「どうして日本でナポレオン展を開催するのですか?」
東京富士美術館の渉外担当者は、強い口調にたじろいだ。
プランセス・ナポレオン。フランス皇帝ナポレオン一世の実弟にして、ウェストファリア王だったジェロームの直系子孫の夫人である。身長170センチを優に超える貴婦人。あたりを払う威厳がある。ピクリとも眉を動かさず詰め寄ってくる。
何が目的なのか。ナポレオン家を利用するつもりなのか。
担当者は額に汗を浮かべ、正面突破を試みた。
「もちろん日本でも、ナポレオンに対して賛否両論はあります。しかし、ナポレオンの波乱万丈の生涯には日本人が学ぶべきロマンがある。それが美術館創立者・池田会長の信念です」
表情がやわらいだ。分厚い壁に、穴が開いたようだった。
「協力しましょう」。賛意を得た。
1993年(平成5年)10月、東京富士美術館「大ナポレオン展」の開幕式。彼女は、フランス皇帝直系の代表として出席してくれた。
開幕式の後、池田会長と大いに語り合ったことは言うまでもない。
来日中、こんな場面があった。東京に到着してから「知り合いのところへ行きたい」。車を走らせた先は皇居であった。
皇居?担当者は”そんなに簡単に入れるはずがない”と首をひねった。
しかし、皇居の門をくぐると車を降りた。つかつかと大股で玉砂利の上を横切っていく。警備に制止される様子もない。さる皇族が出迎え、建物の中に消えた。
欧州の王族、名族の人脈に驚きながら、後ろ姿を呆然と見送った。