3月10日、東京大空襲の日が間もなくやってくる。
折を見て何度も伝えた戦時中の記憶。幼かった夫と私の目に残っているわずかな記憶。それを私たちはことあるごとに孫たちに伝えた。
昨年お兄ちゃんはそのことを「すいとんを知っていますか」という英語の弁論でしっかり取り上げ平和への思いを述べてくれていた。そしてそれを聞いた審査員の方にも確かに受け止められ最優秀賞をいただいた。ほんのわずかな人にでも伝わったという事はうれしかった。
もう何年もこの詩を読んでいただいているけれど、今年も載せたいと思う。
箱舟
季節風は
吹き暴れてもいつかはきっと止む
だが 爆撃は
いつ終わるのかわかりはしなかった
いのちの瀬戸際に立つことに疲れ果て
少しでも安らかな眠りを求めて
人々は箱舟を
あえぎあえぎ走る黒い車体の箱舟を
上野の駅頭でじっと待ち続けた
芋の混じったぼろぼろの握り飯を出して
一口かじると
何本ものよごれた手が差し出された
「チョウダイ」「チョウダイ」
からだの中に満ちていた食欲が
針で穴をあけた風船のようにしぼみ
握り飯をつかんだ掌をさしだていた
幾本ものよごれた手がそれをとり合い
その一瞬の喧騒が過ぎると
不思議に世界は動かなくなり
人々はまたじっと箱舟を待った
母の膝に縋った幼い日の脳裏に焼きついた
枯れ野のような灰色の街は
神の審判を待ち受ける恐怖に
サイレンの悲鳴を上げるのをやめた
束の間の静寂だった
夫は空襲の翌日、親戚の安否を訪ねて隅田川に浮かぶ死体を見たこと。学童疎開の空腹に耐えた日々などを話して聞かせていた。
ウクライナでは庶民が必死で戦火を逃れようとしている。
日本にいるロシアの若者はこう書いている。
どこの党がただしいとか、どこがよくないとかではなく、声が届
かないことがどれほど怖いことにつながるか、ロシアの今の現状
を見て考えてほしいです。
またある人はいう。
敵はプーチンであり、ロシア自体ではない。
独裁者とその周辺に率いられる国の危うさは私にもわかる。
発信された正しい情報がロシアの人々にも伝わることを祈るしかない。
日本は平和。
私は変わらずお弁当を作り肩をたたいて孫を送り出す。



