「猫は逃げた」を鑑賞して

 

監督:今泉力哉 脚本:城定秀夫

 

※11/14に行われたTAMA CINEMA FORUMにて「猫は逃げた」の先行上映に行ってきました。

公開はまだなので、ネタバレは極力控えます。

 

 

〇キャスト

・町田亜子:山本奈衣瑠

…漫画家。週刊記者をしている広重とは夫婦だが、広重の不倫をきっかけに離婚寸前。自身を担当する松山俊也と不倫関係にある。

 

・町田広重:毎熊克哉

…週刊誌記者。亜子とは夫婦だが、自身の不倫をきっかけに離婚寸前。会社の後輩である沢口真美子と不倫関係にある。

 

・松山俊也:井之脇海

…漫画家である亜子を担当する編集者。

 

・沢口真美子:手島実優

…週刊誌記者で広重の後輩。会社の先輩である広重とは不倫関係にある。

 

 

〇あらすじ

漫画家・町田亜子と週刊誌記者の広重は離婚間近の夫婦。広重は同僚の真美子と浮気中で、亜子は編集者の松山と体の関係を持ち、夫婦関係は冷え切っていた。2人は飼い猫カンタをどちらが引き取るか揉めていたが、その矢先、カンタが家からいなくなってしまい…。

 

 

 

〇レビュー

4人の男女の想いが交錯する物語。それだけ聞くと何か重そうなイメージを持ってしまいますが、今泉監督、そして城定監督の作品らしく、会場は所々、笑いに包まれていました。私が鑑賞したのは2021年ですが、きっと個人的2022年の映画TOP5には入るだろうと感じた、非常に良い映画です。

 

 

①    コミカルだけど、考えさせられる。

前述しましたが、笑いどころがたくさんあり、終始、作品を楽しむことができると思います。何というか公開後に劇場でクスクスといった笑い声が聞こえてくる風景が浮かんできますね。

 

しかし、この映画は決して喜劇ではありません。崩壊寸前の夫婦ですが、飼い猫カンタが失踪してからの町田夫婦の描写は、飼い猫カンタというお互いに大切にしてきた共通項をきっかけにして「この二人はやっぱり、何年もの時を共に過ごしてきた『夫婦』なんだなぁ」と思わせられる場面がたくさんありました。

 

 

②    それぞれの浮気相手もGood。

亜子の浮気相手である松山くん、そして広重の浮気相手である真美子も決してヒールではなく、それぞれがコミカルで優しい良い人物です。2人とも町田夫婦より年下ということもあり、亜子、広重のことをそれぞれちゃんと好きだからこそ、言動がかわいらしく、また愛おしいキャラクターたちです。

(オズワルドの伊藤さん演じる味澤忠太郎もいい味出してました。)

 

 

③    やっぱり女は強い。

作品の終盤に4人が一堂に会する場面があります。まぁ、その場が平和なはずはなく、口喧嘩になるのですが、とにかく亜子と真美子が強い。もうほとんど亜子と真美子の喧嘩です。

そんな様相を呈する中、男性陣は気弱に二人の仲裁に徹するしかありません。

「触らぬ神に祟りなし」。下手に彼らが女性陣の争いに口を挟もうものなら、彼女らの逆鱗に触れてしまう始末。

何というか男って結局、女性にはかなわないんですよね。

 

 

④    LIGHTERSさんがステキな余韻を。

本作品の主題歌はLIGHTERSさんの「don’t cry」。歌詞は英語なのですが、アンニュイなメロディーで作品を締めてくれます。私も「don’t cry」に耳を傾け、エンドロールを眺めながら、つい作品の余韻に耽ってしまいました。

 

※作品終了後にLIGHTERが生演奏をしてくださいましたが、お若くて少しびっくりしました。これからが要チェックなアーティストさんですね。私も会場でCD買っちゃいました。

 

 

☆本作は3/18(金)から公開となります。

今泉力哉監督と城定秀夫監督がタッグを組んだ作品。監督と脚本を入れ替えた「愛なのに」とともに絶対に劇場でご覧になってください。
(今泉監督の「街の上で」で城定監督の名前が出てきていましたね。なので、今回のタッグは個人的にとても嬉しかったです。)

 

 

 

「愛うつつ」(70分)を鑑賞して

 

監督:葉名恒星 主演:細川岳、nagoho

 

〇キャスト

新田純:細川岳

…人材派遣会社に勤める結衣の彼氏。しかし、その裏の顔は女性に体を売る出張ホスト。

白井結衣:nagoho

…写真好きの大学生。ペットショップでアルバイトをしている。

 

〇あらすじ

人材派遣会社の営業職に勤める新田純と白井結衣は付き合って7ヵ月のカップル。

二人は仲睦まじい関係であったが、純は結衣を抱けずにいた。

“愛しているからこそ抱けない”純と、“愛しているからこそ抱かれたい”結衣。

二人の愛の形の違いは、結衣が、「純の秘密」を知ったことをきっかけに対立する。

 

(公式HPより)

 

 

〇レビュー

 

①純はクソッタレ

観客の多くは作品最終盤まで新田純に胸糞悪い思いをさせられるだろう。

彼は今までセックスをするためだけに彼女を作り、それだけでは飽き足らず副業として出張ホスト(男版デリヘル)をしている。

そして、結衣と付き合っている現在も密かにその副業は行っており、結衣が自身の女性としての魅力に悩む裏側で客とセックスする純の姿には誰もが嫌悪を感じざるをえない。

 

②2人はボロボロ

純が出張ホストをしていることを知り、純との関係に終止符は打たずとも、距離を置く結衣。

一方、結衣に拒絶された純は人材会社での仕事に手が付かなくなり、副業も不調に。

さらにはそんな純の姿に見かね、話を聞こうとする職場の先輩に八つ当たりをする始末。

そしてそんな純に対して、結衣も結衣で純が部屋に残していったPeaceのタバコをふかしてみたり、バイト仲間に誘われて行った合コン相手と一夜を共にしてみたりと2人は、やさぐれ、心はボロボロになっていく。

 

 

③2人の「初めて」はこんなにも切なく

 常連客にも不甲斐ない仕事ぶりを叱咤された純は、とある夜、先輩にもらった性欲増強剤を飲んで、仕事のため、指定されたラブホテルに向かっていく。

すると、電話で客が目隠しでのプレイを要望しているという旨を伝えられ、その指示通り、アイマスクをしてベッドで待っていると、そこに現れたのは結衣だった。

もちろん、目隠しをしている純は気付かない。

しかし、結衣が無言のままキスをし、抱きしめると純のアイマスクからは涙が頬を伝う。結衣はそのまま、純に膝枕を頼み、アイマスクを外した純とその膝に横たわる結衣は互いに涙を流しながら、思いを吐露しあい、互いの心根を知り合った2人の体は初めて交わり合う。

 

そうして、迎えた朝。朝日の眩しさを嘆く2人の顔やホテルを出て、駅まで並んで談笑する2人の姿にはいつも通りの明るさが戻っていた。

しかし、駅に近づくと、結衣は少し歩を早め、数歩後方にいる純に対し、「バイバイ」と一言つぶやき、2人は別々の道へ去ってゆく。

 

 

そんな2人のエンディングからは、思い残すことなく、純との関係を終わらせるために純を買った結衣の決意、そしてそんな2人の終わりを感じ、結衣に対していつも通り、接しようとした純の心情が伺え、何とも言えない切なさを感じながら、エンドロールを眺めた。

また、この作品の大きなテーマである純の「愛しているからこそ抱けない」という心情。

そんな純の思いを私なりに解釈するならば、結衣という存在。その存在が純にとって尊く、また純潔なものだからこそ、穢せない。愛とセックスは必ずしも結び付くものではないのではないか。そのようなテーゼを感じた作品であった。

 

 

 

 

 

 

「ボクたちはみんな大人になれなかった」を鑑賞して

 

監督:森義仁 主演:森山未來

 

 


〇キャスト

・佐藤誠:森山未來

…この作品の主人公。若くして、三好が起業したテロップ制作会社に応募し、同期である関口とともに小さな事務所に住み込みで働く。様々なヒロインたちとの恋愛を経験するが、現在まで独身。

・加藤かおり:伊藤沙莉

…渋谷にあるアジア雑貨屋で働く、作品のメインヒロイン。佐藤とは雑誌の文通募集をきっかけにして出会い、現在までの佐藤の心に残り続ける。「今度、CD借りに行くね」という言葉を残し、突如、姿を消す。

・スー:SUMIRE

…実業家、佐内の行きつけである高級クラブのバーテンダー。佐内から住居などを与えられる代わりに佐内から客と売春行為を強要されている。人生に苦悩し、クラブを抜けだして、タバコを吸う佐藤と知り合い、恋仲となるが、佐内が逮捕されたことで突如、行方をくらませる。

・石田恵:大島優子

…佐藤の婚約相手。この作品に登場するヒロインの中では最も無個性な女性で仕事に忙殺される佐藤に振り回されたあげくに別れる。

・関口賢太:東出昌大

…テロップ制作会社の発足時に佐藤とともに社員となった男。佐藤とは最も親交があり、退職し、オンライン学習塾を起業するまでは公私ともに佐藤の相棒的存在であった。ヤンチャな部分があり、仕事が軌道に乗ったころにはクラブのVIP席でドラッグなどもやっていた。

・七瀬俊彦:篠原篤

…佐藤とはお菓子工場時代からの間柄であるオカマ。オカマバーのママとして佐藤の心の拠り所となる。

・三好英明:萩原聖人

…佐藤、関口が務めるテロップの制作会社を起業した社長。起業当初から佐藤、関口と親交があり、彼らを最も知る人物とも言えるかもしれない。

 

 

〇概要

テレビ番組のテロップを担当する制作会社に勤める佐藤誠の人生を数々のヒロインと共に遡りながら断片的に描く。

 

 

 

〇レビュー

個人的に今年観た映画の中でベスト5に入る、いい映画だった。それぞれの登場人物のキャラクターが立っていて、特に売春を強要されているスーやアジア雑貨屋で働くメインヒロイン、かおりの姿は非常に印象的であった。また、私はまだ若いため、分からないが1990年代~2000年代のカルチャーが作中にふんだんに盛り込まれており、当時を生きた人々はきっとノスタルジックな気分を味わうこともできるだろう。

 

・本稿では特に印象的であったスー(SUMIRE)と加藤かおり(伊藤沙莉)について書く。

 

 

①スーとの恋愛

 

(あらすじ)

 誠とスーの出会いは関口に連れられて訪れた高級クラブ。業界関係者の誠は佐内のツテでVIPルームに通された客、一方、スーはそこで働くバーテンダーである。怪しいドラッグなどを口にしながら楽しむ関口とは対照的にどこか気分の乗らない誠はクラブを抜け、タバコをふかす。すると、そのクラブのバーテンダーであるスーも一服しにやってきて、そこで二人は意気投合する。その後、バーを営む七瀬の押しもあり、スーとそのバーで会うようになり、二人で出かける仲になるのだが、酔ったスーを新宿のど真ん中にある彼女の自宅まで送り届けた夜、この住まいは実業家の佐内の名義で借りられていること、そして、そんな生活の面倒を見てもらう代わりに佐内の客と夜の相手をしなければならないことを明かされる。しかし、誠はそんなスーの状況を理解し、受け入れたのだが、その数日後、仕事をする誠に目に飛び込んできたのは実業家、佐内が逮捕されたというニュース。急いで、スーに連絡をする誠であったが、その電話番号はもう使われていないものになっていた。

 

 

 初登場のシーンはバーテンダーとしてのスーちゃん。

化粧もバッチリしていて、雰囲気もクールな印象だった。しかし、誠に呼び出されて七瀬のバーに現れたスーちゃんはラフな格好で化粧も薄め。この後、スーちゃんは七瀬のバーの常連になるのだが、そこでは女の子らしく、楽しそうによく笑っている印象が強く残っている。

加えて、誠に佐内との関係を明かした場面で誠はその告白を受け入れて、「仕事」が終わるまでマンションの下のベンチで待っていると約束するのだが、スーちゃんがお客さんを見送ったあと、すぐに部屋のベランダに駆け寄って、約束通り、誠が待ってるのを見つけた途端、

真冬の寒空の中にランジェリー姿のまま飛び出して行って、誠に抱き着く場面は本当に

誠のことが大好きな一人の女の子って感じがして、かわいらしくもあり、なんというか、

七瀬のバーとか誠の前でしか素を出せない姿が切なくもあった。

 

 

 

②かおりとの恋愛


 

(あらすじ)

 かおりとの出会いは、とある雑誌の文通募集欄。小沢健二好きとしてかおりの「犬キャラ」(※小沢健二の1stアルバム「犬は吠えるがキャラバンは進む」の略)というペンネームに

興味を持った誠が試しに手紙を送ったことから2人の交流は始まる。

そして、文通によって慎重に交流を深めた2人はWAVEの袋を目印に、原宿のラフォーレで

初めて実際に会い、その後、デートを重ねた末に交際をスタートさせる。

 

 

 それから、順調に交際を続けた2人だったが、ある日、神泉にある行きつけのラブホテルで、同棲を提案した誠に対し、「普通」を嫌うかおりの気持ちは冷めてしまう。

そして、かおりはその日の別れ際、「今度、CD持ってくるからね」という言葉を残して音信不通となり、2人の仲は自然消滅という形で終止符が打たれる。

 

 

 かおりは本作のメインヒロインだが、その肩書に負けず劣らず、非常に印象的な女の子。

例えば、誠との初めてのデートでは、自らペンで柄を描いた白のワンピースを着てきたり、

夏なのに長袖を着て「長袖、流行らせます運動」を行っていたり、はたまた当日の朝、

誠に仕事を休ませて行き先も決めないドライブへ連れ出したりと、なかなかクセは強め。

 

 

 ただ、その中には社会通念と一線を画した彼女なりの軸が見え、スクリーンに映る彼女の姿からは大空を自由に飛ぶ1羽のカモメのような清々しささえ感じた。

また、そんな彼女のピュアさはかわいらしくもあり、きっと手はかかるものの、それさえもが

愛嬌に感じられた。

 


 

きっと、私たちはいつまでも過去を引きずりながら、それでも今を強く、生きている。

そして、誰もがこの作品を通して、引き出しの奥底にしまっていた、自身の過去を思い出し、ノスタルジーを感じながら、劇場を後にしてゆくだろう。

 

 

「僕たちは変わらない朝を迎える」を鑑賞して

 

監督:戸田彬弘 主演:高橋雄祐 土村芳

 

 

※ネタバレ注意

 

〇キャスト

藤井薫:高橋雄祐

…主人公で映画監督。寧々に結婚することを告げられる。

宮崎寧々:土村芳

…ヒロイン。薫の元カノで友人、女優をやっている。

村上雪菜:桃果

…薫の主催するワークショップの受講生。作品のキーマンともいえる。

 

〇あらすじ

映画監督の藤井薫はかつて付き合っていた、女優で友人の宮崎寧々から「私、結婚します」という報告を受ける。その帰り道、二人きりになった薫は寧々に対し、笑顔で「おめでとう」という言葉をかけるが、その早朝、薫は自身の想いを脚本へぶつける。

 

 

 

〇レビュー

胸がきゅーとなるいい映画だった!! シンプルだが、これが率直な感想である。

個人的に今年観た映画の中ではトップ3に入る、めっちゃ好みの映画でした!

 

①    切ない。

上記の通り、薫が寧々から結婚の報告を受けた帰り道、寧々に対し、ただ単に「おめでとう」という言葉をかけるが、薫の立場からするとそう言うしかないであろう。その帰り道、薫は相手がどんな人であるのか、馴れ初めなどは一切聞かない。そこに薫の中にある真の想いが感じられ、よりその「おめでとう」が切なく響いた。

 

 

②    やっぱり切ない。

薫はその早朝、男女の別れをテーマとした脚本を書く。そして、その脚本を自身の主催するワークショップで受講生たちに演じさせるのだが、その受講生の中に作品のキーマンがいた。村上雪菜だ。ワークショップ終わり、二人で飲むことになり、意気投合する薫と雪菜だが、夜更けに忘れられない元カレに会いに行き、結果、「何にも伝えられなかった」と薫に電話する雪菜に対し、「そうだよな、伝えたい言葉っていっぱいあるのにな」と涙ながらに答える薫のその言葉がまた切ない。きっと薫は寧々から結婚の報告を受けた帰り道、頭に浮かんだ言葉は数知れない。だが、薫はそのほとんどの言葉を押し殺し、「おめでとう」、ただその一言を選んだ。前述したが、その一言がやっぱり切ない。

 

③    ずっと切ない。

薫は上記の雪菜との電話によって、結婚報告を受けたその夜の寧々との別れの瞬間をやり直せたらと考える。しかし、その理由は正直な気持ちを伝えるためではなく、結婚の報告を受け入れ、次の日から切り替えられるよう行動したいというものだった。作品において、その夜の薫と寧々の別れは二通りある。1つはそのまま、寧々をタクシーに乗せ、見送るという現実の別れ。そして、もう一つは帰るため、タクシーに乗ろうとする寧々を引き留め、二人でタクシーに乗り、夜明け前の海へ向かうという薫の理想である。その海で薫と寧々は過去の思い出に浸り、当時の思いを打ち明け、薫は気持ちに整理をつける。きっと薫はこうして、いつしか心の底から友人として寧々に「おめでとう」を伝えられる日を迎えるための道へ歩みだすのである。

 

海を眺めながら、お互いに清算する薫と寧々。薫は待たせたタクシーに寧々を乗せ、自身は早朝の海沿いを歩く。このラストシーンで寧々の乗るタクシー、そして、薫の聴くラジオから流れる音楽は雨のパレードで「morning」。この曲とともに回想される薫と寧々、二人が幸せだった瞬間たちが眩しく、最後まで胸をきゅーとさせる。この作品は終始、切ない。ただ、その切なさが美しく、私たちをそれぞれの過去から前へと向けるのではないだろうか。

 

 

 

PS.小話ですが、舞台挨拶で戸田監督はふとサブスクで流れてきた雨のパレードさんの「morning」を聴いて、脚本を書いたと語っていました。何か曲を聴いて、書きたくなるときってありますが、それを映画にまでしてしまうなんて戸田監督の想像力は恐るべしです。

また、主人公の藤井薫は映画監督ですが、作品の50%は戸田監督の実体験を投影しているらしいですよ!!

 

 

関東だと新宿シネマカリテのみで8/13~8/26の2週間限定上映となっています。

51分と短く、ふらっと立ち寄って観やすいと思うので、ぜひ劇場で!

 

 

 

「サマーフィルムにのって」を鑑賞して

監督:松本壮史   主演:伊藤万理華

 

 

※ネタバレ注意

 

ハダシ-伊藤万理華

…映画部所属の時代劇大好き少女。仲良しトリオの一人。

凛太郎-金子大地

…未来から来た青年。ハダシの映画の大ファン。

ビート板-河合優実

…天文部所属。文学少女。仲良しトリオの一人。

ブルーハワイ-祷キララ

…剣道部所属。時代劇が大好き。仲良しトリオの一人。

花鈴-甲田まひる

…映画部所属。ラブコメ大好き。映画部のエース。

ダディーボーイ-板橋駿谷

…老け顔の高校生。ハダシのクラスメート。

 

とある高校の時代劇大好き少女が夏休みに同じ高校の個性豊かな同級生たちを集め、時代劇を撮影するという青春映画。

金子大地演じる凛太郎は未来に唯一、残っていない時代劇の巨匠(未来では)、ハダシ監督の処女作が高校の文化祭でのみ上映されたという記録を頼りに未来から来るが名画座にいたところを自身のイメージする主演を探していたハダシに発見され、出演することになるという形で作品に関わってくる。

 

 

作品内容に関してはハダシ、ビート板、ブルーハワイの仲良しトリオの掛け合いや一生懸命、映画作りに奮闘する姿が微笑ましく、またその若き日のまっすぐさが懐かしい。

 

 

そして、個人的には板橋駿谷演じるダディーボーイが一生懸命ながらもどこかコメディチックで、作品にいいエッセンスを加えているなぁという印象を受けた。

 

 

それから、甲田まひる演じる花鈴も明るい映画部の人気者といったキャラクター性がハダシたちのキャラクターと対をなしており、作品に深みをもたらしていたと言えるだろう。加えて、花鈴は作中で月並みな恋愛映画を好む、通俗的なハダシのライバルといった立ち位置だが、作品終盤では恋愛映画にかける彼女なりの熱意が散見され、どこか感情移入したくなる存在でもあった。

 

 

さらに作品の中盤からは凛太郎とハダシのロマンスが漂ってくるが、個人的にはその要素が映画愛を描く今作には不純物となってしまっていたと感じた。しかし、作品のラストを考えると必要であったのかもしれない。

 

また、作品の背景にはハダシの撮る時代劇vs花鈴の撮るラブコメディという構図があるが、時代劇好きのブルーハワイが隠れて少女マンガを読み、キュンキュンしているシーンや撮影終了後、文化祭上映に間に合わせるための編集中に煮詰まった花鈴が大好きなラブコメ映画をパソコンで観始めるとハダシも隣で鑑賞し、花鈴とハダシでそのラストに涙する場面などは非常に共感した。

私自身、小説や音楽、映画では、純文学やシティポップ、ロックやジャズなどを好んではいるものの、少女マンガを実写化したラブコメやアイドルソングに浸ることも多い。

私はそんなとき、得てして友人から珍しがられるが、そのたびに「ブラックコーヒーや無糖紅茶を飲んでいると、たまにはミルクティーも飲みたくなるもんだよ」と言っている。

なんか自分で言っておいて高尚ぶっているようで嫌気が差してきたが、要は通俗的で産業的なものも芸術的で玄人向けなものもどちらも必要なものであって、それぞれに違った良さがあるということだ。

先に挙げた場面はそんな私個人の考えが表現されているようで印象的であった。

 

 

最後に、まるでソーダのような清々しさが残る今回の作品はCody・Lee(李)の「異星人と熱帯夜」という曲で締めくくられる。

MVには主演の伊藤万理華、「街の上で」などのタカハシシンノスケが出演しているが、この曲がまた良い。

緊張からの脱力といった感じで作品のラストシーンを固唾を飲んで見入った直後にどこかアンニュイなメロディがエンドロールを眺める脳内に染み渡る。

そんな「異星人と熱帯夜」も含めて「サマーフィルムにのって」は一見の価値ありと言えるだろう。