前回10位の長野が初優勝!
 長野が2区でトップをうばって逃げきった。



▽制度改革で笑ったのは!


 昨年の大会で新潟が区間賞を4つもとって、優勝した東京をうわまわったのに、最終区でおおきく順位を落とした。
 9区のアンカーがトップでタスキをうけたののだが、優勝した東京に逆転をゆるしたのはしかたがないとしても、1分もはなれていた千葉と神奈川にも抜かれて4位に沈んでしまったのである。本時評ではつぎのように書いた。

「 勝てなかったのは、やはし地方チームゆえの哀しさである。有力実業団をもたないために、10㎞の最長区間を走る選手にめぐまれないのである。全長距離の4分の1にあたる10㎞をしめる最終9区を走れるランナーがいなくては優勝できるわけがない。
 かつて福島もなんどかいま一歩に肉薄しながら、最終アンカー勝負で、あえなくやぶれ去っているのである。せっかく上位争いしてきても、最終のアンカー勝負で下位に沈んでしまう。いわば地方チームの宿命なのである。」

 本時評子のぼくがこのように書いたせいでもあるまい。だが、25回にあたる今回から「ふるさと選手」制度に手がくわえられた。これまでは1チーム1人だけだったが、今回からは2人まで……というように変更されたのである。
 宿命……がいくぶん緩和されることになり、それだけ首都圏いがいのチームにも優勝のチャンスがめぐってきたというわけである。
 今回の制度変更をもっとも活かしたのは、果たしてどのチームだったのだろうか?



▽4連覇をねらう東京、候補の埼玉が出遅れる


 最も見ごたえのあったのは、やはり1区であったろう。
 スタートしてまもなく山形の五十嵐藍(シスメックス)、先の東日本実業団女子駅伝でも好走した福島の齋藤梓乃(しまむら)がひっぱる格好ですすみ、1㎞=3:15のペース、1~2㎞も3:10まずますのペース。
 2㎞をすぎて、やはり東日本実業団で好走した長野の清水裕子(積水化学)、青森の野田頭美穂(ワコール)、千葉の永尾薫(ユニバーサルエンターテイメント)らが、入れ替わり立ち替わりトップをうかがう形勢、3㎞の通過が9:37と区間新ペースですすんだ。
 かなりのハイペースであるがゆえに、3.5㎞をすぎるとタテ長の展開になり、長野の清水がひっぱり、千葉の永尾、青森の野田頭がつづき、3人のトップ争いになる。
 意外だったのは埼玉と東京である。4㎞手前では埼玉の後藤奈津子(日大)、東京の藤本知佐はトップ集団からおおきく置いてゆかれるありさま。4連覇をねらう東京、優勝候補の一角にあげられていた埼玉に黄信号がともった。
 5㎞をすぎて、清水と野田頭が抜けだした。両者ははげしくトップ争いを演じ、とくに最後のスパートのかけあいは迫力満点だった。最後は野田頭が競り勝ったとおもわれたが、最後の最後で清水がまたしても野田頭に肉薄、2秒差までせまるという粘りをみせた。 

 野田頭はワコールの準エース的存在だが、近年はいまひとつ精彩を欠いていた。だが今回はなかなか元気なところをみせてくれている。これならば暮れの全日本でも期待がもてそうである。
 さて1区を終わって、トップは青森、2位は長野で2秒差、8秒差で千葉、以下は茨城、福島、北海道、宮城とつづき、4連覇をねらう東京は49秒おくれの13位、埼玉はなんとエース格の後藤で1分20秒おくれの14位とおおきく出遅れてしまった。



▽長野が2区と3区で好リズム!


 長野は1区と2区に「ふるさと選手」をつかってきた。つまり先手必勝の策戦に出てきたのである。1区と2区をセットにしてトップをうばい、その後は好リズムにのって逃げ切りをはかろうとする戦略ありありであった。
 長野の2区は箱山侑香(ワコール)はタスキをもらうとすぐにトップをゆく青森の佐々木奈緒にとりついた。そして2㎞で早くもトップをうばってしまうのである。
 後続では千葉の西尾千沙も落ちてきた青森をとらえ、宮城の正井裕子が追い上げて3位にやってくる。
 さらに千葉の西尾は3.4㎞でトップに肉薄、箱山をもひとたびとらまえるのだが、そこから箱山は驚異の粘りを発揮した。最後では持ち直して西尾を交わし、中継点では4秒ほど先んじたのである。
 2区を終わってトップが長野、4秒差で千葉がつづき、宮城、茨城、山形、青森、北海道、栃木とつづいたが、東京は1:03おくれの12位、埼玉はいぜん1:33おくれの13位と低空飛行がつづいていた。
 主力の苦戦がつづくなかで長野は3区でもとまらなかった。高校生の加藤未有が区間賞はならなかったものの、後続がはげしく順位あらそいするなかで、2位にやってきた宮城に23秒差をつけて独走態勢をきずいてしまったのである。
 3区でおおきく順位をあげたのは新潟である。区間賞をとった小泉直子(東京学館新潟高)の快走で13位から一気に6位までやってきた。



▽強運にもめぐまれた!


 長野は4区で2位にあがってきたの千葉に30秒差をつけてトップをキープ、だが千葉は5区の永田幸栄(豊田自動織機)で追いあげて、ふたたび19秒差まで迫ってくる。だがその千葉は6区で失速、かわって黒田麻紀子(秦野高)の快走で神奈川が2位まであがってきた。だが長野と神奈川とのあいだには59秒という大差ができてしまう。
 こんなふうに後続がはげしい2位争いをしているあいだに、トップをゆく長野はゆうゆうと逃げ足をのばすのである。
 東京、埼玉にエンジンがかかったのは5区あたりからだった。東京は5区の中道早紀が12位から7位までやってきた。埼玉は柴崎妃乙美(しまむら)の区間賞で14位から10位まで順位をあげ、さらに6区では北村沙織(埼玉栄高)がトップから1:37秒おくれの6位まで押し上げてきた。東京も1:48秒おくれの8位として、ようやく上位をうかがえるところまであがってきた。
 長野は7区以降もおちなかった。7区では2位の神奈川に1:03秒差、中学生区間の8区を終わったところでは2位にあがってきた栃木に1:05秒をキープ、そしてアンカーにタスキがわたるのである。
 長野のアンカーは名城大1年の小田切亜希である。最終区には実業団の有力選手が顔をそろえているので、長野のトップは安泰とはいえなかったが、有力選手をかかるチームはいずれも下位に低迷していた。

 たとえば東京の野尻あずさ(第一生命)は2:11おくれの7位、那須川瑞穂のいる岩手は繰り上げスタートの最下位、佐藤由美(資生堂)の山形は2:53おくれの11位、山根朝美(豊田自動織機)の千葉は2:37秒おくれの9位というように……。だから10㎞の長丁場とはいえ、いずれもポジションが悪すぎたのである。
 そんな天の利をみかたにつけて、小田切はやすやすと逃げ切り、長野に待望の初優勝をもたらしたのである。



▽総合力の勝利! 長野の初優勝


 長野の勝因は作戦勝ちというべきか。1区と2区の勝負がみごとにはまった。さらに各区間の選手ともに、おおきく崩れることがなかったこと。区間賞はひとりもとっていないが、結果的にそれでいて優勝した。総合力の勝負というべきだが、ふるさと選手制度の変更にもめぐまれた。
 2位の東京は前半の遅れがすべてだろう。最後は2位まであがってきたところに地力をかんじる。
 3位の神奈川は終始堅実だった。むしろ、あの顔ぶれで3位までやってきたのは健闘というべきではないか。
 4位の埼玉は1区の出遅れがすべてだった。5区の柴崎妃乙美(しまむら)と8区の天羽彩佳(宮原中)とが区間賞をとっているだけに、1区の出遅れさえなければ、優勝争いにもきわどくからんでいただろう。
 千葉は実業団が強く、前半はトップにも肉薄していたが、高校生と中学生のデキがいまひとつで中盤から後半にかけて失速した。
 終わってみれば首都圏チームが2位から5位までをしめている。前半は青森、宮城、山形、中盤は栃木、茨城が上位で踏ん張っていたが、最後には沈んでしまった。ふるさと選手の制度が変わって、少しは上位に踏ん張れるかと思ったが、落ち着くところに落ち着いたのは皮肉というほかない。けれども首都圏以外のチーム、前回10位で過去4位が最高という長野が優勝したのは、やはり「ふるさと選手」制度の改定の効果とみるべきだろう。



・最終結果