固まって動かない僕をよそに、レイコは繰り返す。



「ユウジのお母さんは子どもに干渉しないっていう限度を超えてない?だからそうかなぁって。」



前に本で読んだだけでそんなに詳しくないけど、と付け加える。



やがて黙ったままの僕に気づいたのか、沈黙がうまれた。



「母親のことは、どうでもいいんだよ。」



口をつぐんだレイコに向けて、これまでたまっていた感情が無意識的に出てきた。



「そうだよね・・・適当なこと言ってごめんね。」



慌てた声を聞いて、もう行こうか、話を聞いてくれてありがとう、と腰をあげた。



「うん。あと、お姉さんがいたから、今のユウジがいるんだと思うよ。」



ほとんど気遣いをせずに立ち去ろうとする僕に、背中からかけられたその言葉は、ずっと昔から僕が1番感じているものだった。



何をいまさら・・・声には出さずにつぶやく。



ひとりになり、数分前に感じていた爽快感は思い出せず、行き場のない後悔のような気持ちに包まれていた。






日曜日、すがすがしい気候に誘われて、アパートを出た。



今日は何も予定がない。



街に出るのは億劫で、誰かを誘うのも億劫で、とりあえず近所をブラブラすることにした。



数分で、いくつもの大学の校舎が目の前に現れた。



日曜日に学内に入ったことは指折り数える程度で、たまにはいいかと足を向けた。



さっきから、掛け声や、笑い声が響いている。



ネットの向こう側で、スポーツをする学生。



遊びに来ている親子連れ。



小さな折りたたみ椅子に座って、水彩画を描いているお年寄り。



そんな人々にシャッターを向ける学生。



写真部だろうか、プロっぽい大ぶりのカメラが輝いて見える。



時間がゆったりと流れているようなこの光景が、解けない答えを解かすようで、ずっと続けばいいのにと思った。