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●自動詞と受動態の共通点とは?
自動詞というのは自分が出した力が自分に返ってくる、逆に言えば他者に力をぶつけない動きです。例えば「歩く」という動きは自分が自分で歩いているだけです。
「いや、力が地面にぶつかっているじゃないか」と思う方も出てくると思います(実際そういう質問を生徒から投げかけられます。)が、地面を踏んづけているということを言葉に表すならstamp(踏みつける)という動詞が使われます。
例:He stamped the floor.「彼は床を踏みつけた。」
つまり、歩く(walk)という動詞を口から発している時には、人は、「床を踏みつけている」ということは意識していないわけです。別の言い方をすれば「踏みつけている」ということは表現しようとしていないわけです。歩く、ということを表そうとしているわけです。物理的に踏みつけていても、それは関係ありません。言葉は人間がその状況をどう見ているか、が表現されるものですから。
よく考えてみると、受動態というのはこの自動詞によく似ています。主語に力がぶつけられているわけですから、これは「主語から出た力が主語に戻ってくる」という自動詞と似てくるわけです。図にするとこんな感じです。矢印は動詞の力がどこにぶつかっているかを表しています。
日本語はヨーロッパ言語に比べると、自動詞表現が多い言葉だと言われます。例えば、
He was surprised.(直訳:彼は(原因によって)驚かされた。)
という風に英語で受動態になるところを、日本語では
「彼は驚いた。」
という風に、さもさも「自分が自分で勝手に驚いている」かのように表現します。同じような現象はbe excited(驚かされる)→「驚く」、be bored(退屈させられる)→「退屈する」、そのほかにもplease、satisfy、interestなど、いわゆる「感情を表す」言葉(と文法書によく書かれる言葉)によく起きます。英語の受動態のフレーズの一部がこのように日本語で自動詞表現になるのは実は偶然ではないのかもしれません。
●自動詞と受動態の違いは?
それでは、自動詞表現と受動態表現の違いはなんでしょうか。根底に共通のイメージを持ちつつ、ヨーロッパ語での受動態表現と日本語の自動詞表現は明らかに違います。それは、我々が日本語で「僕はさ、その知らせを聞いて興奮させられたんだ」と言うのが不自然なことでも分かります。
東京大学の名誉教授で、日本では認知言語学の巨頭のひとりでいらっしゃる池上嘉彦先生はこの日本語の性格を「なる」の世界と呼んでいます。つまり、なにが原因かはさておき、目の前で何かの現象がふわっと起きてしまう感じの世界です。目の前で桜が咲いたり、木の実がなったり(これこそ「なる」の世界です)することを見る時のように、「何が原因で花が咲くのか、木の実がなるのか」を意識せず、ただ現象が自然に起きていることを感じ取る世界です。
ところが、英語を含むヨーロッパ言語では「原因は何か」が常に問題になります。なぜ驚いたのか、なぜ興味をもつのか、原因がなければその動作はムリだろう、と考える言語なのです。たしかに、原因もないのに驚いたり、興奮したりはできませんよね。池上先生はこの世界を「する」の世界と呼んでいます。つねに原因が何かを「する」ことで出来事が起きていると捉える世界です。受動態というのは自動詞表現と違って、常に「誰か/何か」(原因)によって何かがなされている、という「原因」を意識した表現ということなのです。だからヨーロッパ言語は「原因」を意識する言語と言えるのです。
●日本語話者が感じる、受動態への違和感
英語を学習していて日本人が違和感を感じるのは、英語における受動態の多さです。違和感を感じる理由は分かりますよね。日本人は「原因」を意識しないのです、もしくは意識したがらないのです。池上先生の本(「英語の感覚・日本語の感覚」NHKブックス)から例をひくと、結婚に先立つ挨拶で「私達結婚することになりました。」という日本語は、割合から言うと、「私達結婚します。」よりも遥かに多用されます。前者が「なる」で、後者が「する」の世界です。「結婚します」では、そこに本人達の「結婚する」という意識が「結婚の原因」として見え隠れします。「俺さ、彼女と結婚する。」という意思表明の表現は、なにか「改まった、重大な報告」っぽく聞こえます。それよりは、「結婚することになったんだ」と「自然の流れでそうなった」ような表現の方が日本人好みですよね。
ちなみに東京大学の尾上圭介教授によると、平安期以前の古代日本語ではモノを主語にした受け身の文は基本的に存在しなかったそうです。現在でも原因を主語とした日本語は標準的ではありません。受験の和訳でも「雪が我々の外出を妨げた」という表現は減点の対象になると言われ、「雪のせいで我々は外出できなかった」というふうに「人」を主語にするようにと指導されます。
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