乱と変とは、どう違う? 変は一瞬で終わるもの、乱はいつまでも続くもの | えいいちのはなしANNEX

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「壬申の乱は、叛乱を起こしたほうが勝ったのに、なぜ壬申の変と呼ばないのか?」

うーん。

乱は、クーデター失敗、変は、クーデター成功。って、いったい誰が言い始めたのか知りませんが、結構これ、流布してますが。

違うでしょ。

クーデターは、成功しようが失敗しようが、変です。 

英語に訳せば、
「乱」はwar(戦争)、「変」はincident(事件)です。 
war には他に「役(えき)」と呼ばれるものもあります。 
 「役」とは、中央政府によって編成された軍隊が、辺境の反乱軍や、外国人と戦うものです。
天皇から刀を授かった将軍が、軍隊を率いて、粛々と都を出発して辺境に遠征していく、そういう風景を想像してください、そういうのが「役」です。 
天皇(朝廷)の命を受けて、討伐という役目を果たすから、「役」だ、と思えばいいでしょう。官軍がどちらかは最初から決まっています(理屈のうえでは)。 
それに対して、はじまったときは、どっちが官軍でどっちが賊軍だか、分からないようなものは「乱」です。 
 前九年の役、後三年の役、これは、京都から派遣された将軍が辺境反乱軍をやっつけるキャンペーンですから、どっちが官軍かは最初から決まってる。
これに対して、たとえば保元の乱、平治の乱は、はじまったときはどっちも天皇・上皇を奉じている体裁をとってますから、どちらが正義か、官軍かは、終わってみなければ分かりません。
こういう「勝てば官軍」な戦いは、乱です。 
つまり、「乱」は内乱のことだ、と理解しておけば、間違いありません。なしくづしに始まって、一定期間(数ヶ月、数年)続く一連の戦闘行為です。
「壬申の乱」とか「治承寿栄の乱」とか「応仁の乱」とか「天正壬午の乱」とか。だいたい元号か干支かが、つまり「戦闘が行われた年」の名前で呼ばれます。 
始まった時点ではどっちが官軍、どっちが正義とは言い切れないものもあれば、反逆者だと思われていた側が終ってみれば勝っていることもあります。つまり、勝てば官軍、なものが「乱」です。 
これに対して、「変」は事件、つまり犯罪行為です。
対等に戦えば乱だが、いきなり襲って後ろから刺せば変だ、と思えばいいでしょう。 
だから、目上の者が目下の者に害されたという事件に「変」は多く使われます。
織田信長が明智光秀に殺された「本能寺の変」、井伊大老が浪士に襲撃されて殺された「桜田門外の変」、長州藩が天皇を拉致しようとして失敗した「蛤御門の変」など。大抵は事件現場の、ときには首謀者の名前で呼ばれます。 
変の多くは「要人暗殺」ですから、成功しようと失敗しようと、たいてい一日あるいは数時間、へたすると一瞬で終わります。 
ところが、場合によっては、要人暗殺に失敗して、しかも首謀者もその場で討たれず、そのまま長期の戦闘に発展する、という場合もあります。つまり「変」が発展して「乱」になることもある、わけです。 
「クーデターが成功したら変、失敗したら乱」という誤解は、多分このへんから来ているのでしょう。
壬申の乱は、一定期間続いた戦闘行為をまとめて年号で呼んでいるわけですから、これは間違いなく、乱です。
最終的にどっちが勝っても負けても、乱です。
これがもし、大海人側の兵士が奇襲攻撃で大津宮を襲って弘文天皇を殺したならば、その事件は「大津の変」とでも呼ばれるのでしょう。
ただ、それが成功しようと失敗しようと、近江朝側が「おのれ大海人、許すまじ!」といって、長期の戦争に発展すれば、それは乱になります。