(あ。)
週明け、朝、いつも通り駅に向かって歩いてたら、いた。
あいつが、いた。
ZRX1200にちょっともたれかかるように、座ってた。 私の姿を認めると、上体を起こしてバイクから降りた。
私は、目を合わせないようにして、歩いた。
あいつが、バイクから離れてこちらに歩いてくる。
私は足を速めた。
目を見ないようにする。
あいつが、私の正面に来た。
「エイコ」
無視して、あいつの前を通り過ぎた。
「エイコ!ちょ、待てよ!」
叫ぶほど大きくないけど、ちょっと大きめの声だった。
私は振り向きもせず、改札を通って、あいつに向けて肩越しに中指を突き立てて、そのままホームの階段へ向かった。
"Fuck." 私はつぶやいた。
いつもの電車で、いつもの席に座った。
工場は郊外にあるので、通勤ラッシュの逆方向だから、ぜんぜん混んでない。 でも、空港に向かう電車と一緒だから、途中で急行に乗り換えると混む。でもギュウギュウじゃない。
急行に乗り換えないと、遅刻するけど、このまま普通電車に乗っていたい気分だった。
電車の窓から外を眺めながらぼんやりしてた。
あいつが私を待ちぶせしてた。
どういうつもりなんだろう?
朝なんて時間ないんだから、まともに話なんかできるわけないのに。
話するつもりないけどね。
Mちゃんが言ってた事が、頭のなかでエコーする。
「そんなの浮気でもなんでもないじゃない。」
今度は店長が言う。
「若い時ってのは、ちょっとした勘違いで取り返しのつかない失敗をすることだってある。」
私の勘違い?
忘れかけてたのに、また思い出しちゃった。
寒い夜に、バイクに乗っておでん食べに行ったこと。
初日の出見に行ったこと。
抱きしめられたこと。
守ってやりたいって言われたこと。
私にだけ見せる、ヘラヘラしたバカ面。
頭の中からそれらを追い払うように、バッグからブルートゥースのイヤホンを取り出して、iPhoneにつないだ。
ライブラリーからDaily Songsを選んで、シャッフルをクリックした。
よりによって一曲目はアヴリルのWish You Were Hereだった。
"Fuck..."
電車を急行に乗り換える駅についた。
反対側ホームで待機していた空港行きの急行電車に乗り換えた。
今までの私なら、降りずにこのまま普通電車にのってどこかへ行ってしまっていたに違いない。
成長したのか、社会に従順になっただけなのか。
自分ではわからない。
そう思いながら、急行電車で手すりにつかまり、揺られながらアヴリルを聴いてた。
♪Damn, damn, damn,
What I'd do to have you
Here, here, here
I wish you were here
Damn, damn, damn
What I'd do to have you
Near, near, near
I wish you were here