「ボクたちはみんな大人になれなかった」を鑑賞して

 

監督:森義仁 主演:森山未來

 

 


〇キャスト

・佐藤誠:森山未來

…この作品の主人公。若くして、三好が起業したテロップ制作会社に応募し、同期である関口とともに小さな事務所に住み込みで働く。様々なヒロインたちとの恋愛を経験するが、現在まで独身。

・加藤かおり:伊藤沙莉

…渋谷にあるアジア雑貨屋で働く、作品のメインヒロイン。佐藤とは雑誌の文通募集をきっかけにして出会い、現在までの佐藤の心に残り続ける。「今度、CD借りに行くね」という言葉を残し、突如、姿を消す。

・スー:SUMIRE

…実業家、佐内の行きつけである高級クラブのバーテンダー。佐内から住居などを与えられる代わりに佐内から客と売春行為を強要されている。人生に苦悩し、クラブを抜けだして、タバコを吸う佐藤と知り合い、恋仲となるが、佐内が逮捕されたことで突如、行方をくらませる。

・石田恵:大島優子

…佐藤の婚約相手。この作品に登場するヒロインの中では最も無個性な女性で仕事に忙殺される佐藤に振り回されたあげくに別れる。

・関口賢太:東出昌大

…テロップ制作会社の発足時に佐藤とともに社員となった男。佐藤とは最も親交があり、退職し、オンライン学習塾を起業するまでは公私ともに佐藤の相棒的存在であった。ヤンチャな部分があり、仕事が軌道に乗ったころにはクラブのVIP席でドラッグなどもやっていた。

・七瀬俊彦:篠原篤

…佐藤とはお菓子工場時代からの間柄であるオカマ。オカマバーのママとして佐藤の心の拠り所となる。

・三好英明:萩原聖人

…佐藤、関口が務めるテロップの制作会社を起業した社長。起業当初から佐藤、関口と親交があり、彼らを最も知る人物とも言えるかもしれない。

 

 

〇概要

テレビ番組のテロップを担当する制作会社に勤める佐藤誠の人生を数々のヒロインと共に遡りながら断片的に描く。

 

 

 

〇レビュー

個人的に今年観た映画の中でベスト5に入る、いい映画だった。それぞれの登場人物のキャラクターが立っていて、特に売春を強要されているスーやアジア雑貨屋で働くメインヒロイン、かおりの姿は非常に印象的であった。また、私はまだ若いため、分からないが1990年代~2000年代のカルチャーが作中にふんだんに盛り込まれており、当時を生きた人々はきっとノスタルジックな気分を味わうこともできるだろう。

 

・本稿では特に印象的であったスー(SUMIRE)と加藤かおり(伊藤沙莉)について書く。

 

 

①スーとの恋愛

 

(あらすじ)

 誠とスーの出会いは関口に連れられて訪れた高級クラブ。業界関係者の誠は佐内のツテでVIPルームに通された客、一方、スーはそこで働くバーテンダーである。怪しいドラッグなどを口にしながら楽しむ関口とは対照的にどこか気分の乗らない誠はクラブを抜け、タバコをふかす。すると、そのクラブのバーテンダーであるスーも一服しにやってきて、そこで二人は意気投合する。その後、バーを営む七瀬の押しもあり、スーとそのバーで会うようになり、二人で出かける仲になるのだが、酔ったスーを新宿のど真ん中にある彼女の自宅まで送り届けた夜、この住まいは実業家の佐内の名義で借りられていること、そして、そんな生活の面倒を見てもらう代わりに佐内の客と夜の相手をしなければならないことを明かされる。しかし、誠はそんなスーの状況を理解し、受け入れたのだが、その数日後、仕事をする誠に目に飛び込んできたのは実業家、佐内が逮捕されたというニュース。急いで、スーに連絡をする誠であったが、その電話番号はもう使われていないものになっていた。

 

 

 初登場のシーンはバーテンダーとしてのスーちゃん。

化粧もバッチリしていて、雰囲気もクールな印象だった。しかし、誠に呼び出されて七瀬のバーに現れたスーちゃんはラフな格好で化粧も薄め。この後、スーちゃんは七瀬のバーの常連になるのだが、そこでは女の子らしく、楽しそうによく笑っている印象が強く残っている。

加えて、誠に佐内との関係を明かした場面で誠はその告白を受け入れて、「仕事」が終わるまでマンションの下のベンチで待っていると約束するのだが、スーちゃんがお客さんを見送ったあと、すぐに部屋のベランダに駆け寄って、約束通り、誠が待ってるのを見つけた途端、

真冬の寒空の中にランジェリー姿のまま飛び出して行って、誠に抱き着く場面は本当に

誠のことが大好きな一人の女の子って感じがして、かわいらしくもあり、なんというか、

七瀬のバーとか誠の前でしか素を出せない姿が切なくもあった。

 

 

 

②かおりとの恋愛


 

(あらすじ)

 かおりとの出会いは、とある雑誌の文通募集欄。小沢健二好きとしてかおりの「犬キャラ」(※小沢健二の1stアルバム「犬は吠えるがキャラバンは進む」の略)というペンネームに

興味を持った誠が試しに手紙を送ったことから2人の交流は始まる。

そして、文通によって慎重に交流を深めた2人はWAVEの袋を目印に、原宿のラフォーレで

初めて実際に会い、その後、デートを重ねた末に交際をスタートさせる。

 

 

 それから、順調に交際を続けた2人だったが、ある日、神泉にある行きつけのラブホテルで、同棲を提案した誠に対し、「普通」を嫌うかおりの気持ちは冷めてしまう。

そして、かおりはその日の別れ際、「今度、CD持ってくるからね」という言葉を残して音信不通となり、2人の仲は自然消滅という形で終止符が打たれる。

 

 

 かおりは本作のメインヒロインだが、その肩書に負けず劣らず、非常に印象的な女の子。

例えば、誠との初めてのデートでは、自らペンで柄を描いた白のワンピースを着てきたり、

夏なのに長袖を着て「長袖、流行らせます運動」を行っていたり、はたまた当日の朝、

誠に仕事を休ませて行き先も決めないドライブへ連れ出したりと、なかなかクセは強め。

 

 

 ただ、その中には社会通念と一線を画した彼女なりの軸が見え、スクリーンに映る彼女の姿からは大空を自由に飛ぶ1羽のカモメのような清々しささえ感じた。

また、そんな彼女のピュアさはかわいらしくもあり、きっと手はかかるものの、それさえもが

愛嬌に感じられた。

 


 

きっと、私たちはいつまでも過去を引きずりながら、それでも今を強く、生きている。

そして、誰もがこの作品を通して、引き出しの奥底にしまっていた、自身の過去を思い出し、ノスタルジーを感じながら、劇場を後にしてゆくだろう。