豊田自動織機が初優勝!

 移りゆく女子駅伝の勢力図



▽佐倉アスリートの2チームが上位を占める


 女子駅伝の勢力図がすっかり塗り替わった。
 昨年豊田自動織機が全日本を制したとき予感はあったが、本大会でその豊田自動織機がまるで横綱相撲で初優勝したさまをみて、それは確信にいたったのである。豊田だけでなくユニバーサルエンターテイメント(旧名:アルゼ)が3位にきた。
 両チームともに小出義雄が代表をつとめる株式会社佐倉アスリートの息のかかった選手たちでチームを構成している。
 実業団チームはいままで、グラウンドや合宿所をつくり、コートやスタッフをおいていて、そこですべての選手を抱えて、指導、育成にあたってきた。ところがこの両チームの場合は選手の育成やトレーニングをいわばアウトソーシングに出しているのだ。
 両チームの委託先が佐倉アスリート倶楽部だというわけである。同社は各企業からマラソン、長距離の指導の委託をうける。いわば長距離選手育成のプロ企業というわけだ。現在は豊田自動織機とユニバーサル・エンターテイメントの選手をほとんど丸抱えしているといっていい。
 佐倉アスリートの活動拠点は千葉県佐倉市である。両チームの選手たちはそこで日夜練習にはげんでいる。実業団選手とはいいながら、もはや走りのプロたちだといってもいい。そういうあたらしいシステムで育ってきた選手たちで構成する2チームが覇を争ったというわけだから、女子駅伝は新しい時代に突入したといいたいのである。



▽豊田が2区で主導権をにぎる


 注目の1区は大激戦であった。
 今回V10を狙う三井住友海上の山下郁代がひっぱる展開で幕あけたが、1㎞=の入りがなんと3:25というスローペース、いかにも波乱を予感させるスタートとなった。
 1㎞、2㎞と集団ですすみ、第一生命の勝又美咲がスパート気味にとびだすのだが、抜けだすまでにはいたらない。先頭集団は9チームとなり、ホクレンの関野茜、資生堂の五十嵐綾、ヤマダ電機の須澤麻希、パナソニックモバイルの吉川美香が落ちていった。
 6.2㎞で積水化学の清水裕子がしかけようとするが、山下郁代がトップをゆずらない。残りわずかで日本ケミコンの正井裕子がやってきてトップは大混戦となるも、ラストではユニバーサルエンターテイメントの永尾薫がやってきて、清水、勝又と競り合い、永尾と清水がほとんど同時に中継所にとびこんだ。さらに秒差で三井住友海上の山下、日本ケミコンの正井、豊田自動織機の山根朝美がつすいた。
 トップのユニバーサルエンターテイメントから13位のパナソニックモバイルまで、6.795㎞という区間ながら、わずか23秒というように大接戦であった。
 2区3.15㎞という最短区間で主導権をにぎったのが豊田自動織機であった。トップをゆくユニバーサルのF・ワンジクに豊田自動織機の青山瑠衣がはげしく迫り、1.5キロではあっさりと置き去りにしていったのである。トップスピードでやわらかな走法、ぐんぐんと後続をひきはなした。
 青山は2位にやってきた三井住友海上の鈴木芽衣に13秒差、3位の日本ケミコンに14秒、4位のユニバーサルに15秒差をつけて、豊田に主導権をひきよせたのである。



▽渋井不在で盛り上がりを欠いた3区


 3区はエース区間である。
 毎年のようにここに三井住友海上は渋井陽子を配して、エースの爆走で奪首して、優勝への道筋をきっちりつくるのだが、今年は渋井が出てこない。さすがの駅伝娘も8月に故障して、まだ走れる状態ではないというのだ。
 渋井にかわる主役候補としては、ホクレンの赤羽有紀子ということになる。8位でタスキをうけていから1.6㎞すぎで5位まであがってきたが、そこからがいまひとつ伸びを欠いた。
 そのまえでは三井住友の大平美樹とユニバーサルの那須川瑞穂がはげしく2位争いをくりひりげていたが、いまひとつ勢いがない。
 だれも後ろからは追ってはこない。トップでタスキをうけた豊田自動織機の新谷仁実は後続をじりじりと引き離した。10㎞=32:50というペースで独走状態をつくってしまったのである。
 激しかったのは4位争いである。赤羽有紀子にしまむらの斎藤梓乃、第一生命の野尻あずさ、がからんで、11㎞ではひとたびは斎藤が赤羽をふりきったが、最後は赤羽が地力を発揮して、かろうじて4位を死守した。駅伝では無類の強さを発揮する赤羽だが、いまはまだ北京五輪、世界ハーフと転戦した後遺症がいまだのこっているようである。
 渋井陽子ともどもに12月の本戦では本来の走りを期待したいものである。



▽おそるべき底力、オンゴレ・フィレスが4区で爆走


 今年から外国人選手は2区か4区のみじかい区間にしか出てこれなくなった。その影響でたとえばホクレンのエースのひとりO・フィレスは4区の4㎞区間に出てきた。
 フィレスは1㎞=3:01というハイペースで追い上げを開始、まったく次元のちがう走りで急追、2,4キロでは前をゆく三井住友海上(橋本歩)、ユニバーサルエンターテイメント(谷奈美)をあっさりと抜き去った。
 自分の役どころを知っているというべきか。フィレスのペースはなおも衰えることがなかった。ぐんぐんとトップに肉薄し、中継点の目前でとうとうトップをゆく豊田自動織機の宮崎翔子までとらえて一気にトップに立ったのである。
 トップをうばわれたものの豊田の5区・脇田茜はあわてなかった。すぐにホクレンの根城早織においついてしまう。両者はたがいにゆずることなく並走、後続をどんどん引き離した。
 3㎞、4㎞、5㎞をすぎても並走はゆるがない。だが、力をためていたのは脇田、彼女のほうに一日の長があったようでである。7㎞でスパートして根城を突き放した。根城もねばっていたが、その差はじりじりとひろがり、ここで豊田自動織機の独走体制ができあがってしまうのである。



▽果たして豊田自動織機の時代となるか!


 豊田自動織機のアンカーは永田幸栄、昨シーズン大活躍した永田あやではない。もうひとりの永田である。いかにも力感あふれる走りで、ぐいぐいと躰をまえにはこんでいった。もはやトップはゆるぎそうもない。豊田自動織機の選手層はいかにも厚いなあ……と驚嘆させられてしまった。
 本大会初優勝の豊田自動織機、その勝因のひとつは若さ、もうひとつは選手層の暑さである。メンバーにはいるが至難だというのだから、さしずめ故障選手が多い、三井住友海上などとは好対照である。
 小出義雄は10連覇するだろう……と豪語するように、岐阜の本戦でも優勝はまちがいないだろう。 
 2位に入ったホクレン、ユニバーサルエンタテイメントに先んじたのは大健闘というべきである。エースのひとり赤羽有紀子はいなひとつの調子だったが、フィレス、そしてアンカーの松井香織が区間新の快走でユニバーサルの堀江知佳をうわまわり、トップの豊田をもはげしく追った力走ぶりがみごとだった。
 本戦では2枚のエースがフル回転するだろうから、豊田自動織機を追う1番手かもしれない。
 3位のユニバーサルエンターテイメントも本戦では、やはり主力の一角を形成することになろう。
4位におわった三井住友海上も渋井が復活すれば、このままではおさなまらないだろうが、泰一生命や資生堂とともに、時の勢いというものが感じられない。
 関西ではダイハツ、中国では天満屋の前評判が高そうだが、どうやら豊田自動織機の勢いはとまりそうにない。


・最終結果