父に尋ねた『あの写真誰が撮ったの?』
あの写真とは私が幼い頃、弟と父、母が写ったモノクロ写真。
背景は当時住んでた今はない都営住宅、建物はもう無いが、幼い記憶の中にしっかりと残っている。
まだ三男が生まれる前で、4人だったから、撮ったのは家族ではなく誰がだ。
それを父に尋ねたのだった。
父は、さあ、、
たまたま現れた男の人だったな。
『現れた?!』どういうことだろう。
父は、気がつくとそこに居たんだと。
『そこに居た、、、?』
納得の仕様がなく、これ以上聞いても無駄と思った。
何たって50年以上も前だし。
その写真を家の片隅で見つけて以降、微かな記憶と妙な疑問が頭の中を支配していた。
何度か写真に写る父と今は亡き若かりし頃の母と幼い弟を眺めては現実に戻ることを繰り返していた。
寝苦しい夏の夜、夢を見た。
目の前に今にも家族写真を撮ろうとする父だった。
その時、躊躇なく話しかけていた。
『撮りましょうか?』
驚いたようにファインダーから目を外し、こちらに振り向く父。
無理もない、突然現れた父よりも二回りも年上の男が気安く話しかけて来たのだから。
『お願いします。』一瞬躊躇うも、息子に撮って貰う父。でも息子とわかることなど微塵もないだろう。
本物の息子は母の隣に抱えられるように立っているのだから。
家族水入らずのひととき、こんな時もあったのだと懐かしく思った。
父は子供を養うために、一年中朝から晩まで働いた。それこそ家庭も顧みず。
この後、家族にはもう一人男の子が生まれる。
『正美』と名付けられた。男の子ばかりなので余程女の子を期待したのだろう。
母は20年前に癌を患い他界。
正美は結婚と同時に嫁さんの古里岩手で居を構える。
モノクロの1枚の写真から忘れかけていた確かにそこにあった家族を思い出した。
『じゃあ撮りますよ!』
ファインダー越しに眺める父と母、弟、自分、、、
シャッターを押す指が震える。
『はい、チーズ!』 パシャッ
当時の何とも言えないカメラから発する機械音
『もう1枚撮ります』と言いかけた時、父から
『あっもういいです。ありがとうございます。ご近所にお住まい?』
『は、はい、、』
何と返事をしていいか分からず、はい、と言うのが精一杯だった。
当時はフィルムは貴重だったのだろう。
今のデジタルとは違い、限られた枚数しかないから無理もない。
家族の光景を胸に焼き付けその場を後にした。
その時、目が醒めた。
飾られた写真を目にする。
そうか俺だったんだ。これを撮ったのは、、
何とも言い様のない結論だが、無理にでも納得
しようと思い込もうとしていた。
家族のひとときの瞬間を捉えた1枚の写真
蟠りとともに眺めていた理由がわかった。
腑に落ちた思いがあった。
とても懐かしい過去へのタイムスリップ。
手の届く所にいた当時の家族。
昨日のようだが、もう半世紀も前なのだ。