小早川家の秋(1961)日本 | おやじの映画館【ネタバレあり】

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観た映画の感想を書いています。
基本的にネタバレありです。
評価は★5大傑作、★4傑作、★3佳作、★2標準作、★1駄作です

 


 

東宝スターが大挙して出演した小津映画

 

評価:★★★★★

小津安二郎が初めて東宝で撮った作品。(「宗方姉妹」も東宝からソフトが発売されているが製作は新東宝。)

舞台が関西、老齢の主人公が枯れた感じではなく艶っぽい、紀子役が原節子ではなく司葉子、などなどいつもと少し違う小津作品。

 

<ストーリー>

代々、造り酒屋を営んできた小早川家。

当主の万兵衛(中村鴈治郎)は仕事を娘の文子(新珠三千代)の久夫(小林桂樹)に仕事を任せ、長男の未亡人の秋子(原節子)と末娘の紀子(司葉子)の結婚を気にかけている。秋子には、万兵衛の義弟に当る弥之助(加東大介)の世話で磯村(森繁久彌)との話が進んでいたが秋子はあまり乗り気ではない。

紀子もお見合いをしたものの札幌に行った寺本(宝田明)に恋愛感情を抱いていた。

万兵衛は競輪の帰りにバッタリ逢った昔の浮気相手のつね(浪花千栄子)のところに出入りしていた。

万兵衛は心臓の病気で一度は倒れ回復するが、つねと一緒に競輪を楽しんだ晩、再度、心臓の発作を起して息を引き取った。

葬儀の日、紀子は札幌に行く決心をし、秋子は再婚しないことにした。

小早家の人々はそれぞれの想いで、火葬場の煙を見ていた。

 
 

出演は東宝のオールスター。

原節子、新珠三千代、司葉子、団令子、白川由美という東宝のスター女優たち、森繁久彌、小林桂樹、加東大介の社長シリーズ・トリオに加えて若手では宝田明が出演。(さすがにキャラクター的に小津作品には合わないであろう三船敏郎は出ていない)

原節子

 

新珠三千代

 

司葉子

 

森繫久彌

 

小林桂樹

 

加東大介

 

宝田明

 

しかし、真の主役は中村鴈次郎の造り酒屋の旦那だろう。

仕事は娘婿に任せて、自分は偶然再会した昔の浮気相手の家に通っている。小津作品でお馴染みの笠智衆の枯れた父親役とは全く異なるキャラクター。大映の「浮草」でも過去の女といざこざが描かれていたが、こういう役は笠智衆では難しいだろう。

 

 

脇は名優ばかりで太り気味の遠藤辰雄、そして内田朝雄が珍しく開業医役で出演している。「ちゃうちゃう」連発の山茶花究もおかしい。

 

     遠藤辰雄         内田朝雄

 

杉村春子は中盤が過ぎてから登場するが、葬式の場面での個人の想い出を笑いながら語り、やがて泣きが入る場面は圧巻でまさに真打登場。


 

笠智衆は今回は完全に脇に回っている。三宅邦子は出演していない

 

 

「お早よう」の弟君も登場

 

 

撮影は小津と名コンビであった厚田雄春ではない。大映で「浮草」を撮った時に宮川一郎を使ったように今回も東宝の名カメラマン中井朝一を起用している。

廊下を中心にしたシンメトリックな構図。

 

正面から人物をとらえるショットのテーブルを入れた絶妙なアングル。

コカ・コーラのボックスや消火器の赤色

 

アクセントにバイアリースの黄色い灰皿など赤青黄の小物が置かれている。

 


 

木造ばかりの京都の建物の街並みが美しい。造り酒屋の外に干してある大きい木桶。

鴈治郎が昔の女の所に行く時に何度も「京都に行く」という表現があったが、短時間で移動しているのになぜだろうと思ったら、小早川家は伏見であり、同じ京都でも洛内が京都、伏見は洛外で別の街の扱いのようになっているみたい。

 

 

娘が嫁に行く物語ではなく。親が死んで子供たちが旅立っていく物語。

最後に残された家族が万感の想いで火葬場の煙を見上げるシーンから葬列が橋を渡っていく場面が印象深い。

 

 

 

原節子と司葉子が一緒にしゃがむ姿が何回か出てくるが二人の動きが見事にシンクロしていて、特に死んだ母親の命日に川辺で話し終わった着物の原節子と洋装の司葉子が立ち上がって2~3歩く所まで一緒の動きで、最後に二人ともお見合いを断って自分の意志で将来を決めるのを暗示しているよう。

 

 

 


 

原節子の着物姿が美しい。

 

 

 

 

造り酒屋が舞台だが、職場は事務室しか出てこない。酒造の現場のブルーカラーの姿を一切見せない所は小津らしい。

 

森繁のライターの火が「探偵物語」の松田優作状態。

 

 

合唱する送別会(伴奏用のウクレレも持参)。

 

 

団令子のいかにも1960年代の女の子のロカビリー風のスカート

 

 

撮影現場で小津監督に反抗的だったという噂の森繁はアドリブ無しなのだろうか?

 

 

 

 

【鑑賞方法】DVD 東宝

【英題】THE EARLY SUMMER

カラー103

 

【制作会社】宝塚映画

【配給】東宝

 

【監督】小津安二郎

【脚本】小津安二郎 野田高梧

【制作】藤本真澄 金子正且 寺本忠弘

【撮影】中井朝一

【音楽】黛敏郎

【編集】岩下広一

【美術】下河原友雄

【衣装】斉藤はな 岡本忠治

 

【出演】

中村鴈治郎:小早川万兵衛

原節子:長男の嫁秋子

司葉子:次女紀子

新珠三千代:長女文子

小林桂樹:その夫久夫

島津雅彦:息子正夫

森繁久彌:磯村英一郎

浪花千栄子:佐々木つね

団令子:娘百合子

杉村春子:加藤しげ

加東大介:北川弥之助

東郷晴子:妻照子

白川由美:中西多佳子

宝田明:寺本忠

山茶花究:店員山口信吉

藤木悠:店員丸山六太郎

笠智衆:農夫

望月優子:その妻

環三千世:ホステス

遠藤辰雄:万兵衛の弟

内田朝雄:医者