区間になったが、ここで世羅と西脇工とではおおきく明暗が分かれてしまった。
 逃げる世羅の竹内一輝、追う西脇工の山田速人、ひとたびその差はつまったかにみえたが、3㎞過ぎからじりじりと差がひらきはじめた。

 竹内一輝は勝負どころで区間賞の快走、2位西脇工との差は一気に56秒までひらいてしまった。勝負どころで西脇工は逆に世羅にトドメを刺されてしまったのである。



▽今年は不作の年だったのか?


 優勝した世羅の勝因はひとえに3区のカロキを活かせる展開にもちこんだことであろう。1区、2区でライバルに遅れをとることがなかった。3区でトップに立ち、4区で安全圏ににげこんでしまった。5区以降のランナーもよく粘ったといえる。
 2位の西脇工は後半のびを欠いてしまった。追うべきところで、きっちり追いきれなかったのが最大の敗因だろう。
 須磨学園は序盤こそ好位置につけていたが、3区以降で失速してしまった。候補の一角にあげられながらあえなくやぶれたのは初出場の重圧というものだろうか。
 前評判の高かった九州学院は最終的には5位まであがってきた。序盤でおおきく遅れをとったのが惜しまれるところである。
 3位の青森山田は健闘した部類にはいるだろう。実績的にはこのあたりに来てもおかしくないが、中盤以降3位から落ちることがなかったという堅実性、確実に力をつけているとみた。
 それにしても、今年の大会、男女ともにレース展開もいまひとつ盛り上がりを欠き、タイム的にも食い足りないものがある。不作の年だったというくくりで、あっさりかたずけていいものだろうか。いささか迷うところである。



◇ 日時 2007年 12月 21日(日) 女子:午前10時 男子:12時00分 スタート
◇ コース:京都市・西京極競技場発着 男子:宝ヶ池国際会議場前折り返し7区間49.195Km  女子:烏丸鞍馬口折り返し5区  間 21.975Km
◇ 天候:(午前10時)晴れ 気温:09.0度 湿度:48% 風:南西1.2m (正午)晴れ  気温:10.0度 湿度::38% 風:南西:3.5m
◇ 女子:豊川(伊澤菜々花、安藤友香、鈴木美乃里、下村環加、ムルギ・ワイナイナ)
◇ 男子:世羅(北魁道、渡邊心、ビタン・カロキ、竹内一輝、河名真貴志、藤川拓也、藤川涼)


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