【裏日記】つなぐ、紡ぐ、伝える。 -18ページ目

 【裏日記】つなぐ、紡ぐ、伝える。

 天地(と地底)をつないで紡いだ言葉を伝えるひとをやっている 永龍 Eiriu の【裏バージョン】エッセイブログ。
 何となく、でも確かに感じていることを、歴代のiPhoneで撮り溜めていた写真とともに綴ります。

以前、
文章を書いたりする仕事に
就いていたことがある。
 
 
それなのに
こんなことを言うのも
どうかと思うが……
 
 
 
わたしは普段、
殆ど本を読まないにんげんだ。
 
 
子供の頃はそれなりに
有名どころを読んだはずだけれど、
記憶が、ない。
 
きっとそんな状態だったから、
あの場所へと連行されたのだろう。
 
 
 
どう考えても
即戦力にならなそうなこの私を
招き入れてくださったお方は、
 
今まで出逢ったひとの中で、
一番のキレ者だと思っている。
 
 
 
最初の半年間
お会いする機会はなく、
 
ご挨拶することもないまま
私は毎日まいにち書籍の山に埋もれ、
 
全く自分のなかに入ってこない活字を
ひたすら目で追う、という苦痛を
味わっていた w。
 
 
 
 
そんなある日、
そのお方は音もなく突然現れた。
 
 
「どうも、◯◯です。」
 
 
数秒かかって
やっと認識できた私は、
挨拶を済ませコーヒーをお出しする。
 
 
ゆっくりと腰掛けたそのお方は、
一向に言葉を発しない。
 
 
私も腰掛けて、
言葉を発しない。
 
 
あ、コーヒーをお飲みになった。
私も、飲んでみよう。
(眠れなくなるから普段は口にしないのに)
 
 
 
そんな
長くて短い時は流れ、
そろそろ気まずいかなと思いはじめた頃、
そのお方が言葉を発した。
 
 
 
「……どうですか?」
 
 
 
「はい、楽しくお仕事させてもらってます」
とか、
 
ビジネスシーンにありがちな
お決まりの文句を返そうとしたのに、
あろうことか私は、
 
 
「あの……私は、本がどれも同じに
思えてしまうんです。」
 
 
などという言葉を発してしまった
のである。
 
 
 
するとそのお方は
一瞬鋭い顔つきを見せたあと、
(怒られるかと思った)
 
ふっ と口元を緩ませてこう言った。
 
 
 
「……まぁねぇ、人間は最初に
文字にした聖書とかを紙に遺した訳で、
本なんて言ってみれば全部そのコピーみたいな
ものかもしれないね。」
 
 
 
私の身体中の
半分寝ぼけている細胞も、
 
生まれてこの方起きたことの
なさそうな細胞も、
 
全てが一瞬で叩き起こされたような
感覚に襲われた。
 
 
 
「自分を表現するために
本を読んだらいいのかもしれないね。
あなたの場合は。」
 
そう言ってまた、コーヒーをひと口。
私も、飲んでみる。
(今夜はもう眠れないな)
 
 
 
今度の沈黙はさっきとは違い、
言葉にするには追いつかないほどの速度で、
膨大な量の情報交換がなされたような
感覚だった。
 
 
 
 
「……じゃ、そろそろ
   迎えを呼んでもらえるかな。」
 
そう言って、
そのお方は音もなく去っていった。
 
 
 
 
それからというもの、
私にとって本を読むということの
意味が明確になり、
 
活字の世界が楽しくて
楽しくて仕方がなくなった。
 
 
 
 
ただ、
その理由(わけ)を
言葉にして説明するのは
とても難しい。
 
 
それはあくまでも、
あのお方が、その時の私に響く言葉を
的確にチョイスして発した訳で、
 
しかもその言葉には
膨大な情報が含まれていて、
 
きっとそれを
文字にして書き起こそうとすると、
 
ご本人の本意と
若干のズレが生じる可能性があるからだ。
 
 
あぁ、
言葉ってやっぱり、
恐ろしくて素晴らしい。