「アベンジャーズ」のハルクについて【ネタバレ有り】 | 映画の夢手箱

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 映画の鑑賞記録です。基本的にネタバレ有り。

 パンフレットの登場人物紹介順に語っているので、そろそろハルク/ブルース・バナーについて語ろうと思います。
 ハルクに関する前作は「インクレディブル・ハルク」で、ブルースを演じたのはエドワード・ノートンですが、今作からはマーク・ラファロが演じています。、
 このエドワード・ノートンの降板劇について、エドワード自身は、「さまざまな理由で出演することができなかったんだ。ハルクを演じるのはとても楽しかったよ。ただ横柄だと思わないでほしいんだけど、僕はああいった種類の映画に出演することに時間を費やしたいとは思わないんだ。ほかにたくさんやりたいことがあるからね。」と語っており、マーベル・スタジオは2010年に、「今回このような決定になったのは、金銭的な問題ではなく、『アベンジャーズ』の他の出演者たちと協調性や創造力を共にできる俳優がわれわれには必要だと考えたからです。」との声明を発表しています。
 どうやら今回の人選は、周囲との協調性を重視してのもののようですが、その甲斐あってか俳優同士の仲の良さがスクリーンの端々からにじみ出るような、チームの結束力の固さを納得させるできばえになっています。
 パンフレットにおけるメインキャラクターのインタビュー記事を読んでも、皆、撮影中とても仲が良かったことを語っています。ホーク・アイを演じたジェレミー・レナーは、撮影中の面白かった出来事として、劇中、アベンジャーズが一堂に会して全員が円を描くように集まるシーン(予告篇のなかでも見られるシーン)について、次のように触れています。
「それぞれがトレードマークのファッションを身につけた姿でピストルとか弓とかの武器を持ってキメキメのポーズで構えている中で、ハルクを演じたマーク・ラファロだけがパジャマを着て、”ウガーッ!”とか言っているんだ。スリッパを履いてさ(笑)。もう、おかしくて、おかしくて。笑いをこらえるのに、みんな苦労してたんだよ。」

 そんな楽しい撮影現場ですが、ブルース・バナーその人に思いを馳せると、深い悲しみの思いに囚われます。今のところ、わたしは本作とはストーリー面で関連性のない、エリック・バナが主役を演じた「ハルク」しか鑑賞していないのですが、キャプテン・アメリカを生み出すためのスーパー・ソルジャー計画の血清を再現しようとして実験失敗し、緑の巨人に変貌して軍に追われる身になるという悲劇的な設定についてはネットで調べたので知っていました。怒りの感情が高まると変身してしまい、そのあまりに巨大な力のために制御不能に陥ることから、本作では、序盤は自分で自分の力を恐れ、インドの片田舎で地元の人たちの病気を診る医者として登場します。
 ここにシールドの指令を受けたブラック・ウィドウが勧誘のために現れ、一計を案じるのですが、「Just you and me.(ここにはあなたと私の2人しかいない)」などと言いながら、小屋の周囲は軍隊が取り囲んでいるし、協力要請されたから仕方なく空中要塞に行ってみれば、いざというときにハルクを殺すための特別室まで用意されているし(劇中ではロキを閉じ込めるために使っていますが、もともとハルク制圧用の部屋ですよね)、シールドのやり口といったらひどいものです! それよりも何よりも、あの人間兵器のようなブラック・ウィドウでさえ、ブルースを見るとき、ひどく怯えた様子を見せることがあるのですが(ハルクが暴れだしたら、いかにブラック・ウィドウといえどもひとたまりもありませんからね)、そういった表情や視線のひとつひとつがどれほどブルースの繊細な心に悲しみを与えているかと思うと胸が痛みます。
 空中要塞がホーク・アイの攻撃を受けて、ブルースとブラック・ウィドウの2人が高所から転落し、その衝撃でブルースがハルクに変身しそうになるシーンがあります。なんとか理性で感情を抑え込み、変身しまいと苦悶するブルース、しかしブラック・ウィドウの説得も虚しく変身が進み…完全にハルクになる寸前、一瞬、ブルースがブラック・ウィドウを見つめます。その悲しい、悲痛な、傷ついた黒い瞳。このときのブルースの目が、表情が、わたしの胸に突き刺さって何日も何日も棘のように悲哀の痛みを訴え続けたのでした。なんという目をするのでしょう、マーク・ラファロは演技の天才ですね! ブルースの心中を語るのに、これ以上の表情はないでしょう。
 空中要塞で大暴れした後、地面に墜落し、のちにブルースは自発的にアベンジャーズの仲間のもとに向かい、世界を救うための戦いに加わります(ものすごく緊迫したシーンに原チャリみたいなバイクでトコトコ現れるブルースには愛を感じずにいられません!)。最初に本作を見たときは、パワーを制御できないから変身を恐れていたはずのブルースが、最終戦ではハルクに変身した後もある程度の理性を保っていられる理由がよくわかりませんでした(感情を抑えきれず?ソーを殴り飛ばすときもありましたが!)。
 しかし、よく考えてみると、最終戦ではブルースは「自らの意志で」変身しているのです。自身が危うくなったり、痛い目に遭ったりして、変身しまいと抵抗しているのにどうしようもなく変身するのではなく、仲間とともにみんなを守るために力を使うんだという意志を持って、自ら変身するのです。ここが大きな違いではないでしょうか。だからこそ、最終戦でのハルクはまさに天下無双で、その暴れっぷりは他の追随を許しません。神でさえパン種か何かのようにピッタンパッタン打ち付けられ、後は竈に入れてこんがり焼きあげるだけといった勢いです。:)
 ロキと戦うときは、ハルクの姿で言葉をしゃべってもいますし、社長(アイアンマン)を助けるときも心配そうに容体を見守っています。ハルクの姿であれほどに暴れて、かつてないほどの火力を発揮しても、ちゃんと人間性を保ったままです。
 わたし独自の見解として、まるでハルクは「インナー・チャイルド」のようだなと感じました。人は誰しも心のなかに、内なる子供といわれる部分を持っており、この子供の部分が潜在意識との融合を手助けしてくれるという考え方です。人がインナー・チャイルドの存在を無視したり、封じ込めたり、抹殺したりせず、存在を認めて愛情を注いでやれば、潜在意識から汲み上げる想像を絶する大きなパワーを得られるのです。
 ブルースは、ハルクの存在を封印し、その存在から逃げよう逃げようとして、いわば引きこもりのような生活をしていました。しかし、ハルクの存在を認め、ハルクを全面的に受け入れたとき、そのパワーはよりグレード・アップし、本当の意味で自身と一体となったのだと思います。もとより一体だったのです。今までは自分で切り離していたというだけで。
 ハルクはブルースの「怒り」の象徴でもあると思うのですが、怒りのパワーは、憎しみや恨みとは全く異なる、生きていくのに必要なパワーです。自然の衝動として湧きあがったものを、「悪いもの」と位置付けして封印しようとするから、様々な問題が生じていたのだと思います。当然、そこにあるものだと受け容れて、認めて、そのパワーを得る…今後のブルースが人間的にどう変わっていくのか、次作にも期待です。
 ブルースの姿のときの、ちょっとシャイな、繊細そうな風情にとても好感を抱いているので、ぜひともマーク・ラファロに続投を願いたいところです!

参考記事
http://www.cinematoday.jp/page/N0045018
http://www.cinematoday.jp/page/N0041305

 

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