次はカオ(役者)である。
戸田城聖役を誰にするか。一流スターの名が続々と上がった。どれも粒が小さい。
橋本忍の師匠格になる映画監督の伊丹万作。「百の演技指導も、ひとつの打ってつけの配役には、かなわない」と言い残した。それほどキャスティングは、作品の成否を握っている。
最後の最後で舛田が奥の手を出した。丹波哲郎。180センチ近いタッパ(身長)が戸田会長を彷彿させる。演じなくても演じているような存在感がある。
「アクション俳優ねぇ・・・・・」。関係者の訝しげな声を跳ね返した。
「いや、性格的にいって、丹波が一番近いんだ」
舛田が丹波を口説きに行った。
型にはまらない天性のスター。学徒出陣したが、まったく規律を守らず、上官も見放したほどである。高圧的な態度は逆効果だ。徹底して持ち上げるしかない。
「あんたしかやれないんだ」 「これは適役だよ」
丹波は返事を渋っている。まずは脚本をよんでくれと頼むと「いや、今ここで、どんな話か教えてくれ」。
筋書きと狙いを話した。「死への恐怖」を覚えた少年時代の原体験も打ち明けた。
太い眉のの下で、丹波の目がぎょろりと動く。
「うーん、それは面白い」役者魂に、ぽっと火がついた。
「実は俺も生命というものに興味がある。人間、死んだら、どうなるのか。最大のテーマだね。よし、分かった。そんなに俺を必要としているなら、ひとつ舛田さんを喜ばせてやるかな」
1973年(昭和48年)2月10日。映画『人間革命』はクランクインした。初日に、丹波哲郎が分厚い眼鏡をかけ、鼻の下に髭をつけた。
この瞬間、橋本は直感した。”これでいける!”
似ている。無造作に立っているだけで、厚みがある。スタジオ関係者が、ぎょっとした表情で丹波を見た。