ジーコに最後のアピール<オレも、海外組だ!!!> | 書き手 吉崎エイジーニョのブログ

ジーコに最後のアピール<オレも、海外組だ!!!>



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5月10日、ケルンワールドカップスタジアム前にて話を聞いた


 いまや、国民的行事となった、ワールドカップ本大会の最終エントリー発表。 開催国ドイツで、ひっそりとその時を待つ海外組がいる。 

 吉崎エイジーニョ、31歳、MF(DJKズッド・ヴェスト=ドイツ10部所属) 。 昨年9月に欧州進出を果たして以降、リーグ戦13試合に出場した。これは、候補のひとり柳沢敦(メッシーナ→鹿島)の今シーズンの欧州での出場回数を上回るものでもある。 

 「フットボーラーである限り、ワールドカップは夢」 

 本人は公言して憚らない。いったい、ジーコ・ジャパンに何をもたらせるのか。 

 5月10日、春の穏やかな日差しのケルンワールドカップスタジアム前でギリギリの最終アピールを行った。 相変わらず、どのメディアも取材に来ないため、自分で聞き、自分で答えた。(取材・吉崎英治=スポーツ・ジャーナリスト)


―ワールドカップが近づいています。開催国ドイツで、雰囲気も高まっているのでは? 


 もちろん、予定はすべて空けてあります。15日にメンバー発表があり、結果が出ますからね。

ただ、私自身の基本的スタンスは、『所属チームあっての代表チーム』。最後の最後までワールドカップに出られる可能性を信じて、所属チームで勝利に貢献するプレーがしたい。ワールドカップはファンを非日常に導ける。でも所属チームでの出来事は、日常に根を張ったものです。この6月が過ぎても、また9月には次のシーズンが始まるのです。

 いま、チームは10部残留の崖っぷちをさまよっています。11部に落としてはならない。残りの3試合にとにかく集中し、その次に代表のことを考えたい。


―ジーコに何をアピールするというのですか? 


 誰よりもはやく、ドイツに来ています。

 いうならば、気合でしょうか。ここに来るにあたり、家電・家具はほとんど捨ててきました。洗濯機、テレビ、乾燥機、冷蔵庫、机、椅子、電子レンジ……帰る家もありません。お金もあまり残っていない。馬鹿じゃないの、あなた。そうですよ。だからこそ、気合を見て欲しい。 


―ここ最近はレギュラーから外れています。状況は厳しくないですか? 


 そうですかね? もっと厳しい時期がありましたけど。 

 日本で過ごした今年の1月ですよ。試合出場なし、所属チームなし、お金なしでしたから。

東京では友達の家をフラフラ泊まり歩いていた。実家に戻っても、近所からは「あらー何やってんのー」っていう目で見られ。「ははは、海外組です」なんて、ギャグも空回りしていましたから。なんだか、オレ、誰にも受け入れられないのかなーという孤独を感じていました。 

 しかし、ちょうど正月が終わった頃、私は苦境から抜け出しました。夕暮れ時の出来事です。『原稿を書く』とパソコンに向かったが、どうも18歳未満アクセス禁止エリアににマウスを動かしてしまう。やがてお店でお金を払ってでも、燃え上がる気持ちを発散させたくなった。しかし、私はぬぉぉぉと叫びその想いを噛み殺しました。そして、3㌔のランニングに出かけた。その後、軽くビールを飲み、そのまま寝たんです。克己心でコキコキを抑えた。あの日以来、つらいことなどなくなった。


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ドイツでのプレーを通じ、得た自信。これがビックマウスの源となっている


―調子を落としている? 


 4月17日に一軍の試合(クライスB=9部)に出場して以来、一気にムードに乗れると思っていました。

ところが、その後どんどん悪い流れになっている。ファンの皆様に、申し訳ないと思っています。 

 原因は2つあると思う。疲れと、自分のやりたいプレーにブレが出ていることです。 

 チームの状況が苦しくなり、出場機会が失われていく中で、少し自分を見失っていますね。最初は「左右両足のキックを活かしたい」「攻撃の第一歩となるパスを出したい」という考えだったのですが、DFでのポジションを失い、左サイドのMFには、左利きのミゲルがいて試合出場は難しい。すると「前めのポジションで、両サイドに流れる動き」なんて考えを変えているんですが、簡単には分かってもらえないですよね。フランク監督には口頭で伝えてあるんですが。

 言葉があまり通じない海外組は、「何がしたいのか」っていうことが自分の中で明確でなくてはならない。それを我慢強く周囲に伝えていくことこそが、コミュニケーションだと思うんです。 


―ドイツでの経験を代表で活かせるでしょうか? 


 相手サポーター、監督などの嫌がらせをずいぶん経験していますからね。

 ヨーロッパでの経験はチームにとって大きなプラスとなるでしょう。左サイドで出場した4月23日の試合では、ボールをクリアした際、勢い余ってピッチサイドで観戦していた相手サポーターの少年とぶつかってしまった。すると、このクソガキが言うんです。「靴を踏んだだろ」って。何回も言ってきやがる。「おいおい、試合中だぞ」って言い返してやりましたけどね。 

 さらに今月14日の試合では、私がスローインをするたびに相手チームが「ファウルスローだ」と騒ぎたててきた。中東系と思しき相手の監督は、延々と投げる真似をして「こう投げるんだ」なんてレクチャーしやがる。その時も覚えたての「どうでもええやんけ」っていうドイツ語で返しました。こういった経験は、日本サッカーにとっての財産でもあります。


ワールドカップへ向け、準備・気合ともに万全。

ケルンの大会会場(ライン・エナギーシュタディオン)に向け、ダッシュするエイジーニョ

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―プレーの面での成長を感じますか?


 私は16歳でヘディングをやめ、20歳でドリブルをやめました。苦手なことは、他の人に任せたらいい。その代わり、得意なことで思いっきり力を発揮しよう。そう考えて生きてきたのです。高校時代、数学・理科には一切手をつけなかった。『この三角錐の面積を答えなさい』。そんなこと、オレに聞くなよって。2組の恵美ちゃんが知ってるんじゃないの? と。 

 しかし、ドイツでのプレーを通じ感じることは「得意なプレーをより発揮するために、苦手なことにも取り組むのも悪くはない」ってことです。ここクライスリーガでは、ほとんどのチームが3-5-2を採用しています。トップ下に入る選手で、よく見かけるのがガタイのいいおっさんです。結局、こういう人のほうがたくさんボールに触れるんですよね。 フィジカルとテクニックは、時として対極にあるものと捉えられる。一昔前には世界のサッカーの趨勢が「フィジカル重視だ」なんて言われましたよね。 

 でも、2つは必ずしも乖離したものではない。日本だと長谷部誠(浦和)がフィジカルコンタクトに強くなって、技術を発揮し始めているじゃないですか。 

 うん、だからと言って、私自身がヘディングやドリブルを練習しているわけじゃないですが。 ちらっと、そう思っただけです。


―もし、今、日本に帰れるとしたら? 


 杏仁豆腐が食べたいです。フルーツ・ポンチに杏仁豆腐が入ったやつです。丼いっぱいに盛られたやつを、一気に飲み干したい。あの白くて、ぷにぷにしていて、甘くて、切ない杏仁豆腐を。試合中、苦しいときにはいつも杏仁豆腐と相田翔子(元WINK)のことを考えています。最近は、大橋美歩と滝川クリステルも少々。

 あとはまぁ、Wカップもいいんですが、青木りんの動向も気になっています。集英社の担当の方のはからいで、毎週『週刊プレイボーイ』が送られてきます。彼女のインタビューも、グラビアも見ました。出来れば、ビデオを見てみたいものです。


―最後に、ファンに対してのメッセージを。 


 シーズンも残り少なくなりました。終盤の姿は、サポーターに失望を与えるものかもしれない。 見て欲しいのは欧州サッカーに対してノーガードで挑む男の生き様です。

 相手選手はおろか、味方が何を言っているのか分からない。ガンガンロングボールが飛び交い、なかなかパスをもらえない。相手にからかわれ、監督からはメンバー外にされてしまう。

 それでも、私はドイツでの自分がプレーした足跡を、この2006年に、31歳の自分に記したいと思っている。相変わらず、誰も取材に来てくれないので、自分で自分の姿を描いていこうと思う。 

 もし、ワールドカップに出られなかったら? 6月の18-21日くらいまで、ライプツィヒに行こうかなと思っています。韓国―フランスでは、ジダンの最後の姿を見たい。合わせて、韓国の4バック導入ぶりを徹底的に分析ようと思っています。

 21日には、大会屈指の地獄カード、イラン―アンゴラがあります。この試合で盛り上がれんの? っていう点が興味深いですね。見かけたら、声をかけてください。そして、ドリブルで勝負を挑んできて欲しい。『来るサッカー拒まず』。これが私のもう一つの生き様ですから。  



 ワールドカップに出られるわけなどない。 大会中、彼は執筆に追われることだろう。 今回の挑戦がPARCO出版より、単行本として発売されることが決まった(9月上旬刊行予定)。本人にとって、処女作でもある。結局言いたいことは、その宣伝なのだ。なーんちゃって。