◇ひょっとして宇宙人にアブダクション?
私は青い椅子に座らされてじっと前を見ていた。
目の前はくぐもったグレーの渇いた壁があり、壁の染みも、光の反射もない。もちろん絵の飾り一枚、ポスターすらもない。ときどき視界の左右に白いものがゆらゆらと揺れては消えていた。
静まり返った空間の横で、声が私を呼んでいる。と同時に、白いゆらゆらとしたものが私の身体を支えて、いつの間にか空いていた横の扉に招き入れられた。
ピンクの椅子が目の先に見えた。その周囲を金属の冷たい複雑な機器が取り囲んでいて、その真ん中に私は、催眠術にかけられたかのように座らされた。背もたれが静かに沈み、私の首と頭は深い奈落に落ちるように傾き、水平に仰臥状態となるとたちまち、顔はシーツに覆われた。
(ひえ~~~、だずげでぐれ~~~)と私は意識の奥で叫んだが、虚しくも木霊すら返って来なかった。
しかし、左目だけはむき出しのままだった。それが透明な広いテープで覆われたかと思うと、上瞼がベロリとめくられてテープで固定された。つづいて下瞼がテープでひっぱられるように固定された。私は、目の玉だけがむき出しになった目玉おやじそのものになっていた。が、ゲゲゲの鬼太郎の姿はない。
次の瞬間、何やら冷たい感触の金属が、さらに私の目の玉を抉るかのように接続された気がして、「これはアブダクションされたかも」という妄想が沸き起こった。
痛みは……ない。
痛みはないが、鳥肌が立つような不気味さはある。
「いったい、何がはじまるのか?」
グレイの気配はない。
が、私の周囲には、人影が何体かうごめいていた。
それは突然やってきた。
強烈な眩しい光が目の中に飛び込んできた。
「オー・マイ・ゴッド!」
おっと、私は日本人だった。
翻訳すると、「神さま、何してくれてますねん?」
やがて、音がない空間に、超音波的電子的音がして、目の上に四つの光がうごめきだした。光はまるで宇宙船のような不安定な動きをし、ときどき赤や紫や緑色をちらりちらりと放射する。
「何て神秘的な光……」とも思えなくもない。
が、その奥に神なるものの気配はあるのだろうか。
ときどき視界の横に、鋭いメスのような金属が目に向かって来る様が見えたりすると、声をだせない恐ろしさがある。しかし、痛みはない。
◇緑内障・白内障手術
緑内障と白内障の手術は、9月初旬に右目を終え、今回の11月半ばは、左目を行った。右目は、繊維柱帯切開術を360度にわたり行うという、厳しい手術で50分くらいかかったのだが、今回の左目はドレーン挿入術で、半分くらいの時間で終わった。若い先生だが、相当な技量の眼科医なのであろう。私はもちろん、絶対の信頼を置いているのだが、受ける身になると、怖くないとは言えない。
しかし、今回は、術中の半分は、宇宙船で宇宙旅行をして神秘の宇宙空間に遭遇しているような体験をしたと妄想している。

手術当日は、左目は眼帯状態で塞がれ、右目だけで過ごした。さすがにステンドを入れたと思われる目のあたりには痛みがあった。痛み止めを飮むほどではなかったが。翌朝、自分で眼帯を外した(そうするように指導がされている)。光が入ると、手術した左目に痛みが走ったが、だんだんと慣れて、かなりよく見えるようになり、嬉しかった。
実は、私はもともとが強度の近視だった。眼鏡店に行くと、必ず特注となるほど。そんな私の右目は、9月の手術で中軽度の近視レンズになった。そのとき、左目は強度の近視なので、眼鏡店で眼鏡を作ってもらったが、左右の近視の度合いが著しくちがっていて、モノがまともに見えない状態となった。
右目が軽い近視、左目は強い近視、一つの物体を見ると、右目は大きく写り、左目は小さく写る。位置も少しずれている。私の右脳と左脳は、このずれた二つの画像をどう理解するか、悩んだはずだ。それが目の疲れになり、疲労の原因となる。私はこれをなんとかしたかった。
今回、左目に、右目と同じ程度の度数の人口レンズを入れることで、左右の近視の度合いが、中軽度で一致し、左右の見え方乱れたガチャ目状態は解消した。

ところが、問題がひとつある。眼鏡店は、医療機関で治療中の患者には、医者の処方箋がないと眼鏡を作ってくれない。そういう薬事法でもあるのだろうか?
しかし医者も、手術をしてすぐには、眼鏡の処方箋は出してくれない。手術後に視力が安定するまでには、1か月以上かかるという。正式な処方箋は、それまで待たなければならない。
困った私は、経過措置で使える眼鏡はないかどうか、捜した。
◇術後に必須の視力補正用眼鏡
プレスビーという会社から、視力補正用眼鏡というものが販売されていた。アマゾンや楽天で、何種類かが販売されている。
仕組みは、2枚の凹レンズと凸レンズの重ね具合を少しずつネジ式でずらせる構造になっていて、かなりの遠視・老眼から中軽度程度の近視の範囲で、左右とも別々に自由に調整して使うことができるようになっている。価格は、楽天で数千円から8000円ほどの幅があった。もっと高いものもある。遠視だけのものもあったが、近視専用というのは、なかった。私に必要なのは、近視用なので、遠視~近視用(-4.0D~+5.0D)しかない。いろいろと種類はあるり、価格が、2倍近く違うのもあるのだが、解説を読むかぎりは、デザインや素材を除くと、眼鏡としての性能に違いはないので、当然、安いものを買った。4500円ほどである。
手術の翌日、さっそく使ってみた。近視は、たぶん裸眼では0.1のはずだが、補正用眼鏡の近視の最大値のあたりで、ちょうどよい。両目の手術後は、裸眼で30センチほど先の新聞などの文字は読めるのだが、数十センチ先のPCのディスプレイは、きつい。ところが、この補正用眼鏡を使うと、ちょうどよいところに視力を調整することができた。とにかく、経過措置の眼鏡としては、十分実用になる。

しかし、欠点もある。
まず、レンズは小さな楕円形で、その中でしか有効な視野が得られない。視野が中央よりで狭いのである。日常生活では、それほど問題はないが、車の運転は、止めた方がよいだろう。
もう一つ、レンズの透過性が十分ではない。構造や価格を考えると、仕方がないところだろう。飽くまで、ずっと使うための眼鏡ではない。
が、私のような、白内障手術をして、レンズの度数が合わないような場合には、経過措置の眼鏡として、十分にありがたい眼鏡である。
おそらく、正式な眼鏡の処方箋が得られ、ふつうの眼鏡を作れたなら、この補正用眼鏡は、役割を終えるかもしれない。短い期間だが、それでもありがたい、スグレモノであると思う。
