「ハムレット」を解く(1) ガートルードとは誰か? | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 さて、いよいよ「ハムレット」の話をします。

 長くなりますのであらかじめお詫びしておきます。


 シェイクスピアの芝居のなかでも、「ハムレット」は別格です。

 それは何故かといえば、再演を繰り返すうちにストーリーがどんどん複雑になり、最初は(以前述べた)「Q1」のような単純な復讐活劇だったのが、しまいには書いたシェイクスピア自身がびっくりするほど高度で緻密な推理劇になってしまったことです。
 そうなんです、推理劇なんですよ、ハムレットは。しかも劇中に解答が書いてない。「どちらかが彼女を殺した」並のハイレベルな推理劇です。

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 以下は、大昔に読んだ田中重弘という人の著作「ハムレットの謎」「シェイクスピアは推理作家」におおいに影響を受けています。このヒトは、当時もその後もシェイクスピア学会(?)では全く見向きもされない異端の研究者、というか専門の学者でもない人ですが。私は、ハムレットの謎を解くのは、この筋しかないと、いまだに思っています。
 
 まず、大前提をいきなり言っちゃいます。「ガートルードこそ王位継承者であり、彼女と結婚したものが王になれる」というのが、ハムレットのストーリーすべてを解くカギです。ここに気がつかないと後のすべてが頓珍漢になるんです。
 「どうして?」「何を根拠に?」という話をすると、とても難しくなるので省略。要するに、そう考えればすべての謎が分かる、ということだけで充分です。
 ガートルードが「デンマーク王家最後の生き残り」であり、唯一の王位継承権者である、という設定は、シェイクスピア当時の観客にとって決して突飛でもなく、普通に諒解できたはずです。なにしろ、ほかならぬエリザベス女王がそうだったのですから。エリザベス女王が結局結婚せずに死んでしまったおかげで、北の隣国から乗り込んできた者に王位をさらわれることになった、というのも「ハムレット」の結末と同じです。


 とはいえ、ガートルードが好き勝手な相手と恋愛して結婚できる、というわけではなさそうです。そうであれば最初からクローディアスが王になってりゃいいだけの話で。そうではなく、デンマーク王になる資格のある者はやはりあらかじめ決まっており、それが半ば義務的にガートルードを娶って王位に着く、というルールなのだ、ということです。
 近代個人主義的な観点から見ると、クローディアスは「王になり、その権力で、兄の妻を奪った」という言い方になります。それも主観的には大間違いではないのかも知れません。が、順序が逆なのですです。近代以降の結婚制度・王位継承制度の常識から抜けないと、「ハムレット」は分かりません。明日に続く。