調子がどうって??

 

 

 

「イイ訳あるか。 

ずっとココに座って つまんねー芝居観てなきゃなんねえんだぜ?」

 

 

 

「つまんない? 三角関係のハナシ、オウジ君好きそうだけど」

 

 

 

「え、三角関係・・? 台本なんて読んでねーもん。

オレは現場で 降りてくるタイプなの。」

 

 

 

オーマイガーっと、カイは声を出さずに言ったカイは、

 

一息ついてから、ピアノの前に座っているオウジに向き直る。

 

 

絵面は、初めてお教室に来た園児に語る、

 

ピアノの先生のごとし。

 

 

 

 

「愛し合ってるAとBが、同じCって人を好きになるんだよ。

 

全4幕で、毎回同じ冒頭シーンから 始まるんだけど、

主人公Aは 毎回違う選択をするんだ。 

 

ほら、台本持ってるんだろ?」

 

 

 

カイに促され、しぶしぶオウジは自分の黒革のリュックから

 

台本と五線紙ノートを取り出した。

 

 

 

「1幕は、AはBと分かれて Cを選ぶ。

 

2幕は、そのままBとの関係を続け

Cへの想いはなかったコトにする。

 

3幕目は、A、B、C、別れてそれぞれの道を行く。

 

4幕は、AとBとC、3人で生きる道を探す・・  」

 

 

 

「変なハナシ・・。」

 

 

 

 

なるほど、フロアでは今、

 

役者AがBを捨ててCを選んだところだ。

 

一番よくあるパターンかな。

 

 

バッサリとBを捨て去る 男優Aの気丈なカオ、

 

捨てられなかったCは 安堵の表情。

 

 

取り残された女優Bは ただただひとり、立ちすくむしかない。

 

彼女の長い黒髪の後ろ姿が、どんどんしぼんで小さくなる。

 

 

 

カイの口元が、わずかに歪んだことをオウジは見逃さなかった。

 

 

 

カイは選ばれなかった女に、感情移入している。

 

ああ・・。 そうか。

 

 

父親に選ばれた自分と、捨てられたヒナの物語を見てるのか。

 

 

 

 

「 ・・・・ 」

 

 

 

 

オウジの視線に気づいたにカイが、口端だけ

 

ム意識のカンペキ営業スマイルを作った。

 

 

 

 

「・・・もしボクが 父よりヒナを選んでいたら

どうなっただろうね・・?

 

この芝居みたいに 、

最初のシーンからやり直せたらよかった。

 

3人で生きる道も、あったのかもしれないね・・ 」

 

 

 

「んだよぉ、辛気臭えなファザコン野郎!

恋の話だろぉ、コレ?」

 

 

 

ことさらぶっきらぼうに、オウジは肘鉄をくらわした。

 

過去へ呑まれそうになるカイの、遠い視線を引き留める。

 

 

それができるのは“共犯者”のオレだけだから。

 

 

カイはふっと肩を落とし、同時に笑いをこぼした。

 

 

 

 

「どうとでも取れるんだよ。 

実際キャスティングの性別も年齢も、規定がないだろ?

 

ちゃんと台本読めよな、音楽監督っ!」

 

 


 

今度はカイがオウジの顔に、まっさらな台本を

 

押しつけて反撃する。

 

 

 

 

「げげっ、さすがキャロル婆!

ゲイもバイも 近親相姦もアリってか。

 

それよかどーなってんの、アンタの舞台装置は?」

 

 

 

「それが、予算がないって

素材の変更を強いられてるんだ・・。

 

ああ、スティールがんがん張り巡らせて、

カッコよく作りたかったのになぁ」

 

 

 

「わははっザマミロ!

アンタのいたボンボンの世界とは違うんだぜ」

 

 

「考え直しだ・・。

なにか、ニューヨークらしいものを使いたいんだけど」

 

 

「ニューヨークらしいもの・・。

ふむ、ホームレスの爺でも使えば? ギャハハッ」

 

 

「間に合うかなぁ・・・  あと一か月・・。」

 

 

 

「あれれ、ひょっとして不安?  へ~~新鮮だな、

ミスター・エンジェル・カイ!」

 

 

 

「不安さ、 怖いよ。

失敗するコトも、キャロルの信頼を裏切ることも。

 

舞台が恐いなんて、今まで思ったことなかったのにな。」

 

 

「一度もかよ?」

 

 

「ヒナを失って、台詞がまるで出てこなくなった時でさえ、

心がマヒしてたんだろな、怖くはなかったんだよ。

 

ボクは今まで 随分色んなものに守られていたんだな。

 

・・今なら分かるよ・・・。」

 

 

 

 

懐かしい、愛おしいモノに繋がる時、

 

 

ロイヤルブルーのシャツを越えて

 

キラキラを放っているカイのオーラの、輪郭がボケる。

 

 

 

このオトコと舞台と、

 

逝ってしまった月の女神は 永遠に切れることはない。

 

 

 

だからオレはこうして、隣にいる。

 

 

 

 

その時、教室の重力がどこか変わっていることにカイが気付き、

 

次にオウジが気づいた。

 

 

部屋中のみんながフロアの役者に注目してる。 左端?

 

あ、あの女、デイジーって奴だ。

 

 

 

デブのデイジーは、ぽよぽよでどんくさいままだったが、

 

この部屋中の視線と空気は、ナゼか今 

 

彼女にじりじりと 引き寄せられていた。

 

 

 

「え・・?」

 

 

 

何だかさっきまでとは別人に見える。

 

 

 

「ボクあの子スキなんだ。 美しいよね・・」

 

 

 

カイまで、眩しそうな眼をしてる。 え、まさか!

 

 

 

「マヂか?! アンタホントにあの女とヤったのっ?!!」

 

 

 

「しいっ、何だよ急に大声で・・!

え? ヤったって・・ ??

 

一度帰りの地下鉄で一緒になったコトならあるけど?」

 

 

 

「なんだよ、そうだろ! そうだよなぁーー

ち、噂なんてアテになんねーな」

 

 

「彼女、芝居もイイよね、 自然体で。」

 

 

「そ~かぁ? 

自然体ってブスのまんまってコトかよ?」

 

 

 

 

と言ってはみたものの。

 

 

芝居なんてわからないオウジの目さえ、

 

その女を追っていた。

 

 

一言も言葉を発していない、その舞台端の安っすいTシャツの表現者を、だ。

 

 

 

 

「役者って 上手くやろうとか、キレイに見せようとか 

ム意識に入り勝ちなんだよな。

 

ボクなんか形式美の世界に居たから、よけいさ。

 

彼女の表現は素朴でスナオだ・・。」

 

 

「・・・」

 

 

 

 

デイジーがキレイかどうかは、

 

カイのイカレた目ん玉に異論を放ってもしょーがないが、

 

ナチュラル、シンプル。 

 

 

台詞の一つもないけれど、

 

そのシーンの一部として根付いたように

 

彼女は溶け込み、この空間を創る一役を担っている。

 

 

なにやら厳かな空気さえ、そこに在る。

 

 

 

 

「・・あいつ、自分がブスだって知ってるよな?

 

さっきまで、“どーせアタシなんてオーラ”が

ダダ洩れてたのに・・」

 

 

 

「自分には自信がないのかもしれないね。

 

でもきっとその向こうにあるモノを、

彼女は絶対的に 愛してるんだ。」

 

 

 

「自分の向こうにあるモノ・・ ? は?」

 

 

 

 

演出陣の長テーブルに座っていたキャロルが立ち上がり、

 

わざわざデイジーのところへ行って肩をたたいた。

 

 

 

「いいね、デイジー! ちゃんと読み込んできてるね!」

 

 

 

またまた場がどよめいた。 

 

 

 

熱、愛、想い。

 

 

 

芝居という表現媒体との 絶対的な絆が、

 

このぽよぽよ女にはあるのかな。

 

 

芝居が結婚相手、生涯アナタと添い遂げます、みたいなさ。

 

 

 

身を投じる美しさ。

 

 

そのにじみ出る光が、このどんくさいブスを、

 

崇高さすら漂うアクトレスに仕立て上げてんだ。

 

 

 

 

キャロルの言葉に、デイジーは はにかみながら俯いた。

 

カイが思わず拍手してる。

 

 

 

 

「え~~ キャロル絶対ヒイキしてるよね~?」 

 

「ねーーっ。 

なによ、カイまで。 やっぱデキてんじゃん、趣味悪っ」

 

 

 

 

井戸端ガールズからのやっかみも、

 

彼女に届く前に 宙に埋もれ散ってゆく。

 

 

 

 

『いいね~、ありきたりのメロディーだ!』

 

『オウジの曲、まるで平凡だもんね~』

 

 

 

 

傷をなめ合うつもりで 塩を塗り合うオレとブロンディは、

 

ぽよぽよ女みたいな、ピュアな心の筋肉を 持ち合わせていない。

 

 

いつもドコかで寄り道しては、

 

弱くてダサイ自分を護るので 精いっぱいだ。

 

 

 

 

『 オレは 何しにココに来た? 』

 

 

 

胸の奥底に沈んで行ったその問いすら、

 

今のオウジには聞こえない。

 

 

 

 

 

「・・元気ないね、オウジ君?

やっぱりこの仕事、負担だった?」

 

 

 

にゅっと視界にカイのカオが現れて、

 

目の前からオレをのぞき込む。

 

 

 

「 え? 」

 

 

「こっちの稽古に付きっきりで、バンドの練習もできないだろ?

勝手に推したりして、悪かったかなとも思ってる」

 

 

「別に・・。 バンドなんてとっくにねーし。」

 

 

 

 

オウジはカオをそらし、書く当てもない五線紙のノートを

 

そそくさと、言い訳がましく譜面台の上に広げた。

 

 

 

 

「でもさ、道端でコラボしてる時みたいに、

 

オウジ君の音なら、

ボクの創り上げた空間に 一番響くと思ったんだ。」

 

 

 

カイの長い指が、オウジのノートの上に広がる

 

エンピツ書きの音符たちを、そっとなぞった。

 

 

 

「 ・・・  」

 

 

 

 

今度はカイが、オウジのオフブラックの目を引き戻す。

 

 

 

感情をストレートに伝えることをいとわない、カイの澄んだ瞳。

 

同じ罪を背負ったオトコの瞳。

 

 

見つめられて、オウジの時が止まる。

 

 

 

 

 

オレだってそうだ。

 

 

アンタとなら、何か新しい風を呼び込めそうな

 

このマンハッタンに、少し根を張ることができそうな気がして

 

 

底の見えないドロ沼に 埋もれる前に、腕を伸ばしたてみたんだ。

 

 

 

 

オレ達は 

 

この街に呑まれそうになる互いを引き上げてる。

 

同じ痛みを抱えたまま。

 

 

ココではオレは 何もかもが許される。

 

 

 

 

カイの女がぽよぽデイジーだろうと、孤高の白鳥オリヴィエだろうと、

 

それが嘘でも ホントでも関係ない。

 

 

 

 

井戸端ガールズがコッチ見て、ニヤニヤしてるけど、

 

アンタ等が思う程、オレ達エロくないんだぜ。

 

 

 

でも、それでイイ。

 

 

 

恋人じゃなくても、カイに女が何人いても、

 

オレが何人のオンナとヤっても、

 

 

だってカイの世界に 一番響くところにいるのはオレなんだ。

 



こうやって目と目が繋がってる オレとコイツの間には

 

誰も入って来れないんだから。

 

 

 

 

「マイエンジェルっっ!!!」

 

 

 

 

芝居が再開し、役者の誰かがセリフを放った。 

 

と、思った。

 

 

だって日常にありえないクっサイ抑揚の バリトンボイスだったから。

 

 

 

 

「 ・・・   ジュード・・  ? 」

 

 

 

でも、その台詞にカイが応えて、

 

その声が出演者のモノでなく

 

たった今、部屋の扉を 開けたばかりの新参者のだと気づく。

 

 

 

 

たった今まで繋がっていたオレとカイの視線も

 

この部屋中の眼差しも、どよんとダルい空気も

 

 

今度はそのオトコがブラックホール並みに吸い込んだ。

 

 

 

 

そしてオトコは、まるで自分とカイのオンステージに

 

2つだけスポットライトが当たってでもいるように

 

威風堂々、カイにまっすぐ歩み寄り、

 

 

力いっぱい彼を自分の胸に引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------To be continued!

 

 

※この物語は1987年のニューヨークを舞台にしたフィクションです。

 

 

 

 

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