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建設業社労士でゼロコスト採用コンサルタントの渡瀬です。

 

解雇は個別具体的に定められていません

以前に「雇用関係の終了=退職がトラブル数№1」という記事の中で「※解雇については今回だけでは書ききれない程、内容が多いので複数回に分けて解雇については記載していきたいと思います。」と記載しました。今回はちょっと重たい内容ですが「解雇」について記載していきたいと思います。

「解雇」について具体的な定めた法律は存在していません

労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定

労働基準法20条に「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない」という規定

労働基準法19条に「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない」という規定は存在しますが、いずれも具体的な要件を示していません。実際に解雇については個別案件ごとの裁判での判例を積み重ねて有効、無効が判断されています。

 

実際の判例とは?

事案①

労働者は慢性腎不全による身体障害等級一級であり生体腎移植手術を受ける。しかし術後も、体調が悪く入退院を繰り返し、退院後もほとんど出社せず、出社日数は毎月数日で、8月からは全く出社しない状況になった。会社は労働者に対し同年10月20日までは、賃金を支給したが同年10月20日に、今後勤務しない分については賃金を支給しない通常の扱いとすることとした。

しかし、労働者は、その後もほとんど出社しなかったため、会社は、同年12月19日付けで、このままの欠勤状況が続くと翌年4月1日以降の雇用継続は困難となる旨の書簡を郵送し、その後、就業規則に定める解雇規定の「心身虚弱のため業務に耐えられない場合」に該当するとして翌年3月31日付けで予告解雇をしたことにつき、不当解雇であるとして、労働者の定年年齢までの期間の生活保障などを求めた事例。

判決①

前述の認定された事実からすれば、労働者は会社の就業規則取扱規程に定める心身虚弱のため業務に耐えられない場合に該当すると認められ、本件解雇には、相当な解雇理由が存在し、かつその手段も不相当なものでなく、解雇権の濫用には当たらないといえる。とされ解雇は認められました

 

事案②

会社に大学院卒の正社員として採用された従業員が、労働能率が劣り、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、解雇を無効として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てた事例。

判決②

(1)会社は従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。

(2) 就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。

(3) 従業員は確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達しているとはいえないし、全従業員の中で下位一〇パーセント未満の考課順位ではある。しかし、人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。

(4) 会社としては、従業員に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このような教育、指導が行われた形跡はない。)、いまだ「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。

という理由から解雇は認められませんでした

 

まとめ

日本では解雇は簡単に認められない。特に労働契約法16条にある通り「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当であるといったことが認められなければ基本的には解雇無効という判断がされてしまいます。私見ではありますが、これだけ労働者は守られている上に、現在は政府からの賃上げ要請や多様な働き方への理解を求められると中小企業では対応していくのは非常に難しくなります。

中小企業の経営者におかれましては、転ばぬ先の杖だと思い、何か事が起こってしまう前に専門家にご相談されることをお勧めします。

 

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