今日はもう十二月五日。お祭り好きの娘のために、クリスマスのリースくらいは出しておこう。

 玄関にはいつものクリスマスの絵本を飾ろう。

 そして昼寝をしよう。12時すぎまで英語のリーディングの訳が正しいかどうかと付き合わされたから。

 

 雪の便りも聞かれる頃になった。

 今回は中学生の女の子向きのファンタジーをお届けするので そのおつもりで読んでくださる方はどうぞ。

 

          

 

 里は、静かなニューイヤース・イブでした。家々には、赤々と曖炉の火が燃え、人々は新しい年を迎える用意から解放されて、ワインをすすりながら、おいしい夕食を家族で楽しんでいました、そして窓の外は、静かに雪が降り積もっていました。

 代官デュポン侯のお屋では、 ニユーイヤース・イプの賑やかなパーティの用意も整い、次々に訪れるお客様の名を呼びあげる召使いの声が響いていました。 この賑いは、教会の鐘が十二打つまで続き、そして、人々はそれぞれの馬車に乗って家路につくのです。

 それに、今年のパーティには、もう一つ華やかなおまけがついていました。それは、デュポン侯のひとり娘マーゴの婿選びが行われるという噂が、集まる若い紳士たちを興奮させていることでした。

 夕方から、うばのグレーテルに飾りたてられたマーゴは、きれいにときつけられた金髪を、淡い桃色のドレスからのぞいた、白い衿元にたらし、髪には黒ぃビロードのリボンをく結び、細っそりとしなやかな腰にも、黒いビロードのサッシュを結んでいました。深い海のように青い瞳と、バラ色の頬は、 マーゴをきわだてて美しくみせていました。グレーテルは、奥方様が亡くなってから十五年もマーゴを育ててきましたから、何といっても今夜のお嬢様の美しさは、彼女の自慢の種で、マーゴがほめられるたびに、彼女のそばかすだらけの鼻は、ピクピクと動くの

でした。

      ネットから

 マーゴは、もう何人の方とご接拶をしたでしよう。彼女は、少しバラ色の頬も青ざめてしまうほど、疲れてしまっていました。暖かく燃える暖炉の炎、ジュージユー焼ける肉香、笑い声、それらから逃れることができたらいのだけれど……。でも、 マーゴは、おとう様をがっかりさせたくはありませんでしたし、人のいいグレーテルを悲しませたくあ

りませんでした。無作法なことをすれば、「やつばり、おかあ様のお血筋ですのね。貴婦人のおしつけができていないのですから。」と、あの、いつものうるさ方のフォートレス侯夫人がささやかれるにきまっていました。だから、 マーゴは、一生懸命ニコニコと皆様のお相手をしていたのです。

 おとう様やグレーテルは大はりきりですが、十七歳のマーゴは、まだお婿さんをほしいとも思いませんでした。それに、彼女のお婿さん候補のひとり、ベイシイー公爵の二番目の息子にあたられる、ベイシイー男爵ときたら、「あなたは、まるでバラの花のように香ぐわしい」などと、歌の文句のようなことばばかり並べて、マーゴは、背中がこそばゆくなりましたし、もうひとりの候補、西隣の領地の代官、ファーラー卿のご子息は「ご自分の領内の地主の娘たちに、たくさん恋人がおありだとか……」と、グレーテルに耳うちされましたが、 つんとすましたいやなお方、 マーゴはちっとも好きではありませんでした。ベネディクト卿のご子息に、 エイルロック卿のご子息、ああ、もう息がつまりそう……何度めかのため息を、扇の陰で、マーゴはそっとおしかくします。すると、どこかの奥方様が「お品定めも大変でございますね。お嬢様」と、意味ありげにことばをかけてとおりすぎていかれるのです。

 とうとう、 マーゴは、広間をぬけ出すことにしました。ほんの少しなら、皆様方のお気を悪くすることもないでしょう。

 ポーチに立つと、さすがに寒さが吹きつけるようでした。雪が音もなく降りしさり、村里のあちこちに、ほのかに灯の影が揺れていました。そして、西側をさえぎる、深い森へ続く道は、人々が馬車の鈴を鳴らして到着した時の轍の跡も消えて、 一面の白い雪におおわれていました。その道は、 マーゴの大好きな道でした。幼い頃は、グレーテルと木いちご

を摘みに行きました。遠のりができるようになると、おとう様やグレーテルには叱られるけれど、隣領の見える丘まで、深い林を越えて走ることもありました。そして時には、木に馬をつなぎ、野ウサギの茶色いふわふわしたからだを二つの手ですくいとることもありました。すばしこい狩人の若者が、狐を追う姿をみかけることもありました。その若者

は、決して小鳥や兎や、かわいい鹿を獲物にしていることはないようでした。彼の獲物はいつも、狐や狼のように、村里をあらす物だけでした。美しい鳥の羽を、マーゴの帽子に飾ってくれた若者は、彼女をお館の姫と知ると、二度と彼女の前に姿を現わしはしませんでしたが……。

 この深いウイクンャーの森は、四季折々にちがった姿をマーゴにみせてくれました。今、できることなら、彼女は、あの森へ逃げていって、若者のように、森を駆けたいと思いました。人々には恐れられる深い森も、幼い時から親しんだマーゴには、大好きな場所だったのです。

  マーゴが、懐しい森の夢にひたっていると、森の人口に二つ、キラリと光る物をみつけました。二つの光はだんだんと近づき、全部の姿が見えました。それは、立派な角をつけた鹿でした。鹿は、 つややかな褐色に白い斑点を置いた毛皮に覆われ、すっくと伸びた足で、館の方を向いて、森の出口から歩いてきたのです。そして森と館を結ぶ道の中程に歩みをとめ、二つの黒い瞳をキラキラと光らせながら、 マーゴを見上げているのです。それは吸いこまれていきそうな、奥深い輝きをもつ瞳の色でした。

 その時です。「マーガレツトお嬢様!」と呼ぶ召使いの声が、部屋の中から響いて、 マーゴはふと現実に還りました。そして、冷えた肩をかかえこむようにして、また、部屋の中にもどっていつたのでした