この記事もまだまだ書きかけですが、少しずつ充実させられたらいいなと思います。

今回は位相場の理論(Topological (Quantum) Field Theory = T(Q)FT)について簡単に書きたいと思います。

TQFTは物理に端を発する分野ですが、数学の立場からの研究も進み、数理物理的に重要な研究対象となっています。

TQFTは単純に言えば位相不変量を出力するような場の理論です(数学者から言うと物理学者は"微分構造"を使って議論しているので"可微分構造に対する不変量"だそうです)。つまり、通常の場の理論は多様体+計量(~多様体上の点の間の長さ)の情報を持つRiemann多様体の上で定義されますが、計量の情報は位相変形に対して不変でないので、これを踏まえた上で言えば、TQFTとは計量に依らない物理を記述する場の理論という事が出来ます。

TQFTには

・量子重力型(全ての計量についての情報を含み、それ故特定の計量の情報に依らない)
・Chern–Simons理論型(そもそも計量に依らない)
・Cohomology型等の型(BRST cohomologyから得られる場の理論?)

があり、それぞれの文脈で重要な性質を持っているようです。

メモ:あるクラスのTQFTはN=2超対称性理論から"Twist"する事で得る事が出来ます(勉強中)。Twistには"カイラリティ"を残すものと、残さないものの2種類有ります。それぞれAモデル、Bモデルと呼ばれます。元の理論は同じなので、AモデルとBモデルは違った理論に見えても、実は同じ量を記述する、所謂ミラー対称性の数学的実験場に成ります。詳しくは

菅野浩明 ,位相的弦理論の分配関数と数え上げ, 2006年度原子核三者若手夏の学校素粒子論パート講義 C 講義録

等を参照して下さい。


TQFTは1988年のM. Atiyahの論文

Topological quantum field theory. Publications Mathématiques de l'IHÉS, 68 (1988), p. 175-186

によって数学的な公理化がなされました。この論文ではd=0~4のTQFTの例が書かれています。

現在では幾何学的な圏(~Cobordismの圏)からベクトル空間の圏(より一般にAbel圏?)への(strong and/or strict ?) monoid函手の事をTQFTというようです。特に2次元TQFTはFrobenius代数と同一視されます。

簡単な紹介及び文献についてはここを参照してください。

これらの言葉を理解するには以下の言葉の準備が必要になります:

Monoid (or Tensor) 圏:対象の間の積がmonoidに類似するように定義されている圏。つまり対象の間の積が結合的であり、かつ、単位元(に対応する対象)を持つような圏である。

Monoid函手:Monoid圏の間の函手(Monoid圏を対象とする圏の射?)

Braided Monoid圏:積の交換を行う自然な射が存在するMonoidal圏。交換を二回繰り返したものが元に戻るBraided Monoid圏をSymmetric Monoid圏という。

・余談であるがここら辺の定義はGraphical calculusを用いると分かりやすい。

以下の圏はしかるべき積によりBraided Monoid圏となる。

(Co)spanの圏:ある圏の二つの対象X, Yの間の射が、その間の関係Wで定まっているとき、これをspanと呼ぶ。積はpushoutにより与えられる。

(Co)bordismの圏:これはほとんど(Co)spanの圏と同様ですが、異なるのは境界のないn次元多様体を対象とし、関係が対象を境界に持つようなn+1次元多様体で与えられる、という点です。つまり(Co)bordismの圏は(Co)spanの圏へ埋め込む事が出来ます。

Frobenius algebra:ベクトル空間の圏またはAbel圏に行く行き先として、Frobenius algebraがある。これは結合的で非退化な内積のような積が与えられた空間である。

これらについて詳しくは

Daniel S. Freed, The cobordism hypothesis, arXiv:1210.5100v2.

John C. Baez, Aaron Lauda, A Prehistory of n-Categorical Physics, Deep beauty, 13-128, Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2011.

等を見るのが良いかと思います。

以上の言葉からTQFT構成の流れは

・Cobordismの圏からCospanの圏へ(ほぼ自明)

・Cobordismの圏のCospanの圏から、集合の圏のCospanの圏へ(広がりのある世界から点と線(グラフ)の世界へ)

・集合のCospanの圏からベクトル空間の圏へ(グラフの点に意味付けを)

という感じで行われます。最後に一言付け加えておくと、何故、最終到達地点がベクトル空間の圏なのかというと、そのベクトル空間が量子力学の状態ベクトル空間(~Hilbert空間)に対応するからです。