来年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟」では、小栗旬が織田信長です。
おお、十年前のドラマ「信長協奏曲」以来、ですな。
となると、豊臣兄弟の信長も、あんな風な明るく楽しい信長になるのか?
多分、なりません。
「鎌倉殿の十三人」の北条義時が、序盤の好青年が終盤には真っ黒な政治家に変化したように、小栗旬はここ十年でとんでもなく成長していますから。
「信長協奏曲」は、そもそも原作が「少女漫画」です。いや、レディースコミック、かな。
この漫画の作者が、現代の高校生がタイムスリップして、ホンモノの信長と出会い、入れ替わったり、時々戻ったり、協力して天下統一していくという「さわやかBL?歴史劇」です。
この初期設定を成立させるために、筆者が歴史を「曲げた」ポイントはいくつかあります。
まず、信長と明智光秀が、同じ年恰好だということとが最大のポイント。
このへんは、20~30年前には普通に「そうだ」と思われていたところなんですが。
最近の研究はどんどん進んでいるのは御存知の通り、少なくとも明智光秀は信長より6歳ほど上です。ときどき入れ替わるには無理があります。
もうひとつが「濃姫(帰蝶)が信長の愛妻である」ということです。漫画とドラマではかなり印象が違うのですが、何にせよ最終的には信長と濃姫は最後までラブラブです。
しかし史実では、濃姫は美濃征服のころ以降、記録に一切出てきません。一説には早死にしたとも離縁
されたとも言われますが。
だから「麒麟がくる」で川口春奈の帰蝶は、ずっと別居状態ということで、後半めっきり出番が減ったのは、むしろ史実に近い、と言えます。
「信長協奏曲」の原作者は、おそらく司馬遼太郎先生の「国盗り物語」の歴史知識から進歩していない地点で書いてるな、と思わせるものがあります。
もっと大きな嘘としては、ホンモノの信長が「私は幼い頃から身体が弱くて、家督を継いでやっていく自信がない、だから代わってくれないか」ってところでしょうね。
信長の「ガキ大将」的なエピソードは、いろいろ伝わっています。配下の子供を二手に分けて石合戦をやるのが大好きだったとか、池のヌシが見たいといって皆で潜って探したのに見つからなかったんで怒って池の水を全部抜かせたとか。
もちろん、吉法師うつけ伝説は、のちの信長の活躍というか暴れん坊ぶりから逆算して脚色された部分があるかも知れませんが。それにしても「幼い事から体が弱かった」という話は、実際には全くありません。
「信長協奏曲」はフィクションです、って、現代の高校生がタイムスリップする時点でもう大嘘、ホラ話に決まってるんですけど。それにしても「信長と(現代の高校生)三郎が入れ替わる理由」ってのが何かないと話が始まらないので、「実は信長は気弱で、今の自分の境遇から逃げたがっていた」という設定を、わざわざ創作したわけですよね。
なんだかやけに現代的な、高校生のモラトリアム願望みたいな話ですけど。
そうなんすよ。信長協奏曲に出てくる人物たちは、おしなべてみんな「現代の若者のような」思考形態をしてます。大人たちも、現代のサラリーマン的な思考です。
三郎君の組織運営はみんな楽しくのイベントサークルみたいな感覚です。
現実にあんな楽しい企業だったら、反逆者が次々にでてくるはずがないんで。歴史上実在の信長軍団は、過酷なブラック企業であり、家臣たちは常に強烈なストレスに晒されていた、というのは確かなはずです。
いちばん大きくて本質的は「漫画の嘘」は、ここにあります。
楽しい仲良しサークル漫画である信長協奏曲としては、ブラック経営者の信長を描きたくない。主人公はホワイトに描きたい。しかし物語の要請として、本能寺の変に到るように、織田軍団を崩壊させなければならない。
そこで、秀吉が「織田家に深い恨みを抱く、忍者の出身である」という、バクダン設定を仕込んであるわけです。漫画が歴史といちばん違うのは、ココです。
つまり、「信長はブラックだった」という史実を曲げても物語を成立させるためには、「秀吉がブラックである」という架空の設定を入れる必要があったんです。
「信長協奏曲」には、ドラマでは省略されていたものの、原作漫画版には小一郎(秀長)も登場します。常に薄笑いしている、秀吉よりヤバそうな男です。やはり忍者らしいが、どうやらホンモノの兄弟ではなく、後から強引に割り込んできて、秀吉に協力する、というか悪事を唆す、あるいは監視している、不気味な存在です。
この「偽兄弟」が、織田家におけるサークルクラッシャーの役割になるわけです。
「豊臣兄弟」では、まさか主人公兄弟がこんな役回りになるはずがないんで。
となれば、信長も「同じ小栗旬が演じているとは、到底思えない」ものになることが予想できます。
染谷将太、岡田准一と、かなり「とんでもない」信長が続いたところで、さて小栗旬はどう出るか?なんか、物凄く期待しているところではあります。
それはそうと、蜷川幸雄も良かった!「もしも世界が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」
天海も、凄かった。