どうにか帰ってこれた。
昨日の午後、出張のため
会社を出たが、現地は雪。
今日は新幹線も遅れていた。
自分は、4月からのB部署への
異動を前に、一足早く出張へ
同行することになった。
同行者はB部長、そしてアナだ。
アナは2児の母で、
かつては自分のグループに
所属していた。
関連施設が閉鎖する、
という情報が流れたとき、
うちのグループの仕事が
目に見えて減るのは
分かっていた。
だから上期のうちに、
彼女をB部署へ異動させた。
それは、A部署にB部長を
異動させたがっていた本部長との、
一種の「取引」でもあった。
「私がB部長の抜けた穴を
埋めます。だから、
アナさんを早めに
動かしてやってほしい」
そう頼み込むと、
本部長は快諾してくれた。
結果として、「4月からの
新本部構想」が現実のものとなり、
私の現在の業務パートナーも
本部長の膝元へグループ長
として送り出すことができた。
まさにWin-Winの関係が
成立したわけだ。
しかしB部署の仕事は
内容こそ知っていても、
自分のいるグループの業務とは
微妙に違う。
この出張も他社相手なので、
それなりに勉強をしてきた。
すべてAIを駆使した学習だが、
これが驚くほど役に立った。
本を読み漁ったり講習を
受けたりするより、何倍も
効率的だったのだ。
会議は、思ったほど敗北感がなかった。
むしろ、このにわか仕込みで
よくここまで「分かっている人」に
見せられたな、と自分で感心してしまう。
AIさまさま、という言葉しか出てこない。
全ての業務を終えた後、
先方の営業担当者が
我々を大きな駅まで
送ってくれることになった。
「この車は自前なんですか?」
自分は20代後半と思われる
営業の方に聞いた
「そうですよ」
「結構いい車ですよね」
「ありがとうございます」
その車は6人乗りの
ワンボックスカーだった。
「確か、さっき名古屋駅の
傍に住んでいるって
言っていましたよね」
「はい、割とそばに」
「車といい、住居といい
すごい暮らしですね」
「僕はわりと身の丈に合わない
ものを選んじゃうんですよね。
でもそれが原動力に
なっていたりするんです」
彼は少し恥ずかしそうに言った。
コスパしか言わないZ世代、
という雑な括りで
語られがちな中で、
彼は違っていた。
背伸びを自覚しながら、
それを燃料にしている。
こういう人が実は
大きくなるのかもしれない、
とふと思った。
30分後、3人は
名古屋駅にいた。
「僕は繰り上げせずに、
少し名古屋を見て回ります」
そう言うと、B部長は
家族にお土産を買うために
改札を出て言った。
名古屋駅構内に
ほとんどお土産を買う
所はなかった。
自分とアナは繰り上げて
東京に帰る事にした。
「エイトさんは、
同じ『のぞみ』ですか?」
「いや、『ひかり』だけど」
「『ひかり』!?なんでまた」
アナは驚いた。
「窓際が取りたかったので。
ひかりだとまだ空いていたので、
時間もそんなに変わらないし」
「そうか!のぞみは3人席の
通路側しか空いてなかったんですよ」
「時間も10分ぐらいしか
変わらないし、特に今日は
のぞみが遅れていて、
でもなぜかひかりは時刻どおり
走っているみたいだし」
「そうか~、一緒に
すればよかった」
アナは、横並びで帰ることに
抵抗がまったくない女性だった。
業務パートナーなら絶対にない空気だ。
彼女なら、わざわざ窓口まで
一緒に来たりせず、無言でどこかへ
消えてしまうタイプなのだ。
しかし縁とは不思議だ。
アナとは前職が同じで、
その時も自分は
グループ長だった。
自分が先に会社を辞めて、
そこで縁は切れた。
はずだった。
ところが、あることがきっかけで
彼女は今の会社へ転職し、
縁が戻った。
関連施設の閉鎖で彼女は
他部署へ異動になり、
また縁が切れた
だがこうして、再び同じ部署に
なろうとしている。
なかなか切れない縁もあれば、
続くと思ったらあっという間に
ほどけてしまう縁もある。
人生とは不思議だ