可算不可算と単複同形の区別2:fishについて | 『英語職人』時吉秀弥の英文法 最終回答!

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本当にわかる英語とは?!英語、英文法、その他の外国語の学習、言語学などについていろいろ語ります。

前回からの続きです。

 

●fishという単語のお話

 さて、拙著「英文法の鬼100則」(明日香出版社)の第63項に、可算不可算の例として、fishを例に出しています。拙著の中ではあくまで可算不可算の捉え方の理解のために、fishという単語を出しました。今回のブログでは、fishという単語自体に焦点を当て、その誤解しやすい特殊な性質に特化して、説明をしていきます。

 

fishという単語は、

 

①語の形としては、「単複同形」である。

②捉え方として、「可算名詞」の場合と「不可算名詞」の場合では「魚」の見え方が違ってくる。

 

という単語です。

 

 ①に関して、前回挙げた堀田先生のブログによると、fishは古英語では男性強変化名詞という名詞群に分類され、主格と対格における単数形はfisc、複数形はfiscasです。それが中英語初期から複数形の語尾がなくなった形がだんだん出始め、後に複数語尾のない形が、つまり、単複同形が優勢にりました。つまり、deerやsheepとは違い、もとから単複同形だったのではなく、中英語時代から徐々に複数形語尾がなくなっていったようです。

 

 ②に関して、fishは「不可算名詞」だ、と誤解している学習者もいらっしゃいますが、正確には、見方によって「可算名詞」にもなり、「不可算名詞」ににもなるのがfishです。単数形でも複数形でも形がfishのため、fishは不可算名詞オンリーだと誤解をしている方が多いわけです。ここがややこしいところです。

 

 辞書を見ますと、可算名詞としてのfishの意味は「肉体の形が丸ごと揃った、魚」を意味します。特殊な文脈がない限り、生きた、もしくは死体であっても生きている時と同じ形の魚一匹(あるいは数匹)を想像させます。一方で、不可算名詞としてのfishの意味は「魚肉」という「食べ物としての魚」です。これは前回挙げた、chickenの例と全く同じです。

 

●立ててみた仮説。当たる?はずれる?

 ここで私はある仮説を立ててみました。「魚」に対する英語話者の見方が、複数形の語尾の消滅に影響を与えているのではないか、という仮説です。つまり複数形語尾の消滅には、魚を不可算名詞として捉える心理が影響を与えているのではないだろうか、といことです。例えば釣りに行って、「今日は魚を三匹釣った。」というなら、圧倒的に可算名詞として見られる魚も、「漁業」レベルで見たときは、不可算名詞の見方ができます。例えば年間漁獲量を表すのに「〜匹」とは言えないはずで「〜トン」となります。これはコメを買うときに「〜粒」とは言わずに「〜キロ」で捉えるのと同じです。つまり、そこには魚の一匹ごとの形は視界から消え、網に入った魚の塊しか見えてこないわけです。こうなると、「数」ではなく「量」であり、液体と同じような捉えられ方をするのが自然ではないでしょうか。

 一方で「牧場には羊が120トン飼育されている」とか「年間で30トンの鹿が病死した」とは言うのは不自然です。「何頭」としか言えないなら、そこには「肉体の形・輪郭」で羊や鹿を捉えるのが自然で、これは可算名詞としての捉え方です。

 以上が私の立てた仮説です。では実際にはどうなのか?そこでコーパスを使って調べてみました。fishの形が変わらなくとも、fishが可算名詞として捉えられているなら how many fish 〜?となり、不可算名詞として捉えられているなら how much fish 〜?となるはずです。Corpus of Contemporary American English(COCA)という米語中心のコーパスで調べてみると、how many fish でヒットした件数は64件、how much fishでヒットした件数は14件でした。British National Corpus(BNC)というイギリス語中心のコーパスで調べてみると、how many fishのヒット件数は3件、how much fishは1件でした(BNCはCOCAに比べて母数がかなり少ないのでそれに応じてヒット件数も少なくなります。同じ単語でもヒット件数はだいたい1桁違います。)。比率で考えるとmany、つまり、可算名詞として捉えられている魚の方が多いわけです。そして、ざっくりと分析すると、以下の3つのパターンが出てきました。

 

①数匹、のレベルなら可算名詞として捉える

→コーパスをみてもhow many fishで出てくる文は「何匹魚を捕まえた?」というような「手釣り」の文脈が目立ちます。

 

②魚肉なら不可算名詞として捉える

→コーパスを見ると、how much fishで出てくる文のほとんどは「どれだけ魚を食べるか、消費するか」という文脈です。

 

③漁獲量など、ある程度大量になると、how manyとhow muchの使用に揺れがある。

→コーパスを見ると、漁獲量や養殖する魚の量を表すのに、how many fishがやや優勢です。しかし、how muchの使用例もそれなりにあります。

 

③に関しては、なかなか難しいところです。「大量の魚」に関して、how muchが優勢であるという私の予想は外れたと言って良いでしょう。実際にはまだまだ可算名詞としてのfishの捉え方が強い中で、それでも「可算不可算の両者の間で揺れている」という感じに見えます。すると、「fishの不可算名詞的な捉え方が複数形語尾の消滅に影響を与えている」とは簡単には言えないということになります。

 

 さらに「魚というものは」という総称用法

 

 

でコーパスを調べても、やはり、fish areと複数形のbe動詞が使われることが多く、つまり、fishが可算名詞で捉えられる傾向が強いようです。

 

 

 まとめますと、fishという単語は、(魚肉としての意味ではなく)生物として機能する完全な肉体を持った魚として捉える場合には、可算名詞として捉える傾向が優勢で、それは大量の魚の場合でもまた同じであるようです。しかし、大量の魚を不可算名詞として捉える傾向もないわけではなく、両者の間に揺れがある、というのがコーパスから見えてくる実像といったところです。