相手のミスを期待すると甘えが出る | 外資系 戦略コンサルタントの着眼点

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戦略コンサルでマネージャーを務める筆者が日々の出来事を独自の視座で書き綴る


棋士で十九世名人の羽生善治氏は、将棋を指す際には相手が基本的にミスをしないという前提で将棋を組み立てるといいます。

将棋というのは駒を動かしても局面がプラスになることはほとんどなく、間違った手を指すと大きくマイナスとなるゲームです。

また相手が常に正しい手を指すとそのミスを挽回することができないため、多くの場合、相手のミスを誘いつつ、相手よりも少ない悪手で終盤を目指すゲームだとも言えます。

歴代の通算タイトル獲得数が1位で、十五世名人でもある故大山康晴氏は、相手のミスを前提に指したと言われていますが、羽生氏はそうした将棋とは一線を画しているわけです。


昨日は戦略とは何ぞやということに簡単に触れましたが、企業戦略の立案こそ、こうした競合のミスを前提として作ってはいけないものではないでしょうか。
(昨日の記事はこちら 。)

というのは、企業戦略の場合、将棋のように相手の悪手を前提として勝ちを目指すゲームではなく、社内リソースの最大活用と相対的なポジショニングで勝つことを考える競争だからです。

このため、企業戦略の立案を考えると羽生氏の考え方に更に共感がわきます。

しかしながら戦略の立案においても、勝ち筋が見えてこない苦しい状況の中におかれると、どうしても競合のミスに頼りたい衝動に駆られることがあります。

例えば、競合は市場構造を捉え間違えて、スマイルカーブの谷に参入するのではないか?とか、こっちは極限までリサーチもしたし考えた。競合はそこまでやっていないはずだから、この新たな消費者の動きに気づいていないはず。というような一縷の望みが浮かんできます。

追い詰められてくると誰しも同じように誘惑されるようで、過去のチームメンバーからも同じようなコメントが出たこともありました。

そうしたときには喝ー!!!と叫んで、冷静さを取り戻し、羽生氏の相手は基本的にミスをしない前提で戦うという姿勢を思い出すようにしています。
(みんながびっくりするので、実際には叫ばないですが。)


相手のミスを期待して戦うと、相手がミスをしなかった場合の損害が甚大となりますし、結局、相手のミスに対する期待に甘えが生じますので、最後まで突き詰めた戦略の検討がおろそかになる可能性があります。

競合の持つ競争優位と自社(クライアント)の持つ競争優位を客観的に捉えた上で、相手がベストの戦い方をしても自社が勝てる戦略を立てられてこそ、コンサルとして本当にやりきったと言えるのではないでしょうか。

だとすれば、以前にも書いたように、競争環境を踏まえビジネスモデルまで昇華された状態を達成しない限りは、戦略コンサルタントとしてやりきったとは言えないのではないかと思います。
(以前書いた記事はこちら 。)