今回の記事ではGauge場の量子化について簡単に書きたいと思います。Gauge場の量子化について世に多くの解説記事が存在していますが、何となく解り難いものが多いように思いましたのでまとめてみました。

但しこの記事もいつも通り自分用のメモであり常に未完成です。間違いがある可能性もあるので、注意して読んだ上で、間違いを発見した場合はコメントで指摘して頂けると幸いです。

Ref.

So Katagiri, "BRST対称性のある量子力学".

Y. Wakimoto, "Yang-Mills 理論と BRST 量子化"

~本文ここから~

ここでは量子化として経路積分量子化を採用します。正準量子化についてはまたいつか(やりたい)。Gauge場の定義から量子化への流れは以下の通りです:

1. Gauge場の定義:

Gauge場とは、前回の記事でも少々書きましたが、

"内部対称性を持つ理論からGauge原理により定義される、それ自身がGauge対称性を持つ場の事"

です。従って"物理的に同値で異なる表示の場が連続無限個存在"します:

・A → A' = g A g^{-1}, g ∈ Gauge群 ⇔ AはGauge群の随伴表現

・AとA'は同じ物理現象を与える

2. Green函数の存在:

現在の素粒子理論では、古典的に場の運動方程式が線型方程式になるものを自由場(~作用が場の二次形式と成る場)と呼び、自由場以外の場は自由場からのズレとして計算(~摂動論)されます。

1よりGauge場は運動方程式に対し逆(Green函数)を持ちません。何故ならば運動方程式を満たす同値な場が無限個存在するからです:

・f(D)A(x)=j(x) : 運動方程式

・f(D)G(x-x')=δ(x-x')なるG(x-x')が存在するとA(x)=∫dx G(x-x') j(x')によりA(x)が一意的に定まる。これは1に矛盾する。

3. 経路積分量子化の困難:

経路積分量子化では、場の生成消滅点、及び、相互作用点以外で、場がGreen函数に従う自由場として計算を行います。従って経路積分量子化にGreen函数は必要不可欠なものです。

ではGauge場の経路積分量子化はどのように行われるべきでしょうか?

4. Gauge固定とその困難:

Gauge場を量子化するには"Gauge固定"を行う必要があります。Gauge固定とはGauge対称性により同値な現象を与えるGauge場の中から1つのGauge場を選ぶ事を意味することとします。

これは一般に非自明な問題であり

・消去法
Lagrangeの未定係数法
・Dirac括弧の方法
・Fadeev-Popovの方法

等の手法が有ります。

5. Fadeev-Popovの量子化:

FadeevとPopovは[1]において、Geuge対称性を表す連続パラメータを経路積分の中から取り出し、そのパラメータに対する経路積分を"割ってしまう"事でGauge対称性による経路積分の重複を打ち消す、という大胆な方法を編み出しました。この方法をFP処方と呼びます。またこの様な行為をGauge体積で割るともいいます。

通常の積分を用いて簡単に説明しましょう:

積分



の被積分函数が原点を中心とする回転対称性を持つとしましょう。このときf(x, y)を座標変換し極座標(r, θ)での積分に書き換え



とします。そして"物理的に同義な部分(=θに関する積分)をδ函数を挿入し条件F(θ)=0の下固定"してしまいます。



特に、この変数変換に伴うJacobianは、Grassmann変数のGauss積分、δ函数はフーリエ積分の形で書く事が出来るので



とまとめる事が出来ます。ここで新しく導入された積分変数達が回転対称性を消す為に導入された変数達となります。

これと同様の事を場の理論で見て行きましょう。まずGauge場の経路積分は以下で与えられます。



この積分からGauge対称性を表すパラメータεを取り出し



と表します。\tilde{A}はGauge固定されたGauge場とします。

ここでεに関する積分は"同値な物理を無限回足し合わせる事"に対応します。ですから、この積分を割ってしまいたい。しかし被積分函数の中にεが含まれているためこのままでは割る事は出来ません。そこで先ほどと同様にGauge固定の為のデルタ函数を挿入します。但し積分結果を変えないように数としての相殺函数Δをくっつけておきましょう。このΔをFP行列式と呼ぶ(先ほどのJacobianに対応します)。



これを積分に放り込むと







より、積分がεに依存しない形に書き換える事が出来ました。但し



を用いました。

FP処方が優れている点は

・経路積分に挿入するのはGauge固定の為のデルタ函数とパラメータを取り出す為の行列式でありこれらを合わせたものは1になる(ように定義する)。つまり元の経路積分を不変に保ったままGaugeを固定する事が出来ます。

・挿入されたデルタ函数とFP行列式は、通常の積分のときと同様、それぞれFourier変換及びGrassmann数の積分に置き換える事が出来ます。従って、これらの函数を"非物理的な場の経路積分"と見做す事が出来るのです。ここで導入される場は、それぞれ
 
・デルタ函数 → 中西-LautrapのB場

・FP行列式 → FP-ghost場

と呼ばれています。



[1] L.D. Faddeev and V.N. Popov, Feynman Diagrams for the Yang-Mills Field, Phys. Lett. B25 (1967) 29.

6. BRST対称性:

Gauge場にFP処方を適用すると、結果的に全体のLagrangianとして

Gauge場のLagrangian(元のLagrangian) + B場のLagrangian + FP-ghostのLagrangian

を得ます。このLagrangianにはGauge固定が施されているためGauge対称性は有りません。しかしその代わりBRST対称性という大域的な対称性が存在します[2-5]。この対称性はghost数を次数とする次数付きLie代数の構造を持っています。(つまりBRST対称性は"超対称性"と同じ構造を持っています。)

つまり、BRST対称性方向の変換、BRST変換Qは冪零性を持ちます。

・Q^2 = 0

この性質により、Qは状態空間を分割します。つまり

・|ψ_1> ∈ H_1 ⇒ Q |ψ_1> = |ψ_2> ∈ H_2

・Q^2 |ψ_1> = Q |ψ_2> = 0 ⇒ H_2

・Q|ψ_3> = 0, Q |ψ> ≠ |ψ_3> ⇒ |ψ_3> ∈ H_3 ≠ H_2 = ker Q / Im Q

という具合です。特に、物理的状態が満たすべき条件として、"BRST対称性を持ち"、かつ、"ghost数が0"という、九後-小嶋条件[6,7]、

・Q |Phys>=0

より、物理的状態はBRST変換のhomologyによって得られる事が分かります。

[2] C. Becchi, A. Rouet and R. Stora, Phys. Lett. B52 (1974) 344.
[3] C. Becchi, A. Rouet and R. Stora, Commun. Math. Phys. 42 (1975) 127.
[4] C. Becchi, A. Rouet and R. Stora, Ann. Phys. 98, 2 (1976) pp. 287–321.
[5] I.V. Tyutin, Lebedev Physics Institute preprint 39 (1975).
[6] Kugo, T and Ojima, I (1978 a). Manifestly Covariant Canonical Formulation of the Yang-Mills Theories. Physical state subsidiary conditions and physical S-matrix unitarity. Phys. Letters 73 B: 459.
[7] Kugo, T and Ojima, I (1978 b). Manifestly Covariant Canonical Formulation of the Yang-Mills Field Theories. I. Progr. Theor. Phys. 60: 1869.

BRS対称性

7. BV形式(書きかけ): 

最後に、BRST形式の一つの一般化である、BV形式[8,9]について紹介しましょう。

BV形式はBRST形式の一般化ですから目的は同じです。しかしながらBV形式では幾何学的、かつ、形式的な方法でGauge場の量子化を行う事が出来るのです(未完)。

[8] Batalin, I. A. & Vilkovisky, G. A. (1981). "Gauge Algebra and Quantization". Phys. Lett. B 102 (1): 27–31. Bibcode:1981PhLB..102...27B. doi:10.1016/0370-2693(81)90205-7.
[9] Batalin, I. A.; Vilkovisky, G. A. (1983). "Quantization of Gauge Theories with Linearly Dependent Generators". Phys. Rev. D 28 (10): 2567–2582. Bibcode:1983PhRvD..28.2567B. doi:10.1103/PhysRevD.28.2567. Erratum-ibid. 30 (1984) 508 doi:10.1103/PhysRevD.30.508.

閉弦の場の理論の構造とその応用