夜の町を私の住んでいたアパートのオーナーの娘さんと一緒になり歩いていた。自転車がすーと寄ってきて道の内側にいた娘さんの腕をつかんだ。彼女は「何!」と叫んだ。その時幸い犬小屋がある家の門柱に呼び鈴がついていた。私はとっさにその呼び鈴を押した。当時はほとんど外に犬小屋があったから犬が吠えだした。玄関に明かりがついてご主人が出てこられた。途端に自転車はすごい勢いで逃げてしまった。二人で事情を説明してお詫びを言ったが、親切なご主人は高校生くらいの息子さんを呼び二人でそこから5分ほど先のアパートの入り口まで送ってくださった。翌日オーナーさんが果物持ってお礼に行ってくださった。
二度め家庭教師も受験が近づいて大詰め。つい力が入って10時を回ってしまった。住宅街はもう人通りがほとんどない。今の町より塀は高いしなんとなく暗かったがあと3,4分すれば駅前の商店街だし交番もある。そんなところで角から出てきた3人の男の子に囲まれた。大学生かなあ。酔っている風もないしからかっていると思った。だって鼻歌を歌いながらだから。幸い私よりもっと裕次郎贔屓の友達に誘われてその映画おごってもらったばかりだった。やけっぱちで一緒に歌った。「おいらはドラマー。やくざなドラマー」あっけにとられた3人を残して商店街の明るみへ突入。その後はご主人が商店街入り口あたりまで送ってくださった。おかげで彼女も希望の私立中学へ合格した。
のちに私の武勇伝になってしまった。
片目になる前までは夜遅くなって街歩くの好きだったが段差が見えなくなったから今はさっさと暗くなる前に家を目指す。
明るい夜の町なら友達と歩くのは楽しい。もちろん好意を持ちあう同士なら、薄暗い路地にさまよいこんでも、慌てて抜け出すスリルさえ楽しい。
街角の神話
街を行く人がなぜか遠く小さい
あの日の夜は二人のものだった
カサコソと風に舞う紙屑に
ふとたちのどれば 浅い夜のネオンは色あせてわびしい
じっと立っていると
私たちの美しい神話はこわれてしまう
だから……
歩くのはは何のために?
よどんだ灰色の空に丸い月
ルーナ・ロッサ
どこかで聞いたトランペットの響きのように
けだるいけれど
ささやかな二人のメルヘンを
もう少し大切にしておきたいから
ふれあう肩だけに思いをたくして
黙って歩くのは楽しいことだった


