午後2時ごろ、折り畳み傘を探しに、近所の商店街の雑貨屋へ入った。


日本のコンビニより広くて、かなり奥行きのある路面店。

店内には、いろんな雑貨がきちんと陳列されている。

入り口横のレジには、女性レジ係が1人立っている。

店員は彼女1人。


レジの前に、客が5人ほど並んでいた。

私は、支払いが終わって、出口に向かうところ。


と、その時。

背の高い20代の黒人男性が入ってきた。

カラフルなスポーツウェアを着て、黒マスクをつけている。

黒マスクは、風貌と同化していて、一見、着用していないかのようだ。

IKEAの超大型ショッピングバックのようなものを、肩から下げている。


男性は、入り口近くの商品ワゴンに直行。

商品をわしづかみに、2つ、3つ、4つと自分のバックに入れ始めた。

本日のスーパーセールのタッパーの詰め合わせ?


すぐに、レジの女性は、カウンターの中から

「商品カゴを使ってよ!」と大きな声で、2度叫んだ。


私は、わけが分からず、男性の前に立っていた。

レジに並んでいる客たちも、皆見ている。


男性は、私たちにお構いなしに、女性店員を無視し、詰め込めるだけ詰め込むと、歩き去った。


一方、女性店員は、2度叫んだあとは、

何事もないかのように、レジ作業に戻っている。

客たちも、何事も起きていないかのように、騒ぎもせず、静かに立っている。

商品を持ち逃げする男性を、止める人はいない。

騒然とする様子も全くない。


出ていく男性のあとについて、歩道に出たのは私だけ。

去っていく後ろ姿が見えた。

男性は走るわけでもなく、雑踏に紛れ、やがて見えなくなった。

遠くから一度、後ろを振り返るのが見えた。

誰も追ってこないことを確認したのかもしれない。


トータル 30秒程度の出来事。

驚いている人が誰もいないことに、私はもっと驚いた。


今の万引き? と女性店員に話しかけた。

「そうなのよ、しょっちゅう来るのよ。」

警察には連絡しないの?

「してもすぐ釈放されて、また来るからムダよ。」

従業員の温度の低いこと〜


人生で、犯罪を目撃するのは初めてだったので、私は興奮してしまった。

そのまま、迎えにあるテスコ(英国最大手スーパーチェーン店)に入った。

ここはよく来るので、顔なじみの男性従業員がいる。

今日も、野菜陳列棚で作業中。


私、今すぐそこで、万引きを見たのよ。

と詳細を彼に語った。


そうなんだよ。しょっちゅうあるよ。

うちの店だって、先週あったよ。

店に入って来るなり、いきなり、

ラズベリーがたくさん入ったコンテナケースごと両手で持ち上げて、

そのまま出て行ったよ。

笑えるだろ。

奴らは、警備員がいたってお構いなしさ。

警備員も何もしないしね。


その前は、

4人でやってきて、それぞれが別の通路に入って、持てるだけ持って行った時もあったな。

お金がないから生活ができなくて、やっているのさ。しょうがないんだよ。


止めないの?と聞いたら、


万引きが店外に出てしまったら、

店員は話しかけてはいけない法律があるんだよ。

追いかけてはいけないんだ。


店内は、従業員の安全が大事だから、犯罪を見ても、絶対に何もしないように会社から徹底されてる。

奴らはナイフを持ってるからね。

刺されたら困るじゃないか。

店員も警備員も、ただ黙って見てるだけさ。

どこの店でも、みんな被害に遭ってるよ。


さっきは、タッパーウェアみたいだったし

ここはラズベリーだし

そんなの万引きしても、お腹の足しにならないでしょ?


商店街には、オフライセンスっていう店がよくあるだろ。

やつらは、そこに持ち込んで買ってもらうんだよ。

テスコのケチャップとかマヨネーズとか、破格な値段で売っているのはそういうわけさ。


その後、買い物の続きをしに、近所のコープにも行った。

ここの従業員にも同じ質問をしたけど、全く同じ答えが返ってきた。

どこの店も日常的に被害に遭っているし、

従業員は何もしないで見てるのも同じ。


日本の万引きは、従業員に見つからないように、こっそりバックに入れるというイメージ。

店内では声をかけずに、外に出た瞬間に声をかける。英国と全く逆だ。


英国の万引きって、かっぱらい?

大胆過ぎる。


家に着いて、いつもよりしっかり戸締りを確認した。