バクマン。 | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「『進撃の巨人』も一巻の終わりで主人公が食べられています。」



本作は、「週間少年ジャンプ」の三大原則である「友情・努力・勝利」を骨格に構成されている。

そして、とてつもなく大きな「漫画愛」と、「何か」を生み出す苦労、「何か」を創造する楽しさ、「ゼロ」から構築されていく「芸術」が誕生する瞬間、そして、週間少年ジャンプの三大原則である「友情・努力・勝利」で構成され、それゆえに全編にポジティブなパワーとエネルギーが溢れ、120分間、心の底からワクワクさせられる。

これは「成功」と「恋」を掴み取るために、ジャンプでの連載を目指しながらライバル達と戦い、そして「仲間」と手を取り合いながら人生を突っ走る文系青春映画。

『DEATH NOTE』の「原作・大場つぐみ/作画・小畑健」コンビによる、単行本計20巻、「週刊少年ジャンプ」に約4年にわたり連載された漫画の実写化作品。

本作の物語は「ジャンプの歴史」と密接に関係している。

ジャンプの歴史は古く、1968年に「少年ジャンプ」として月2回刊誌で創刊され発行部数「10万5000部」でスタート、翌1969年より週刊となり「週刊少年ジャンプ」に改名、伝説が始まる。

それからのジャンプは数々のヒット作を生み出し、1971年に発行部数「100万部」突破、1978年に「200万部」突破、1980年に「300万部」突破、1984年に「400万部」突破、1988年に「500万部」突破、1990年に「600万部」突破、そして1995年に「653万部」という驚異的な「漫画雑誌最高発行部数」を記録し黄金期を極める。

そして現在に至るまで、ジャンプの中で生まれた多くの作品たちは、アニメ化され、それらは海外に渡り、世界の幅広い世代に愛され、多くの国の子供達やコミックアーティスト達に今も多大なる影響を与え続けている。

創刊時、各出版社から続々と売り出され始めた漫画誌の中でスタートが出遅れたジャンプは、後発の少年漫画誌として当時の「人気漫画家」を確保出来なかったため、連載作家のほぼ全員を新人で揃えることになった。

それから新人作家を積極的に登用するスタイルになったジャンプは、その方針を週刊少年漫画雑誌で最大部数を誇るようになってからも続け、現在でも新人育成に力を入れている

その中で「編集者」は、漫画家や作品の担当を割り当てられるが、ジャンプには「担当編集者に全て任せる」という伝統があり、編集の方法にマニュアルは存在せず、担当している漫画家と一緒になって作品作りを行い、漫画の方向性や内容にも影響を与える大きな力を持っている。

そして、有名な「アンケート至上主義」と呼ばれているシビアな方針がある。

それは「読者アンケート」を参考にして編集の方針を定めることで、それによる評価は作家の実績や経歴に関係なく平等に適用されるため、一世を風靡した作家でもアンケート結果が悪いと打ち切られる場合もある、というシビアさ。

読者アンケートの上位であるほど誌面の前面に掲載される傾向にあり、逆に人気の低下した連載作品は容赦なく「打ち切り」の対象にされるため、漫画家の間で連載枠を巡る激しい生存競争が我々読者の知らない所で毎週起きているのだ。

それは「アンケート2位以下の作品は全て終了候補」とも言われるくらいの厳しい世界なのだ。

それを踏まえると、1976年に始まった『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が現在も最長の連載記録を更新しながら、約40年もの長い間過酷な生存競争をくぐり抜け、勝ち残り続けているという事実に改めて驚かされる。

そして「アンケート至上主義」は、逆に言えば、どんな新人であっても連載が始まればベテラン勢と同じ土俵で「対等に戦える」という事にもなる。

『バクマン。』のテーマはそこにある。

本作「実写版」は、まずは「週刊少年ジャンプ」栄光の歴史を、誰もが知っている過去から現在までの人気漫画の名場面でコラージュし「映画ならではのスピード感」で紹介する。

このパワフルなオープニングから圧倒され、そこで本作には、世代を超えて愛されている王道誌の圧倒的パワーが継承され、隅々にまで詰まっている事が判る。



「人真似じゃない、君たちだけの王道漫画を描いてほしい。」



ジャンプでの連載を目指し、「アンケート至上主義」の厳しさをくぐり抜け、アンケート1位を目指して共に奮闘する2人を演じた「佐藤健」と「神木隆之介」の『るろうに剣心』以来の共演とその化学反応は、ライバルである「新妻エイジ」を憎々しくコミカルに演じた「染谷将太」のハマりっぷりも相まって、眩しいくらいの火花が連鎖爆発している。

それを踏まえて「剣心vs宗次郎」の漫画の1コマもサラリと出てくるサービス精神まである。

「真城最高=サイコー」と「高木秋人=シュージン」のコンビが、藤子不二雄の傑作自伝漫画『まんが道』を現代的スタイルで蘇らせる。

そして、めくるめくジャンプ流「友情・努力・勝利」のエッセンスが、少年誌的スポーツ漫画orバトル漫画のように、圧倒的エネルギーで畳み掛けられる。

賛否両論あるであろう「アンケート至上主義」という精神は、ハリウッド映画のシステムにも似ている。

ハリウッド映画は多額の制作費を回収する為に手堅く「大ヒット」が目指される。

そのため公開前に、映画の題名・内容・監督・出演者などを一切知らせず「スニークプレビュー」と呼ばれる「覆面試写会」を行い、鑑賞後の観客から集めたアンケート結果を元に編集や撮り直し、時には「結末」の方向性までもを180度変え、より作品を「大ヒット確実」なものへと近づけていく。

ジャンプの「アンケート至上主義」な制作システムは、ハリウッドメジャー大作映画のほとんどの作品でも実施されているのだ。

そのため、「商業主義」とも言えるハリウッドメジャー大作が芸術的に評価されない、低く見られるという傾向にあるが、それは漫画界も映画界も同じだという事が本作で改めてよく判る。

「売れる」こと、「万人に受ける作品を作る」ことがいかに困難で、どれほどの努力と苦労とアイデアと、ライバル作品・作家そして「自分との戦い」の上で成り立っているか、どれほど命をかけて芸術を創造しているか、クリエイターへのリスペクトと、彼ら創造主の「魂」が本作には溢れている。

そんな本作に「魂」を込めた役者たちも皆素晴らしく、『渇き。』で強烈な印象を残した小松菜奈の儚い雰囲気、『モテキ』から続投のリリー・フランキー、「水木しげる」を演じた映画版『ゲゲゲの女房』と同じく漫画家役である宮藤官九郎、そして、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時らが演じる「手塚賞」の受賞パーティで出会った強烈な個性のマンガ家たち=「戦友」が集まる場面は「トキワ荘」さながらの雰囲気で、映画『トキワ荘の青春』のマンガ家たちの宴会シーンへのオマージュとなっている。

その場面には、トキワ荘で好んで飲まれていた焼酎のサイダー割り「チューダー」までもが置いてある隙の無さ。

そのライバルだった漫画家たちが手を取り合い、少年誌的「チーム感」で逆境を乗り越える展開は、これぞ「王道漫画」と言える名場面で熱い。

そして本作には原作漫画と同様に、「集英社」や「週刊少年ジャンプ」などを筆頭に、SLAM DUNKの安西先生ネタ、「ゆでたまご」や「江口寿史」が描いたサインが飾ってある仕事場、「尾田栄一郎先生の家には~」というセリフなど、星の数ほど無数に散りばめられた「漫画にまつわる固有名詞」が実名で登場する。

そして、今まで週刊少年ジャンプの歴史を支えた多くの名作たち・・・『サーキットの狼』『マジンガーZ』『ど根性ガエル』『聖闘士聖矢』『ヒカルの碁』『ストップ!ひばりくん』『ウイングマン』『Dr.スランプ』『ついでにとんちんかん』『キン肉マン』『究極!!変態仮面』『キャプテン翼』『北斗の拳』『SLAM DUNK』『ろくでなしBLUES』『銀牙-流れ星銀-』『HUNTER×HUNTER』『ジョジョの奇妙な冒険』『ONE PIECE』『シティーハンター』『るろうに剣心』『燃える!お兄さん』『NARUTO』『ドラゴンボール』『BLEACH』『ハイスクール!奇面組』『よろしくメカドック』『銀魂』『キャッツ・アイ』『シェイプアップ乱』『きまぐれオレンジ☆ロード』『魁!!男塾』・・・・・・などへのリスペクトが、入り切らないほどギュッと込められている。

それどころか、過去に存在する「全ての漫画」そして「全ての漫画家」にオマージュを捧げた作品でもある。



「ジャンプの匂いがする!!」



実際の風景にCG映像を投射する「プロジェクションマッピング」の手法を取り入れた「作画」の場面は、同監督のドラマ版『モテキ』第一話オープニングの「影絵」を発展させた巧いアイデアで画期的。

普通なら退屈でしかない「作家が机に向かっている」という地味な場面を、180度逆に振り切って観客をドキドキさせ興奮させるという発明は、恐らく映画史に残るだろう。

プラス、アドレナリンやオキシトシンなどの「脳内麻薬」が出まくっている状態の鬼気迫る「作画中の漫画家の脳内」からの「バーチャル漫画バトル」炸裂の場面は、まるで実写版『ピンポン』や『マトリックス』の如く、見たことも無いぶっ飛んだセンスで表現され、目眩がするほどに弾け、クラクラする程に突き抜けたカタルシスが凄まじい。

その場面は、原作の作画「小畑健」の言葉「マンガを描くのは地味な作業だが頭の中では凄い事がスパークしている」を元に、芸術を生み出している漫画家の「脳内」がリアルタイムに表現されている。

ちなみに、映画では登場しなかった原作の劇中漫画が描かれるラストシーンの「黒板の絵」を含め、劇中漫画『この世は金と知恵』とエイジ作『CROW』の原稿、「亜豆」のラフスケッチなど、実際に「小畑健」自身が本作のために50枚ほどの原稿を描いている。

主人公の漫画家コンビを担当する編集者「服部」は、映画版スタッフがジャンプ編集部に取材に赴いた時に出会った漫画版『バクマン。』の2代目担当編集者だった「門司健吾」をモデルに、大根仁監督により脚本執筆段階で「山田孝之」にあて書きされた。

この「服部」というキャラクターは、ジャンプに配属されて間もなく、「まだ連載も立ち上げたことがない編集者」という裏設定があり、山田孝之は劇中、モデルになった「門司健吾」が実際に編集部で着ていた「ドムTシャツ」を着用している。



「天才じゃない俺たちは、邪道で勝負するんだ。それが俺たちの博打だろ。」



劇伴および主題歌『新宝島』を手がけた「サカナクション」も監督直々のオファーで参加し、素晴らしいスコアの数々を各場面で刻んでいる。

監督の前作『モテキ』で驚かされた「YouTube風エンドロール」をさらに超える驚きと感動がある本作の「本棚の単行本エンドロール」は、パッと見にはフェイクと気付かないくらいのクオリティで、あまりの自然さと歴史の深さと「漫画愛」に涙が溢れる。

長い歴史のあるジャンプには、こんな有名なエピソードがある。

2011年3月11日に発生した東日本大震災で印刷工場が被災し、3月14日発売のジャンプ15号が被災地を中心に大幅な遅れや未配送となったため、緊急措置として「Yahoo! JAPAN」特設サイトで無料配信される。

その後、物流が混乱し被災地で新刊が入荷未定の中、仙台市の書店に、山形県まで買出しに行った男性客から16号が寄付され、募金箱と共に「少年ジャンプ16号読めます」との貼り紙を出したところ、停電や未配送により最新刊を読むことが出来ない多くの子供たちが、何週間も募金して回し読みをしたそうだ。

この出来事を知った集英社は、回し読みされた16号を引き取り額装して編集部に保管し、少年たちの募金約4万円は仙台市教育委員会に贈られる。

回し読みされた16号は「あの少年ジャンプ」として、2012年に「手塚治虫文化賞」で特別賞を受賞した・・・。

時に「漫画」は、人を元気にさせ、勇気づける。

子供たちに夢と希望も与えてくれる。

恐らく、ジャンプに込められた精神「友情・努力・勝利」は、長い歴史の中で、多くの人々を笑顔にし、励まし、支えてきたのだろう。

本作は、「文才の無い絵描き」と「絵心の無い文才」が、お互いの「足りない部分」を補いながら2人で大きな「壁」にチャレンジする。

誰もが無理だと思った、大きなチャレンジ。

本作には、とてつもなく大きな「漫画愛」と、「何か」を生み出す苦労、「何か」を創造する楽しさ、「ゼロ」から構築されていく「芸術」の素晴らしさ、「友情・努力・勝利」というポジティブなパワーとエネルギー、一途な想い、好奇心、ワクワク、笑顔・・・そして大きな困難に「チャレンジする勇気」を、本当にたくさん貰える。



「マンガは、読者に読んでもらって初めてマンガなんだよ。」