お風呂は無事なおりました。

 宇宙人こと弟君は単位制の学校の学生です。あしたから筑波でスクーリングが三日間、今日は前泊で父親と出かけました。日帰りできるところなら自分で調べて横浜とか東京の聞いたことない町まで行きますが、一人でホテルに泊まったことないので最初だけは父親がついていきました。帰りは一人で帰ってくるようです。

 そもそも人との付き合いが苦手ですから「いやだなあ」と言いながら大きなカバンもって出かけました。行きは父親の車ですから楽ですが。

          

 背ばかり高くてもいたって子供です。でもさいたま市で聞いたことのないエージェントかなんかでモデルやらないかって名刺もらってきました。宇宙人さんびっくりして帰ってきました。

 

          

 

 

 セーターとズボンをタンスにしまって、ミツ子は、 こたつで本を読んでいるうちにトロトロと一眠りしてしまいました。

 肩の上に、ふんわりと毛布がかけられているのに気づいて目をさますと、 おばあが笑っていました。仏壇が聞かれ、お線香の香りがしていました。

 いつの間にか、おとうも、おかあも帰って来たらしく、庭先の藁をふむおとうの足音もお勝手でカタコトやるおかあのほうちょぅの音も聞こえていました。     .

「あんまりよく寝ていたから、おこさなかったんせ。だけど、うたたねすると風邪ひくど」

おばあは、 ニコニコしていいました。こたつの上には、 えりのふちにヒラヒラのかざりのついたプラウスがありました。町へ行った、おとうとおかあのおみやげだとすぐわかりました。

「わあうれしい。」

さつそく、 セロハンの袋をやぶって着てみると、少し大きいけど、とてもすてきでした。おかあは、 いつだって大きいのを買ってくるんですけれど、秋になれば、ちょっぴりの大き

さになってしまうんです。

「おばあ、おふろわかしといたんよ。」

「そうらしいなあ、 いいあんばいにわいてたよ。 ごはんのしたくできるまでに、おばあと入るかね。 ミツ子も、すっかり用ができるようになつた、 たいしたもんだ。」

 ミツ子は、得意です。おばあといつしょにおふろに入ると、洗つてもらいながら昼間のことを話し始めました。他人に親切にしてやったことを話して、おばあにほめてもらおうと思ったからでした。

 でも、ミツ子が女の子のかつこうを説明しはじめると、おばあの顔色は、まっ青になり、ミツ子はびつくりして、おばあが急に病気になってしまったのかと思ったはどでした。あわてて、 ミツ子が話しをやめょうとすると、おばあは先を話すようにうながしました。

 ミツ子は、おばあの背中を流しながら、女の子が、 いなくなるまでのことをきちんと話しました。

 そして、熱い湯をおばあの背中に注いで、二人で湯舟につかった時、おばあが泣いていたことを知りました。

 おばあは、静かに話し始めました¨            ′

「雪がとけてしまうと、この辺は急に忙しくなる。お前のおとうが生まれたばかりの赤ん坊で、赤ん坊をかかえたおばあは畑仕事と赤子の世話で忙しかった。四つの子の世話は誰もしてやらなかった、冬の間、ずっと家の中にとじこめられていたチヨにとって、暖かくなって外で遊べることは、 どんなにうれしかったか。

 あの日はちょぅどきょぅと同じ四月二十日だった。今日と同じように暖かい日だったのではんてんをぬがせて新しい赤い花模様のメリンスのあわせを着せてやった。赤いおびをしめてな。

 あれは三時ごろだったろうか、隣の山田のおっかあが青い顔してはあはあしておらだちのどこさかけてきたのは。チョちやが、わか川へ落ちて虫の息だと知らせを聞いて、おら、気狂いのょぅになっで家へとんで帰った。筋向かいの村井のとっ様が気づいてひきあげてつれてきてくれたども、もうずいぶんと雪どけの冷たぃ水飲んでいて、役場の車で町から医者様呼んで来てくれた時にはすつかり手遅れだった。おらやじさまがいくら呼んでも、もう眼をひらかなかった。」

 ミツ子はだまって聞きました。涙が後から後から出てきました。ミツ子の会ったのは、まちがいなく、もう四十年も前に死んだチョちゃんだとわかったけれど、ちっともこわくないのです。―そうだ、あのときどこかであったと思ったのは、三つのお祝いの時のチョちゃんの茶色くなった写真だった。そうだ、おばあが大切にしまってあるナフタリンのにおいのプンプンする赤い花模様の着物を見せてくれた。あの着物も見たことがあった。―それでも、ミツ子はなぜかおつかないとは思えないのです。

 二人がお風呂からあがると、もうすつかり暗くなった縁先で、おとうの声がしました。

「見てみろや、今どき狐火なんておかしいや。誰かの魂がさびしがって帰って来てるんだべぇ。」

 縁先から見える狐火は山のふもとで、ゆらゆらとゆれていました。 いつのまにか、おかあも、前かけで手をふきながらでてきて、四人はじっとその山のふもとの青白い光を見ていました。

 ふと気がついておばあは自分のタンスの一番下のひきだしをあけてみました。そこには、あのチヨの赤いメリンスの花模様のあわせがしまってあったのです。

 そのメリンスのあわせを出しておばあは「あっ」と叫びました。

 その赤い花模様はびっしょりと水にぬれていたからです.

 

 皆さん、あなたがたも山のふもとに揺れる青白い狐火を見ることがあるでしょぅ。その時はきっと、誰かの魂があなたに会いに来ているのです。

         (完)

 

 

 このお話は100年先の「地球 わが故郷」にほんの一言でつながっています。お気づきの方はあったでしょうか?