スコットランドは、何故もう一度「独立か否か」の投票をしないのか? | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

オペラ「マリア・ストゥアルダ」、METライブビューイング、アンコール

スコットランド女王メアリー・スチュアートと、イングランド女王エリザベスの物語。

シェイクスピアの時代にリアルタイムであった、2人の女王の「対決」の話だし。なんつうても俺、クイーンメアリーのファンだし。気持ちはスコットランド人だし。

てことで、これはもう、観てきましたよ、アンコール上映を、東劇で。

オペラ、すごいなあやっぱし。

って話は別に書くとして、ちょっと「スコットランド独立」の話をします。


「スコットランドは、もういっぺん投票をやれば、賛成多数で独立できるんじゃないの? なんでやらないの?」

ここ、勘違いしそうなとこですけど。

投票すれば独立できる、なんて制度は、ありません。世界中どこの主権国家でも。

 一部の地域が独立したい、と言いだして、勝手に住民投票なんか始めれば、間違いなく軍事力で叩き潰されます。

 世界中に、独立したがっている少数民族は、どこにでも、いくらでもいます。投票だけで独立できるなら、スペインもフランスもドイツも、とっくにバラバラになってます。ウクライナやパレスチナでも戦争は起きてません。

 スコットランドは、特殊事情です。いろんな特別な状況が積み重なって、ああいう投票が実現しちゃったんです。 


 スコットランドは、もともと「国」です。

イングランド、北アイルランド、ウェールズ、スコットランドの四つの「ネーション」が、同一の国王を戴いて連合体を形成している、これが「UK(ユナイテッド キングダム、連合王国)」です。

 こないだの投票は、その連合体から「離脱」するか否か、の選択です。


 事の起こりは、Brexit(ブレグジット)、つまりUKがEU(欧州連合)から「離脱」したことです。

 欧州と国境が無くなって移民が流入してくるのが嫌だ嫌だ、っていう国民が多くなって、国民投票やったら、離脱派が勝ってしまった。

 特に大陸に近いイングランドのほうで移民排斥の声が大きかったんだけど、北のほうのまでは移民なんて来ないから、スコットランドでは残留派が多かった。しかし、やはり圧倒的に人口に差が.0?(0_あるので、UK全土で


 離脱によってUKとUE諸国との間の商売は「貿易」になり、関税がかかるようになります。国際競争力が落ちて、国民は「しまった」って今更気がついた。特に怒ったのがスコットランドの人たち。ロンドンの政府は、何を勝手なことしてくれてんだ。こうなったら、スコットランドはUKから離脱して、EUに入り直そう、って声が高まった。スコットランドには議会もあるし中央銀行もある、国の体裁は整ってる。UKが国民投票でEUから離脱できるんなら、スコットランドだって住民投票でUKから離脱してもいい理屈じゃあないか。このときUKの首相は、ガス抜きというか人気取りのために、スコットランド離脱の投票に同意します。つまり、スコットランドがUKから離れてやってけるはずがない、どうせ大差で残留になるに決まってる、と踏んだんですね。だって、UKから離脱したら、今度はイングランドとの間に国境ができて、自由に往来できなくなって、関税がかかって、商売ができなくなる、EU再加入では到底カバーできる訳がない。んなもん、理性的に考えれば、いいことひとつもないでしょ。まともなスコットランド人の大多数が、そんなバカな選択をするはずがない。ところが、投票が決まってみると、スコットランド分離派がやたらに盛り上がり、なんか本当にスコジットになりそうな勢いになってしまった。キャメロン首相、相当焦ってましたね、当時。結局、ロクヨンくらいで離脱は否決されたんだけど。本当はもっと楽々と残留に決まると思ったから、ロンドンの政府は投票をやらせたんです。現代の主権国家が、領土の一部が勝手に独立したいなんて言ったとて、絶対に許すはずがありません、住民投票なんか好き勝手に許すはずないし、仮に勝手に投票して独立したいって決めても、そんなん通るはずがない。UKは、20世紀にアイルランドが独立する過程で、IRAのテロが頻発し、それこそ血で血を洗うような内戦状態になりました。それが普通、ってもんなんです。スコットランドで同じ轍は踏みたくないでしょ。だから、離脱の是非を問う投票、なんてのが実現したんで。元祖民主主義を標榜するUK としては、こないだ国民投票でBrexitを決めたっていう手前、スコットランドにも投票をやらせないってのは体裁が悪かった。まあどうせ離脱できっこないと髙をくくってたんです。もういっぺん投票するぞ、とスコットランドが言い出しても、もし「今度こそホントに離脱が多数になるかも知れない」となったら、ロンドン政府は何だかんだ理由をつけて、絶対に再投票なんかやらせないでしょう。UK(イギリス、と日本人が呼ぶ国)というのは、連合体です。イングランドはアングロサクソン(ゲルマン系)ですが、スコットランドはアイルランドと同じくケルト系、そもそも違う民族の国なんで。アイルランドが力ずくで独立したんだから、スコットランド人も、というのは自然の流れです。放置すれば、一部の過激派がテロに走るかも知れない。それを防ぐためには、投票させて否決させて、っていうガス抜きをさせるのも一つの手だ、ってことですが。絶対に否決される、って思わなければUK政府が許すはずないし、万が一離脱が可決されたとしても「それじゃあ、どうぞ、別れましょ」とはならないでしょう。何だかんだ理由をつけて。(一部の)スコットランド人が強気なのは「北海油田は、こっちの領分にある」と思っているからです。しかしUK政府は、たとえ何があっても、経済力の生命線である北海油田を手放せません。絶対に。もし万が一、スコットランドが北海油田を抱え込んで「独立」したら、第二のフォークランド紛争が起こるのは必至です。つまり、戦争です。たとえば、チベットやウイグルが「ぼくら独立したいんですけど、住民投票してもいいすか」って言い出したら、北京政府がうんと言ってやらせると思いますか?もしいま沖縄がそれ言い出したら、日本政府はどうしますか?戦争やテロや弾圧や虐殺を経ないで、住民投票だけで国が分離できるなんて、そんなのは極めてレアケースです。てゆうか現実には、まず有り得ません。なお、ついでに申し上げますと。大阪都構想は、べつに「大阪独立」と言ってるわけではありませんから、全然別の話で、比較対照するのが、そもそも変ですけど。もし住民投票で賛成多数になったとしても、国は大阪市を大阪都に昇格させなければならないという法的根拠はありません。「市と府が自主的に合併すると都になれる」なんて制度は、もともとないんです。