前に住んでいた町の友達に会うべく、久しぶりに電車の駅へと足を運んだ。
フランケン地方の都会ニュルンベルク中央駅は相変わらず人の往来が激しい。
人ごみの間をすり抜けるように券売機の前に行くと、私の前に立っていた外国人らしき男性は操作がうまく行かなかったのか、首を振りながら、お先にどうぞ、とゼスチャーで私に示す。
私が無事自分のチケットを手にしたのを見た男性、頃合いを見計らったように、あのう…すみませんが・・・とおずおず声をかけてきた。中東から来たらしい眉の濃い小柄な男性だ。シリアから難民として来た人かしら。
自分の携帯を見せ、ワタシ、ココ、行キタイ という。
そうよ、だいたいドイツの券売機はシステムがややこしくて外国人には大変だっつーの。
男性の示す携帯のグーグル地図を見たところ、なにやらアラビア語らしき文字の下にHeilbronnと書いてある。
ああ、隣の州にあるHeilbronnに行きたいのね、と合点して、券売機の画面に行先を入力し、出発時間は?一人分ですか?と聞きながらなんとか最後の支払いのところまできて、39.90ユーロですよと男性に言うと、激しくかぶりを振って、違う、そんな高いはずはありません、コレ、見テ、とくしゃくしゃになった古いチケットを示す。6.22ユーロと書いてある。え、全然違うじゃないと混乱しながら男性の携帯を見ところ、どう見てもここから至近距離の場所なのである。困惑しながら一生懸命にドイツ語の地名を見たところ、なんとHeilbronnならぬHeilsbronnとある。sが一つあるかないで、全然別の二つの都市があったってことだ。
合点がいったので再び画面に向かい、今度は無事ご所望のチケットを購入。おつりと共に渡したところ、どうもありがとう、ありがとう、と感謝された。
そこでもちろん好奇心の湧いた私は例によって、
「どこの国から来たんですか」
果たして男性は、
「ワタシ、シリアから来た」
やっぱり。おそらく難民として来た人だろう。
20数年前シリアに行った私としてはそのままにしておくことはできません。
「お兄さん、どこの都市の出身?ダマスカス、アレッポ、パルミラ、ハマ?」
矢継ぎ早に聞く。
「ワタシ、アレッポ、アレッポね」
本当?あのアレッポ石けんで有名なアレッポ?
「私、20年ぐらい前にアレッポ行ったことあるよ」
自分の胸を叩きながら言ってみる。男性は通じているのかどうかわからないがうれしそうな顔になっている。
「私、アレッポ、ダマスカス、パルミラ、ハマに行ったよ。バカンス、バカンスで行ったの」
続けていってみたが、どうも通じてないっぽい。うーん、バカンスはアラビア語で何て言うんだ。
もっと、シリアはすばらしい国でしたよとか、早く平和が戻りますようにとか言いたいのだが、いかんせん男性のドイツ語力ではどうにもならない。
仕方なく私は、「Alles Gute(あなたに幸運を)」と締めくくりに言ったのだが、それも通じておらず「アレス・グーテ?アレス・グーテ?」と首をかしげている。
男性は申し訳なさそうに、
「ワタシ、ドイツ語、ちょっとだけ」
と言う。私、
「私、アラビア語、ちょっとだけ、インシャアッラー(神がお望みになるなら)だけよ」
二人で笑ってしまう。
男性は、
「ワタシ、ニュルンベルクに住んでる。ここはいいです」
と言う。
残念ながら行きずりのシリアの男性にしてあげられることはここまでだ。もう少し話していたそうな男性に軽く頭を下げ、私は自分の路線へと急いだ。
ああ、ほんと、あなたに幸運をって言えたらよかったなあ。アラビア語で何て言うんだろう。ぐやじい。
さっそくオンラインで検索してみたが、ミミズの張ったようなアラビア文字、おまけに何通りもの言い方があるらしく、どれが正解かさっぱりわからない。今度アラビア語のわかる人に会ったらぜひ聞いてみなくっちゃ。