朝は霧が立ち込めていました。

 

            

     

                    霧の朝

 

 冷えたくず湯いろの霧がたちこめる朝は 街の熱気に背を向けて雑木林の切れ目に 小さな道を見つけたりする

 風は 早潮のように拒めぬ誘いとなって わたしにひたひたと押し寄せ わたしは無機物になって 空気に漂うことのできる昔にかえってゆく

 

   立木の中に見え隠れする薄紅の花は

   遠い昔に終わりをつげた恋のような

   からっぽの美しい言葉遊び

   やわやわと地上からたちのぼる無数の水滴

   この優しさは愛?

   だが木々は霧としかもつれ合えない

   木々は決して 木々と語り合わない

   ぬれた笹の葉の冷たい光は

   へその緒切る鋏のきらめき

   その瞬間からすでにある孤独

   そして もっとも確かに

   あのしめった枯葉の下の地中にあるのは

   死

   羊歯の葉は

   組み合わされた かたく動かない青い指

 

 陽光が水玉模様を描いてきらめき あきらかな色彩を木々に与える時が訪れてくると わたしはやっぱり 有機物の匂いを身につけた女に立ち戻り いそいそと街角に出て行く

 

  三十代まででしょうか、私が無機物になれたのは……。もう詩心なんて忘れてしまいました。

 でもふと霧の朝はそんな昔の私を思い出しています。

  

 不要不急とは言えないかなあ。英語に行きました。   

      

 帰り住宅街の上に月が昇りうっすらと夕焼けに染まっても、今晩のおかずくらいしか思い浮かばなくなりました。

      

 でも、それも私には違いないのです。

 

 ハイ、忘れずに今日のお弁当。