ノルウェーに住む日本人の奥様方の間で密かに人気なのが、
「北欧のビンテージ食器」集め。
フィンランドのアラビアやイッタラ、
ノルウェーのフィッジオ、
スウェーデンのグスタフスベリやロールストランド、
デンマークのロイヤルコペンハーゲンなどなど
これら有名な陶磁器メーカーにより60年代や70年代に製造され、今は製造されていない食器が、ビンテージとして、かなりいい値段で日本のコレクター向けにネット上で売買されている。
それらの食器、こちらの中古市場では、割と安い値段で買えることがある。
私も一時期、この食器集めにはまったことがあったが、置く場所もないし、きりがないので最近は買っていない。
前置きが長くなったが、この度、中古品サイトで興味深い品物にであった。
それは、我が国が誇る陶磁器メーカー、ノリタケの食器。
それも、オールドノリタケと呼ばれる、昭和初期に作られたもの。
特に、戦前に作られたものは希少価値が高く、収集家の間では、高い値段で取引されているようだ。
私が出会ったのは、1933年から53年の間に作られた
「Colby」というシリーズのもの。
ロゴを調べてみたら、やはり本物のようだ。
ちなみに、アメリカ占領時代に作られたノリタケのロゴには、「Occupied Japan」という刻印のものもあるらしい。
占領時代というと終戦後の昭和20年からサンフランシスコ講和条約の調印があった26年までの短い間。
ネットから画像をお借りしました
この「Colby」、日本のオークションサイトでは、1件しかでてこなかったが、イーベイを見てみると、数件の出品があった。
調べれば調べるほど、欲しくなってきた。
早速、持ち主に連絡すると、「今は休暇中で家にいないので帰ったら連絡します」とのこと。
それから、2週間程してやっと連絡がきた。
約束の住所に行くと、同じような建物が数棟立ち並んでいる。
グーグルマップが指し示す場所にいくが、その人とおぼしき表札が見つからない。
教えてもらった電話にかけても誰もでない。
結局1時間ほど、その場で待ったが、電話にはでないし、それらしき人にも会えなかった。
がっかりして家路についた。
私は嫌な思いをしたので、もうあきらめようと思ったが、今度は主人が諦めきれないらしい。
数日後に再度、メールを書いたようだ。
すぐに、「私は休暇でいないが息子がいるので、もう一度来てください。」と返信が来た。
教えてもらった電話番号は、前回と違うものだった。行く前に再確認のため電話をすると、持ち主の息子さんと思われる人がでた。
今度は慎重に、自宅にいることを確かめた上で行くことにした。
そこで、前回行ったとき、違う建物の前で待っていたことがわかった。
同じような建物が数棟あったのに、グーグルマップを信じて、建物の番号を確認していなかったのだ。
なんというミス。![]()
そりゃ、いないはずだ。![]()
そんなこんなでやっと持ち主の息子さんに会うことができた。
高級な食器にはにつかわしくない(おっと、失礼!)、狭いアパートに、所狭しと段ボールが重ねられている。その中で、やたら豪華なカップボードが不釣り合いに置かれていた。
近所のもう少し広い家に引っ越す予定らしい。
見たところノルウェー人ではなさそうなので、どこから来たか聞いたところ、「チェチェン」ということだった。
チェチェン?
チェチェン共和国は、ロシアからの独立を目指して2009年まで紛争があった国。
「紛争で逃げてきたんだな」と主人。
「この食器はどうやって手に入れたんだろう?」
「きっと、チェチェンでは大金持ちで、金目のものを持って逃げてきたんだよ。」と私。
「いや、逃げてくるのに家財道具なんか持ってこれないよ、たぶんそこらへんの古物屋で買っただけだよ。」と主人。
「ロシア時代に、将校かなんかの偉い人で、その時に日本で買ったのかも?」
と想像は膨らむばかり。
息子さんに聞いても、お母さんの物だから知らないという。
これ以外にも、高級そうな食器がいくつも梱包され、無造作に置いてある。
この食器のストーリーを知りたいよね。と私。
そこで、再度、持ち主であるお母さんに、
「この食器は60年前に作られたとても古いものですが、どこで手に入れたんですか?興味があるので教えて欲しい。」
とメールを送った。
しばらくして返事がきた。
「これはおばさんにもらったものだから、知らない。」
だってぇ~。がっかり。![]()
結局、この食器の歴史を知ることはできなかった。
1933年から53年の間に作られた60年以上も前の日本製の食器が、遥か北の果てノルウェーで、チェチェン人により、
大切に保管されていた。
どのような経路でここにたどり着いたのだろう。
チェチェン人の親子の歴史もさることながら、このノリタケの歴史に思いを馳せる。
謎は深まるばかりだ。
家宝として、娘達に受け継いでもらおうかな?

