月末報告 特別編 エイジーニョ単独インタビュー | 書き手 吉崎エイジーニョのブログ

月末報告 特別編 エイジーニョ単独インタビュー

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11月1日、W杯会場のライン・エナギースタジアム横で話を聞いた


「俺、海外組になるから。おっさん海外組にね」
周囲にこう告げ、ドイツに渡った吉崎エイジーニョ(31歳、サッカーライター)。

決意の旅立ちから、はや2ヶ月が経った。
W杯スタジアムの隣のピッチをホームとするボルシア・リンデンタール・ホーエンリンド(10部リーグ相当)に入団。その後、残した成績は―――。出場試合ゼロ、ベンチ入りもいまだに果たせていない。


滞在2ヶ月めの10月は、激動とともに過ぎた。
ビザの取得に成功し、待望の選手登録も完了。
一方で、全治3週間のケガを負い、監督の現時点の評価は「ベンチ外」という現実も知った。

徐々に秋の深まる11月のドイツ。
日本サッカー界の新たな「海外組」である彼は、滞在2ヶ月めを終え、何を思うのか。
どの媒体も取材に来ないので、自分で聞いて、自分で答えてみた。


本誌・吉崎(以下吉):2ヶ月めが終わろうとしています。
エイジーニョ(以下エ):長い1ヶ月でした。家の通信状況、ビザ、選手登録などの問題が片付き、いよいよプレーに集中できる環境が整った。

その矢先に、ふらっとボールを蹴りにいった別のクラブの練習で、右足首をケガしてしまったんです。
さすがに、落ち込みましたよ。歩くだけでも痛むんですから。
気丈に振舞おうとは思う。でも、ちょっと気を抜いたときにえもいわれぬ不安な気持ちになるんです。
例えば、路面電車に乗って、買い物に行く途中で。なんて綺麗な公園なんだ・・・と見とれた瞬間に、ケガのことを思い出してしまう。この先、ずっと痛みを抱えていくのか? 私のドイツ行きは、成功するのかと思ってしまう。

そんな時、私はWINKの「BOYS DON'T CRY」を口ずさむようにしています。

「♪シック シック シック せーつないの」っていうやつです。

私は、相田翔子のことが16年間も好きなんです。今、31歳だから、人生の半分を越えている。大切な人です。


吉:負傷時の状況は? その後の具合は?
エ:相手のアフタータックルで削られたんです。左サイドで、ボールを戻し気味にトラップしたところを狙われた。まぁドイツの下部リーグは、「ボールを蹴れないなら、人ごと蹴る」という世界ですから。

練習の度に2~3 人がケガでピッチを離れていく。それでも、翌週にはケロっとピッチに戻ってくるんです。
私の場合は、右足首を狙われて、大きく挫いてしまった。一番痛むのが、甲の内側なのですが、どうも「1等前後賞」みたいな感じで、かかとやすねも少し痛む。なんせ、医者の診断が英語で、どこがどう悪いのか、伝わらないんですから。
ケガをした翌日、歩けなかった。アパートの大家さんに病院に連れて行ってもらったんですが、
この人がじつに積極的に「診断」してくる。「折れてないんだから、歩いたほうがいいぞ」なんて具合にね。
まぁ、彼の言うことを最近は聞いてますよ。
まだ、右足ではちゃんとボールは蹴れないけど、なんとか今週のトレーニングには復帰したいと思う。
何より、このケガの経験をプラスにしないといけない。相手は「アジア人にボールが渡った。取れるぞ」と思って、かかってくるんです。これを逆利用できるようにならないと。


吉:少しだけ、痩せました?
エ:おそらく、サウナが理由の一つでしょう。混浴ですから。本当にすっぽんぽん。女性が入ってくると、しばらく出られなくなる。"動揺"を悟られたくはないからです。
目に見えるところが、動揺してしまうので。出たくても、ずっと出られない状態になるんです。

サウナの中では、こっちは、悲喜こもごもの精神状態になります。相手の姿を見たくてたまらない。でも、じろじろは見られない。だから、いつも軽く言葉を交わすんです。

「今日は暑いね」とか。サウナだから当然、暑いんですが。向こうも、サウナを出るとき軽く挨拶をしてくるんですよ。「じゃあね」って。「キミ、おっぱい丸出しだぞ」って思う。そうこうしているうちに、長居しちゃうんです。


吉:日常生活は、いかがですか?
エ:食事の面ではちょっと苦労していますね。
学生時代から10年以上も食べつづけたコンビニご飯を止めて、自炊をしてるんです。
10年間は長いですよ。作れる食事のバリエーションは非常に少ない。
パンを焼くか、パスタを茹でるかぐらいのものです。肉、野菜なんかを買ってきて調理するのはちょっと難しい。
だいたい、肉が何日くらい腐らずに持つのかも全く知りませんから。怖いんです。
はっきり言って、彼女が欲しい。ええ、率直に認めますとも。彼女がほしい。何度でも言いますよ。
ここにいなくとも、どこかでいまの僕を見守ってほしいと思ってる。今、人生の中でもすごく面白い時間を過ごしているんですから。
その姿を見ていてほしいと思う。彼女がほしい。ちょっと寂しい。ああ、思いっきり言ってみると、すっきりしました。
僕がここに来る行為を通じて一番言いたいことは、それなのかも知れません。
1部でプレーしている人たちでも、既婚と未婚ではプレーに及ぼす影響は大きく違うと思う。
つねに言葉を交わしながら、ああだこうだ言える存在の有無は、大切なものです。
これは、いい取材テーマにもなりますね。


interview

延々と試合に出られない言い訳を続けるエイジーニョ。

後方の影から、自分で撮影を行っていることが分かる


吉:チームメイトとの関係は?
エ:日本への無関心ぶりには、少し驚いています。20代のときに生活した、韓国・ソウルとは大きな違いですね。
"エブリバディー サムライ・スシ・ゲイシャ ビューテホー フジヤマ ハッハッハッハ"
といったノリで、もっと興味を持っているのかと思っていた。「プレーステーション」と話し掛けてきたのがひとりいるだけですね。
柳沢敦(メッシーナ/イタリア)は、イタリアに移籍した当初、ずいぶん北斗の拳のことを聞かれたらしいんですけどね。
とにかく、ここでは「日本」という国のイメージは、コミュニケーションツールにはなりえない。個人として、どういう人間なのかを見ているようです。
私のドイツ語は、まだまだ片言にも満たないレベルです。けれども、コミュニケーションを取らないとはじまらない。
そこで、編み出したのが、「これはドイツ語で何というの?」と聞きまくる作戦です。
これは、一瞬、バカにされますよ。昔、アニメの"一休さん”で、「どちて坊や」というキャラクターがいましたよね。なんでも「どちて(どうして)」と聞く子供です。あれと一緒のイメージなんですよ。
でも、しっかり言葉を覚えていこうという意志を見せることのほうが重要です。格好は気にしていられない。
一度だけ、作戦が成功したことがあります。
練習前にロッカールームに入るとき、みんな挨拶がてら握手を交わすんですが、「ハロー」と声をかけた直後に聞いてみたんです。
「HOW ARE YOU」はドイツ語でなんていうの?
って。どうも、聞くときの顔が必死だったらしく、その場全体に笑いが起こった。
そこから、言葉を交わすようになったチームメイトもいますからね。嬉しかったですよ。


吉:言葉の面では苦しんでいる。
エ:はっきり言って、停滞を感じています。少し話せるかなと思うと、すぐにまた壁にぶつかる。このサイクルが非常に短いわけです。
ちょうど、砂場で山をつくるときのイメージに似ています。小さな山を崩して、土台を広くしていく。そうしないと、大きな山はつくれない。
だから、最初は壁にぶつかるものなのでしょうけどね。
あわせて、生活のパターンに少し疑問を感じています。早朝に起きて、15時の語学学校の時間まで家で仕事をして、夜はトレーニングという生活を送っている。
そうしないと、日本のビジネスアワーに合わせられないのです。朝6時に起きても、もう日本じゃ14時ですから。
ただ、この生活パターンだと、外との接触が意外と少ないまま、一日が終わってしまう。
人と言葉を交わしたのが語学学校だけ、という日も何日かありました。
なんとか、この問題を打開しないといけない。
午前中でインターネットをつなぐ必要のある作業は終えて、ランチは外で食べるようにしないと。
あるいは、日本にいた頃のように、夜型の生活に戻すか。
生活パターンの変更については、近いうちに大きな決断を下すときがくるでしょう。
日本の時間を考えながら過ごすのは意外とストレスが溜まるものです。


吉:今後の目標を。
エ:ワールドカップに出たいと思っています。フットボーラーである以上、やはりこれが夢です。

私だって海外組ですから。もし、ジーコが観に来てくれるんなら、アピールする準備は出来ています。
監督にお願いするんですよ。

「日本からアミーゴが来てる。だから、試合に出して欲しい」
格好よく、ドイツ語で言って見せますから。

「デア フロイント コムト アウス ヤーパン ゾー・・・」
監督に頼む場面のイメージトレーニングは、ばっちり出来ています。


吉:そのためには、まず試合出場を果たさなければ。
エ:今は、とにかく試合に出られない理由を一つ一つ消していくことでしょう。
分かっていることは、私のお腹が出ているということと、ドイツ語が話せないということです。
前者については、少しづつ改善されてきています。後者も、せめてチームメイトに要求が出来るくらいにならないと。
重要なのは、ピッチ上での自分の状況をコーチングしてもらうことです。私はMFですから、ゴールに背を向けてボールを受けたとき、振り向けるのか、後ろに相手の選手がいるのかを教えてもらわなくてはならない。
もう一つ、難しいのは自己主張の方法ですね。ただこれは、こんな小さな媒体に話すことは出来ない。
「Number」の11月第3週号を読んでいただければと思います。買ってください。お願いです。


今、彼は混乱しているのだろう。
ドイツに来た当初の新鮮味がなくなり、かつ負傷のためにプレーが出来ず、精神面のリフレッシュも難しい状況にあるようだ。

全30節のクライスリーガC(10部相当)は、15節を12月中旬までに消化し、約3ケ月の休みに入る。
年内の残りは5試合。負傷とドイツ語のハンディキャップを乗り越え、デビューを果たせるのか。
11月は、重いプレッシャーののしかかる1ヶ月となりそうだ。