「僕たちは変わらない朝を迎える」を鑑賞して

 

監督:戸田彬弘 主演:高橋雄祐 土村芳

 

 

※ネタバレ注意

 

〇キャスト

藤井薫:高橋雄祐

…主人公で映画監督。寧々に結婚することを告げられる。

宮崎寧々:土村芳

…ヒロイン。薫の元カノで友人、女優をやっている。

村上雪菜:桃果

…薫の主催するワークショップの受講生。作品のキーマンともいえる。

 

〇あらすじ

映画監督の藤井薫はかつて付き合っていた、女優で友人の宮崎寧々から「私、結婚します」という報告を受ける。その帰り道、二人きりになった薫は寧々に対し、笑顔で「おめでとう」という言葉をかけるが、その早朝、薫は自身の想いを脚本へぶつける。

 

 

 

〇レビュー

胸がきゅーとなるいい映画だった!! シンプルだが、これが率直な感想である。

個人的に今年観た映画の中ではトップ3に入る、めっちゃ好みの映画でした!

 

①    切ない。

上記の通り、薫が寧々から結婚の報告を受けた帰り道、寧々に対し、ただ単に「おめでとう」という言葉をかけるが、薫の立場からするとそう言うしかないであろう。その帰り道、薫は相手がどんな人であるのか、馴れ初めなどは一切聞かない。そこに薫の中にある真の想いが感じられ、よりその「おめでとう」が切なく響いた。

 

 

②    やっぱり切ない。

薫はその早朝、男女の別れをテーマとした脚本を書く。そして、その脚本を自身の主催するワークショップで受講生たちに演じさせるのだが、その受講生の中に作品のキーマンがいた。村上雪菜だ。ワークショップ終わり、二人で飲むことになり、意気投合する薫と雪菜だが、夜更けに忘れられない元カレに会いに行き、結果、「何にも伝えられなかった」と薫に電話する雪菜に対し、「そうだよな、伝えたい言葉っていっぱいあるのにな」と涙ながらに答える薫のその言葉がまた切ない。きっと薫は寧々から結婚の報告を受けた帰り道、頭に浮かんだ言葉は数知れない。だが、薫はそのほとんどの言葉を押し殺し、「おめでとう」、ただその一言を選んだ。前述したが、その一言がやっぱり切ない。

 

③    ずっと切ない。

薫は上記の雪菜との電話によって、結婚報告を受けたその夜の寧々との別れの瞬間をやり直せたらと考える。しかし、その理由は正直な気持ちを伝えるためではなく、結婚の報告を受け入れ、次の日から切り替えられるよう行動したいというものだった。作品において、その夜の薫と寧々の別れは二通りある。1つはそのまま、寧々をタクシーに乗せ、見送るという現実の別れ。そして、もう一つは帰るため、タクシーに乗ろうとする寧々を引き留め、二人でタクシーに乗り、夜明け前の海へ向かうという薫の理想である。その海で薫と寧々は過去の思い出に浸り、当時の思いを打ち明け、薫は気持ちに整理をつける。きっと薫はこうして、いつしか心の底から友人として寧々に「おめでとう」を伝えられる日を迎えるための道へ歩みだすのである。

 

海を眺めながら、お互いに清算する薫と寧々。薫は待たせたタクシーに寧々を乗せ、自身は早朝の海沿いを歩く。このラストシーンで寧々の乗るタクシー、そして、薫の聴くラジオから流れる音楽は雨のパレードで「morning」。この曲とともに回想される薫と寧々、二人が幸せだった瞬間たちが眩しく、最後まで胸をきゅーとさせる。この作品は終始、切ない。ただ、その切なさが美しく、私たちをそれぞれの過去から前へと向けるのではないだろうか。

 

 

 

PS.小話ですが、舞台挨拶で戸田監督はふとサブスクで流れてきた雨のパレードさんの「morning」を聴いて、脚本を書いたと語っていました。何か曲を聴いて、書きたくなるときってありますが、それを映画にまでしてしまうなんて戸田監督の想像力は恐るべしです。

また、主人公の藤井薫は映画監督ですが、作品の50%は戸田監督の実体験を投影しているらしいですよ!!

 

 

関東だと新宿シネマカリテのみで8/13~8/26の2週間限定上映となっています。

51分と短く、ふらっと立ち寄って観やすいと思うので、ぜひ劇場で!