プロローグ:待望! 若い力の台頭で政権交代を
当「駅伝時評」では、今季も、駅伝レースの観戦レポートをアップしてゆきます。いわば時評子であある小生の備忘録ですから、観たまま、感じたまま書きつづってまいります。いつもながら、きわめて独断と偏見にみちた観戦記になりますが、よろしければおつきあいください。まずは開幕にさきがけてのプロローグです。
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▽日本のマラソン・長距離の未来は!
ベルリン世界陸上における日本のマラソン・長距離陣はあらかにめ予想したような結果に終わった。想定の範囲内の結果だから、惨敗とはいわない。
男女をみわたして、メダルは女子マラソンの尾崎好美の銅メダル一個だけだが、それがはからずも今大会の日本勢にとって初のメダルとなった。
ラスト1㎞で若い中国の白に振りきられたレースぶり、しかも28歳という年齢からみて尾崎自身はは今後いったいどういう未来をイメージしているのか。マラソンランナーとして輝かしい未来はあるのか。きわどいところである。メダルを獲ったがゆえに、おおきな正念場に直面してしまったようである。
男子マラソンでは、北京で最下位だった佐藤敦之(中国電力)が、6位入賞をはたした。北京五輪のあの屈辱から、立ち直あがり、2人をぬいたラストの走りはほめてやらねばなるまい。
だが……。連続入賞をはたしたものの、6位の佐藤(2時間12分05秒)と優勝したキルイ(2時間06分54秒)の差は実に5分もひらいていた。佐藤はトップのキルイとはまるで別のレースを走っていたのである。
日本男子マラソンと世界の差はますますおおきくひろがってしまったというほかない。 陸連幹部は「次につながる」などととコメントしていたが、ご冗談でしょう……というほかない。本気でそんなことをかんがえているのなら、それこそ救いがたいというほかないのである。
日本のマラソン・長距離陣にとって、ベルリン世界陸上を経て、新しいスタートとなるのが今シーズンの駅伝である。日本の政治は政権交代を果たしたが、マラソン・長距離も若い力の台頭で、華々しく政権交代をはたしてほしいものである。
▽大学3駅伝も史上空前の大混戦か!
今シーズンの駅伝レースのゆくえはまったくイメージできないである。さっぱり勢力図がみえてこないのである。
男女の実業団、大学3駅伝ともに大混戦の様相である。激戦必至でたしかに観る駅伝としておもしろいものとなるだろう。なかでも、ひときわ興味をそそられるのは学生駅伝であろう。
学生駅伝の頂点はなんといっても箱根である。出雲からはじまって、全日本、そして箱根となるのだが、レースそのものにくわえて、そのプロセスをチェックするのがおもしろい。
緒戦となる出雲駅伝で各大学の戦略と戦術をみるレースであろう。ここで各チームのオーダーをのぞけば今シーズンの戦略が、レースぶりからは戦術がみえてくるだろう。短い距離をつなぐ駅伝だから、スピード力の勝負になること必至で、そうならば日大、駒澤大、早稲田に分のあるレースとなる。
全日本選手権になると、これら3チームにくわえて、東洋大、明治大、中央学院大などがからんでくるだろう。
メインの箱根駅伝は全日本がおわったときに、勢力図がはっきりしてくるはずだ。今回はなんと駒澤大、順天堂大、日本体育大学といったような箱根の覇者、さらに東海大をくわえた四強豪が予選会にまわっている。駒澤、日体などは本来ならば優勝候補の一角である。いったいどんなプロセスで本戦にのぞんでくるのか。興味津々である。
昨年のプロローグにも書いたが、箱根は出雲、全日本ときっちりとステップをふんで調子をあげてきたチームのみが勝利する。現実にこれまでの箱根の覇者は出雲、全日本に出場して箱根にのぞんできたチームから出ている。どれかひとつを欠いていたり、あるいは予選会あがりからは、いきなり頂点にのぼりつめた例はほとんどないのである。
いわばジンクスだが、今回もそういう観点から候補をしぼりこんでみよう。
▽出雲出場
日大、駒澤大、東洋大、早稲田大、大東大、中央学院大、山梨学院大、明治大、中央大、
▽全日本出場
駒澤大、早稲田大、山梨学院大、東洋大、中央学院大、日大、明治大、東海大、東京農大、専修大、中央大、青山学院大
▽箱根シード
東洋大、早稲田大、大東大、中央学院大、山梨学院大、日大、明治大、中央大
現在のところ大学3駅伝すべての出場権があるのは箱根シード校うち大東大をのぞいた7チームであることがわかる。おそらく箱根の優勝はこの7チームのなかから出るだろう。ざっとみわたして昨年の覇者・東洋大と最後まできわどく迫った早稲田が今シーズンもかなりやりそうである。
問題は駒澤大である。予選会まわりになっているが、実力的に上位とはそれほどの差がない。スケジュールをうまくのりきれば、72回大会で棄権して、翌年の73回大会は予選会から勝ちあがり、みごと優勝を果たした唯一の例外、神奈川大学のようになるやもしれないのである。駒澤大にはそれだけの戦力がある。
▽実業団駅伝もまた本命不在で群雄割拠!
全日本実業団女子のほうは昨年、豊田自動織機、三井住友海上、ホクレンが最後までしのぎをけずった。豊田自動織機は若い力を爆発させ、出場2回目で初優勝となったが、今年はさらに混戦になるだろう。
全日本実業団男子のほうも富士通と日清食品、旭化成が最後まではげしくトップを奪い合った。コニカミノルタ、中国電力に勢いがないだけに、今年も実力伯仲で政権交代は必至だろう。
数ある駅伝レースのなかで、現時点ではっきりと読めるのは全日本大学女子駅伝ぐらいなものだろう。立命館大と佛教大の戦力が抜けていて、ほぼマッチレースになることがまちがいないとみている。しかしながら立命館大は連覇中だから、佛教大が勝てば政権交代なるわけで、ちょっとしたトピックになるだろう。
ともかく史上空前の大混戦とでもいおうか。ともかくテレビのライブで観られる駅伝はどれもこれも激戦ばかりで、観る駅伝としては、このうえもないおもしろいレースが目白押し……ということだけは請け合っておこう。
日本のマラソン・長距離陣は男子が3流、女子が2流の上ぐらいで、世界ではとても闘えるレベルにはない。しかし国内の駅伝はおもしろい。選手も指導者も主宰者もメディアも、そしてファンもまたお祭り騒ぎである。時評子のぼくもまた片棒かついでいる。これはどういうことなのだ。そういうのを本末顛倒というのではないのだろうか。