バットマンビギンズ2今週3本の映画をハシゴして見た人の中には、
「なぜか3作品とも同じ俳優が出ていた!」
なんて人が少なからずいたのでは?

しかも、その3本は、いずれ劣らぬ話題作ばかり。

大ヒットシリーズの最新作『バットマン・ビギンズ』、
アカデミー賞主要4部門に輝いた『ミリオンダラー・ベイビー』、
そして、先週末公開されたばかりの『ダニー・ザ・ドッグ』……

単館系は一切なし、どれも今週の興行収入TOP10に
名を連ねるであろうメジャー作品だ。
これって結構、珍しいことなんじゃないかな?

「いったい、そいつは誰だ?」

お察しの通り、モーガン・フリーマンだ。


同時期に出演作が2本公開されることはよくある。

例えば、トム・クルーズが売り出し中の80年代後半では、
おそらく恣意的に主演作2本--『トップガン』と『ハスラー2』、
『レインマン』と『カクテル』--が完璧に重なって
同時期に日本公開されている。

しかし3本となると、あまり聞かないよね。
トンと過去の例も思い出せない。

いかに彼が信頼度の高い(ある意味、重宝されている?)
俳優かということの証左だろう。


モーガン・フリーマンとの出会いは、おそらく大半の人が
『ドライビング・ミス・デイジー』を挙げることだろう。
それ以前の作品は、出演歴を眺めると見た映画があるには
あるけど、彼を意識して見た映画というのが一つもない。

80年代半ば、40代で開花した時、すでに彼は老成していた。
その頃から一貫して、彼の役柄はいつも「人格者」に見える。
『ダニー・ザ・ドッグ』のジェット・リーもかなりの人格者
と聞いたことがあるけれど、役柄的にそれは見えてこない。
ジャッキー・チェンとモーガン・フリーマンだけが、
役柄とともに常に「人格者」らしさを迸らせている。

クリスチャン・スレーター主演の洪水映画『フラッド』のように、
強盗の役を演じていても「人格者」のイメージは決して崩れない
のだから、もうこれは本物としか言いようがない。
それが役柄の積み重ねによって醸成されていったものなのか、
役者自身の内面から滲み出たものなのかはよくわからんけど、
とにかく決して浮ついたところがなく、
主人公を力強くサポートする「100%頼りになるパートナー」
を演らせると、まさにハマる。ほとんど主人公はない。


例えば、『セブン』ではブラッド・ピットの先輩刑事として、
『トータル・フィアーズ』ではベン・アフレックの上司として、
『ロビン・フッド』ではケビン・コスナーの異教徒の相棒として、
『許されざる者』ではクリント・イーストウッドの旧友として、
いずれの大ヒット作でも必要不可欠な存在感を放っている。




タイトル: フラッド



もちろん、出世作の『ドライビング・ミス・デイジー』では、
老いたご主人(ジェシカ・タンディ=アカデミー主演女優賞受賞)
に長年、忠実に仕える運転手(モーガン・フリーマン)役で、
彼は初のオスカー候補(助演男優賞)となった。

映画評論家の神様、故・淀川長治さんが、
「いかにも私はオスカーを獲りますよ、的な演技で嫌なの」
というようなことを言っていたので、てっきり受賞したのか
と勘違いしていたが、実際はノミネート止まりだった。

だから『ミリオンダラー・ベイビー』での初受賞は、
「まだ受賞してなかったの?」という感じで、
誰よりも確実に当然の結果だった。


『ミリオンダラー・ベイビー』は当初、
サンドラ・ブロックにオファーされた企画だったらしい。
しかし、彼女が「監督もやりたい」とゴネて、
企画は宙に浮いてしまった。

その後、クリント・イーストウッドが監督・主演に決まり、
原作には出てこない主人公の相棒役で再び
モーガン・フリーマンを登場させたイーストウッドは、
やはり彼の存在感の魅力を熟知していたんだろう。

「イーストウッドの映画なら脚本を見なくても出る」と
豪語していた通り、モーガン・フリーマンは即決で出演を快諾。

慌てたサンドラ・ブロックは「監督しなくていいから出たい」
と前言を翻したが、時すでに遅くヒロイン役は決定していた。

もちろん、この意外な組み合わせも見てみたかったけど、
サンドラ・ブロックで主演女優賞が獲れたかどうかは、
大いに????……だよね。


『バットマン・ビギンズ』では、モーガン・フリーマンの役を
「おいしいとこ取り」なんて書いてる人もいたけど、
それこそ彼の実力が成せる業。
もし説得力のないオタク的イメージの俳優が演じていたら、
バットマン・スーツは今回もオモチャに見えたかもしれない。
いつ買収されて裏切られるかとヒヤヒヤしながら
最新作を見るハメになったかもしれない。

マイケル・ケインとモーガン・フリーマンに両脇を支えられたら、
こんなに心強いことはない。信頼度100%、最強の両腕だ。

こんな両腕がいたら、ホント幸せだよね。バットマン君!


ちなみに、『ミリオンダラー・ベイビー』については、
井筒監督をはじめ、ほとんどの人が大絶賛している時点で、
もうお腹いっぱい……

イーストウッドの古くからのファンとしては、語り始めると
もう他のことが書けなくなってしまいそうなので、
また別の機会にゆっくりお話しましょう。






タイトル: トータル・フィアーズ




タイトル: ドライビングMissデイジー