新しき世界 | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「おいブラザー、苦しんでるみたいだな。そんなに悩むな。この辺で選べ。」



恋愛スキルが低い者にとっては心が震える『イニシエーション・ラブ』で描かれた痛烈な「恋愛通過儀礼」の様に、本作は闘争本能スキルが低い者にとっては足が震える、社会の裏側の「暗黒通過儀礼」を痛烈に描いている。

人は、誰かに「愛されている」ことを武器に「言いたいこと」を言え「やりたいこと」をより行える様になる。

だから逆に、誰かを「愛する」ということは、誰かに「武器を渡す」という事にもなるのだ。

本作は、誰が誰にその武器を渡し、誰がその武器を使うのか、一瞬たりとも目が離せない。

愛し愛される者たちの、一触即発のヒリヒリした緊張感が永遠に感じられるほど気の抜けない134分。

韓国最大の犯罪組織に潜入捜査して8年がたつ警察官の男は、組織のナンバー2である兄貴とお互いに絶大な信頼を寄せ合っている事と同時に、組織自体を裏切っていることに今や複雑な思いを抱く様になっている。

だが、この「世界」を変え、この「世界」から脱出するためには、本来属している警察の命令に従うしかなく、引き裂かれ始めた自らの「心」に葛藤する日々を送っている。

そんなある日、犯罪組織のリーダーが急死し、壮絶な後継者争いが始まる。

警察はその機に乗じて、組織の壊滅を狙った「新世界」という名の危険な作戦を潜入捜査官に命じる・・・。

本作は、韓国で470万人を動員した大ヒット作で、ボーヌ国際スリラー映画祭審査員賞、シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭フォーカスアジア部門最優秀作品賞、釜日映画賞主演男優賞、大鐘賞音楽賞、青龍映画賞主演男優賞など多くの賞を受賞した。

大海原で荒波に翻弄され漂流している「脆い筏」のような、主人公の「アイデンティティ」を追い求める長い旅路は、義兄への情と、義父への忠誠の間で、いま激しく揺れ動き始めている。

子供取り違え事件による苦悩を乗り越え、最終的に「血=血縁」よりも、一緒に過ごした「時間」を選んだ『そして父になる』の主人公の様に、本作も「血=流血」と、一緒に過ごした「時間」という究極の選択を迫られる人物がいる。

その人物の「選択結果」により、多くの人物の運命が変わり、本来の運命とは別の「生と死」が生まれ、誰もが予想しなかった新たなる世界が誕生する。

彼は、最愛の存在から「自分の人生は自分で選べ」と言われ、重い十字架と強い意思を得て、イバラの道とイバラの道という過酷な2つの道から、自らが進むべき「道」を、自ら選ぶ。

最愛の存在から許され、最愛の存在を許し、最愛の存在から「強制」されずに「自らの意思」で自らの人生を選ぶ。

誰よりも深い、人と人との「絆」が、人生という名の「世界」を大きく変える。

人は「愛する者」から「受け入れられる」と、計り知れない「自己肯定感」を手に入れる事ができる。

人は、誰かに「愛されている」ことを武器に「言いたいこと」を言え「やりたいこと」をより行える様になる。

6年前、2人で吸おうと思った煙草の火は、オイル切れの使い捨てライターのせいで着かなかった。

全てを失い1人になった今、高級ライターで煙草に火を着ける・・・。

彼が窓から見下ろす「新しき世界」には、この先多くの「新しき苦悩」と「新しき選択」が待っている。

他者の「全ての過ち」を許し、自分の「全ての過去」を捨て、新たに踏み出した「暗黒の新しき世界」には、まだ下されていない思いもよらぬ「審判」が彼を待ち構えているだろう。

そう、彼も知らない、彼の「正体」を知る人物が、まだ一人、生き残っている・・・。



「強くなれ兄弟。生き残るんだ。」